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Side 樹
屋上はそよ風が吹いて心地いい。
それぞれの病気を知ったあと、隣に座る京本に訊く。
「入院ってさ、どんな感じ?」
京本は少し苦笑して、
「つまんないよ。心電図にはずっと繋がれてなきゃいけないし、発作起こしたらベッドから動いちゃダメって言われる。田中くんは入院したことないの?」
うん、とうなずく。
「薬ちゃんと飲んで激しい運動しなかったら通院でいいって言われたから。院内学級もほとんど小中学校しかないし、単位取れなくなったら嫌だし……っていうか、京本はそっち大丈夫?」
「俺の場合、それなりの配慮はあるらしい。でもテストとかちょっと多めにされるし」
その言葉を聞いて、眉をひそめる。
「うわ、ぜってーやべえじゃん。俺終わる」
京本は小さく声を上げて笑った。
そういえば、彼が笑ったのを始めて見た気がする。控えめで優しい、上品な笑みだ。
「あっそうだ、病院になんかかわいい看護師さんとかいなかった?」
俺のストレートすぎる質問に、京本がまた呆れたように笑う。
「まあ新人さんだとちょっとかわいいね。ってか田中くんは通院してるんでしょ? そっちで探せば?」
「いや見てるよ」
内容は少し違えど、どこにでもいる馬鹿な男子高校生みたいな会話を交わす。
「っていうか、別に俺のことくん付けしなくていいよ。名前でいいし、呼び捨てにして」
俺は言う。京本はちょっと戸惑ったように、
「じゃあ…樹、ってこと?」
「うん。…大我」
そう呼んでから、違うなと首をひねる。
「なんか大我って感じじゃないんだよな…」
なんで、と彼は笑う。
「京本…大我…」
あっ、と思いついた。「きょもだ!」
「きょもぉ…?」
少し訝しげな顔をする。「ふふ、まあいいよ。じゃあそっちは…」
「いや樹でいいって」
束の間の笑い声が響いたそのとき、きょもが乾いた咳をした。「ケホッ、ケホ…」
「おっと…大丈夫?」
うん、と答えるその声は弱々しい。
「そろそろ戻ろっか。身体に毒だし」
俺は背中をさりげなく支え、屋上を出る。
たぶん高校生じゃなくて高齢者ぐらいの速さで、ゆっくりと階段を下りる。
「どうする? 一応保健室行こうか」
2人で保健室に顔を出すと、養護教諭は少し驚いて、にっこり笑う。「仲良くなったね」
そして隣同士のベッドに横になる。ふう、と息をついた。
「今度、調子がいい日にさ、どっか遊び行かね?」
俺が提案を持ちかけると、きょもは楽しそうにこっちを見た。
「いいね。でも、た…樹にはもっと友達いるでしょ」
俺は少し言葉に詰まる。
「あいつらとは……もう一緒にいられない。俺が置いてかれるばっかだし」
だから、と横に目を向ける。
「きょもと一緒にいたい」
彼は、その優しくて綺麗な目を細くした。
「くれぐれも近場でね? あんまり無理しちゃダメよ」
と養護教諭の声が飛んでくる。
「わかってるって、先生。大丈夫だから」
「京本くんが言うともっと説得力あるんだけどな…」
俺がかつての仲間に対して感じるようになった劣等感は、きょものおかげで拭われた。
そう、今の俺には、こいつがいる。
続く