テラーノベル
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母に連れられて
初めて精神科を受診した日。
白い壁と、消毒液の匂いしか覚えていない。
診察室で聞かれたのは、
「最近寝られてる?」
「ご飯は食べてる?」
どの答えも、曖昧に“普通”を装った。
数日後――
リビングの端、なぜか無造作に
置かれていた封筒。
『診療情報提供書』
何気なく自分の名前を見つけ、
手に取って開いてしまった。
「気分持続性抑うつ障害」
「発達特性による社会適応困難」
「家族関係における緊張と葛藤」
カルテのコピーに並んだ
専門用語と“障害”の文字。
眩暈がした。
「障害」
母は説明しなかった。
先生だって、ちゃんと言ってくれなかった。
自分だけが知らないまま、
“こわれもの”として管理されていた。
怒りが込み上げた。
家族にも、学校にも、友達にも――
誰も、本当の言葉で
向き合ってくれなかった。
自分の苦しみは「弱さ」や「怠け」にされ、
「もう期待しない」と思い始めたところで、
こうやって
“障害”
という名前を勝手に貼りつけられる
だけだったのか。
今までの“普通”や“きっと大丈夫”という言葉、
全部嘘だったのかもしれない。
あの時、何度も助けてと
手を伸ばした自分に、
ただの励ましや無関心しか
返してこなかった彼らが憎い。
自分の“名前”や“未来”を、
勝手にラベルで塗り潰した大人たちも憎い。
「障害者――」
その響きが、これまで積み上げてきた
“自分”を
一撃で否定する呪いのように感じられた。
紙を手に、震える手で膝を抱えて、
胸の内側が激しく熱くなった。
涙でもなく、
ただ純粋な怒りと悲しみだけが、
奥底からふつふつと噴き上がってきた。
小さく丸めたカルテの紙が、
膝の上でぐしゃりと音を立てた。
コメント
2件
一言でいいます、 🥀ちゃん、あなたは天才です。 そして、うちも障害持ちだから、わかります、クロノアさん、だから、怒らないでぇぇーー!