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第3話:分裂した声
🌀 シーン1:ふたりでひとりの来訪者
診察室の扉が開いた。
入ってきたのは、濃い碧色のフードを被った少女。
年齢は14〜15歳ほど。瞳の色が左右で異なり、声はそのたび微妙にトーンが違った。
「こんにちは……私はハル。よろしくお願いします」
一礼の直後、声が変わる。
「ふん、別に診てもらわなくても困らないし。暇だから来ただけ」
ユレイはカルテを見ながら、顔を上げた。
「……“ライフカード分裂症”か。人格ごとに記録領域が別れてる。厄介やな」
メディすずかが補足する。
「現在確認済み人格は4つ。フラクタル発動コードも各人格で異なります」
🧩 シーン2:観察と対話
少女は椅子に座ると、しきりに身体を動かしながら話し出す。
声色、仕草、話す内容――全てに明確な差異があった。
ユレイは杭に手を当て、全人格のフラクタル発動記録を表示させる。
《TRACE=PERSONALITY_SLOT》《CODE_VARIANCE=ACTIVE》
《PATTERN=4》
「コードも、感情のリズムも全部バラバラや。……けど、どれも“守る”って内容を持ってる」
少女はふと黙り、ぽつりと呟いた。
「……どれが本当の私なのかわからない。みんな、私を“代わり”にしようとする」
ユレイはゆっくりと杭に別コードを組み直す。
《FRACTAL_MERGE_TEST》《MEMORY_TRACE=ANCHOR》《EMOTION=ACCEPTANCE》
🫂 シーン3:繋ぎ合わせる言葉
杭の上に、淡い光が波紋のように広がる。
ユレイは少女の手に、もうひとつのライフカードを差し出した。
「これ、お前の“統合試験用”カードや。……どの自分でもええ。一緒に、ひとつの名前を呼んでみぃ」
少女は震える声で、「ハル」と呟いた。
その瞬間、複数のフラクタルコードが重なり合い、一本の音に変わる。
《CODE SYNCHRONIZATION=STABLE》
光がふわりと収束した。
「……あったかい。全部、自分だったんだ」
ユレイは目を細めて頷いた。
「そうや。全部お前の“声”や。……なら、それをひとつずつ聴いていけばええ」
🤖 シーン4:見守るAIと明日へ
メディすずかが処置を終えて静かに記録を残す。
「記録完了。全人格コード、安定段階へ移行」
ハルは小さな笑顔で頭を下げた。
「また……来てもいいですか」
ユレイは微笑んで答えた。
「来るたびに、いろんな“お前”と話そか」
“自分を知る”ということは、ひとつずつ声を拾っていくこと。
その声が重なったとき、きっと本当の自分になる。