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第2話:眠れないフラクタル
🌙 シーン1:眠れぬ少年
夜の碧診区。照明は抑えられ、碧素灯だけが静かにゆらめいていた。
処置室に搬送されてきたのは、少年――名はリョウカ。
細身の身体、乱れた前髪の奥に、碧素リングが淡く光っている。
彼は一言もしゃべらず、ベッドに横たわるが、目はぎらつき、何度も瞬きを繰り返していた。
「診断結果:記憶欠損フラクタル障害。睡眠と記憶のリンクが破綻しています」
メディすずかが静かに状況を伝える。
ユレイは腕を組み、傍らに立つ白衣の少女に目を向けた。
「ナミコ、出番やで」
🍲 シーン2:食で眠りを誘う
調理室。ナミコは診療用のフラクタル食ユニットを操作し、素材を取り出していた。
ミントに似た香りの**“碧眠草”と、炊いた碧素米、そして脳波安定成分を含む甘碧豆(あまへきまめ)**。
「この子、怖い夢ばっかり見てる感じがする。やから――やさしめに」
彼女は笑顔で、いつものようにフラクタルコードを詠唱した。
《FRACTAL_COOK_MODE=COMFORT》《TRACE=SAFE_DREAM》
《BOND=SOFT》
できあがったのは、甘くやわらかい“夢粥(ゆめがゆ)”。
香りは母の胸元のように包み込むやさしさがあった。
🛏️ シーン3:眠るという治療
ベッドに運ばれた粥を、すずかAIがスプーンで一さじ取り、少年の唇にそっと近づけた。
「リョウカ君、これは“夢を見るためのごはん”です」
少年は動かずにいたが、やがてゆっくりと首を動かし、一口だけ、食べた。
その瞬間、碧素リングがかすかに光を帯びた。
ユレイが杭に手を当て、睡眠誘導フラクタルを発動。
《SLEEP_TRACE=STABILIZE》《EMOTION=QUIET》《MEMORY_LINK=HOLD》
杭の上に淡い光が灯り、リョウカの瞳がゆっくり閉じられていった。
🤍 シーン4:小さな安心
「……眠ったな」
ユレイが静かに呟き、ナミコはほっと息をついた。
「ね。眠るって、大事やもんな」
すずかAIは、その様子を記録しながら、ゆっくりとした声で言った。
「夢とは、記憶の碧素を巡らせる静かな時間。いま、それが始まりました」
眠ること。それもまた、回復への大切な一歩。
そしてその一歩は、あたたかいひと皿から始まる。