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「……では、内容に差し支えなければこちらに
署名を」
帝都・グランドールの王宮―――
その中でもかなりグレードが高い一室。
皇帝・マームード他重鎮が見守る中……
トジモフ外務大臣が書類をテーブルの上に置き、
対峙する面々に差し出す。
「はい」
「わかりました」
「承諾する」
ウィンベル王国から前国王の兄―――
ライオネル・ウィンベルが、
新生『アノーミア』連邦の宗主国、マルズの
代表としてエンレイン王子が、
そして魔族領のトップ、魔王・マギアが、
それぞれ提出された書面に名前を書き込む。
「……これでそちらの大陸各国・各種族と
我がランドルフ帝国の間に国交が締結
されました。
我が帝国での正式な発布は、およそ1ヶ月ほど
先になるでしょうが―――
現時点を以て同盟及び交易は有効と
なります」
ロマンスグレーの初老の大臣が、六十代と
思われる皇帝陛下に向き直り、
「陛下、これで国交は樹立されました」
その報告にマームードは立ち上がり、
「大儀であった。
今後、双方に取って永らくの友好と
共存・繁栄を願う」
その言葉に、海の向こうの大陸から来た三人は
一礼し……
ようやく目的を達成した安堵感に包まれた。
「おお、遂にですか!
お疲れ様でした」
合同待機部屋に戻って来た三人から報告を受けた
私は、彼らに労いの言葉をかける。
今回の目的である国交樹立が成され―――
詳細はこれからだが、交易や定期的な交渉、
交換留学、合同軍事演習など……
いずれにしろ『話し合う』目途が立ったのだ。
「やっと肩の荷が下りたぜ」
白髪の混じったグレーの短髪をかきながら、
ライさんが大きく息を吐き、
「マルズ及び新生『アノーミア』連邦は、
マルズ帝国時代からの死文化した条約が
ありましたので、そこで少々手間取り
ましたが」
「あなた、お疲れさま」
エンレイン王子様の隣りにはヒミコ様が、
「何はともあれ、無事に締結出来て良かったぞ」
「お役目、お疲れ様にございます」
「後はゆっくりとお休みくださいませ」
マギア様の両隣りにはイスティールさんと
オルディラさんが座って苦労をいたわる。
「後は帰るだけかー」
「もうかれこれ二十日ほど滞在しておるしのう。
それはそうと……
正式発表するまでここにいなければ
ならぬのか?」
「ピュウ」
私の家族―――
メルトアルテリーゼ、ラッチが今後の事について
話すと、
「いや、それは帝国の都合だしな。
それに出来れば、国交樹立の発表までに
『保護』している連中を帰らせてやりたい。
そっちの方がこちらの『イメージ』は格段に
良くなるだろうし」
そういえば向こうにグランドールの兵士たちを
『保護』したままだったなあ。
そして国益・打算とセットで考えている
ところは、さすがに前国王の兄というか……
「あ~良かったぁ。
あと1ヶ月もここにいなけりゃいけないのかと
思ったよぉ」
人魚族のスクエーアさんが移動式水槽の中で
尾びれを伸ばし、
「まあまあ。
今は『ゲート』も出来ていますし、帰ろうと
思えばすぐに帰る事が出来るのでは」
ロック・タートルのオトヒメさんが彼女を
なだめる。
「いやまぁ、それなんだが今回の帰国には
使えないぞ?
さすがに船で来たっていうのに―――
帰りの船に乗る姿が見えなかったって
いうのは、後々いらぬ疑惑を生むし、
それに『ゲート』自体極秘なんだ」
確かにしょっちゅう使われても困るか。
それに瞬時に海の向こうまで行ける移動手段
なんて……
他国に知られたら別の火種になりそうだし。
「えぇ~……
また船に乗らなきゃいけないんですか」
「エイミ姉さま、泳いだ方がマシって
言ってましたからね」
ライオネル様の言葉に、ラミア族のエイミさんと
専属奴隷のアーロン君が不満気な表情となる。
「ぶーぶー。せっかく作ったのに使えない
なんて~」
フィリシュタさんも文句を言うが、
「地上には地上の事情があるのだ。
それにそもそも、お前たちは『ゲート』でしか
帰る事が出来ないのだから関係ないだろう」
「あはは……」
魔王様のツッコミに、魔界王の秘書官である
ミッチーさんが苦笑する。
「それで、いつ帰るんだべ……でしょうか」
獣人族のボーロさんが今後の事について
たずねると、
「数日はかかるでしょう。
たぶん3・4日の内だと思われますので、
何か用事があればそれまでに」
中性的な顔立ちの王子様がおおよその予定を
答え、
「では私は今一度、ここのワイバーンたちに
あいさつしてきます」
彼の妻(予定)である、抜群のプロポーションの
女性が希望を話す。
「そういや、他に人外や亜人の人がいたら、
冒険者ギルドに顔を出して欲しいって
言ってましたよ」
「こちらの本部長……
ベッセルさんでしたっけ。
戦い方に興味があるらしくて」
魔狼夫婦のケイドさんとリリィさんが、
先日お世話になった冒険者ギルドの要望を
伝え、
「水中っておっけー?」
ブルーパープルのウェービーヘアーをした
人魚族の女性が聞き返す。
「多分大丈夫だと思いますよ。
ベッセルさんの魔法―――
自分だけの世界なら、
たいていの環境を再現出来るでしょうし」
私がその質問に答えると、ふむふむと
エイミさんやオトヒメさんもうなずく。
「私たちはどうしよっか?」
「正直、あちこちでいろいろとあった
からのう」
「ピュウ~」
私の家族、童顔のアジアンチックな人間の妻と、
モデル体形のドラゴンの方の妻が聞いてくるが、
「あー……
出来ればシンたちはここでスタンバイ
してくれると助かる。
また土精霊様のような事が起きるかも
知れないしな」
ライさんの言葉に、エメラルドグリーンの瞳の
少年が顔を赤くしてうつむく。
「まあそうですね。
それに、お土産の整理もしないと」
「魔導具も結構あったよねー。
それもスゴイやつ!」
「あれは面白かったのう」
「ピュ!」
と、家族も居残りに同意し―――
大使館で持ち帰るお土産の選別をする事に
なった。
「『奴隷殺し』にカカオ、バナナ……
これはニンニクかな?」
翌日、朝から私たちはウィンベル王国に
割り当てられた大使館の一角で―――
ランドルフ帝国で入手したお土産を一つ一つ
確認していた。
果物は他にキウイやさくらんぼ、イチゴ、
野菜はほうれん草、カボチャ、ナス……
他さつま芋や山芋など、各地から集められた
食材はそれなりの量だ。
ただこれだけの規模の国にしては、甘味や
調味料が絶対的に足りていないと思う。
これは子供以外、食事が必須条件ではない
この世界共通の仕様だから仕方がないけれど。
そして私が農産物を仕分けしている一方で、
家族たちはというと―――
「ふぉおおぉ……!
いやこれホントすっごいわー」
「シンの言っていた、『びでおかめら』
というものか。
かような物があるとは」
「ピュー! ピュウー!!」
ランドルフ帝国の魔導具を見て触って、
その機能に感心していた。
アルテリーゼの言う通り、地球でいうところの
『ビデオカメラ』に一番近い存在。
それがこの国にはあった。
「音声と映像を記録出来る媒体―――
帝国の商人との商談で見せてもらった事が
あるけど、
(■182話 はじめての しょうだん
(らんどるふていこく)参照)
これが多分、お土産の中では一番高価だね」
大きなアタッシュケースのような形状で、
撮影する機材にいろいろな管がくっついている。
さらに再生・録画確認用であろう手持ちの
小さな画面と、また映画のようにスクリーンに
映し出す機能が備わっていた。
「でもびっくりしたのは、かなり前から
あるって言っていた事だよね」
「一番古いのは100年ほど前とか……
ただ、声と動く絵をかけ合わせたのは
ここ30年ほどの事だと聞いておる」
「ピュウゥ~」
あの時、商談でこれを求めた際に、私もそれは
説明を受けた。
何でも音声記録だけの魔導具なら、
300年以上昔からあり―――
地球よりもその歴史は古い。
だけどそれだけの伝統がありながら、
コストダウンや一般への流通は全く考えられて
いなかったようで……
まあ用途がお偉いさんの後世への戒めや、
宗教関係に限られていたとの事だったので、
そこはやはり地球とは事情が異なるのだろう。
と、そこへノックの音が響き、
「うおーい、シン。いるか」
「どうぞ、ライさん」
私の応答で、ライオネル様が部屋に入ってきた。
「そろそろ、マームード陛下に謁見に行くぞ」
「わかりました」
そう答えた後、私が家族に振り返ると、
「行ってらっしゃーい」
「最後の仕上げだ、ぬかるでないぞ」
「ピュイッ」
私は軽くうなずくと―――
ライさんと一緒に部屋を出た。
「よくぞ来た。
ここは本来、皇族以外誰も入れぬ部屋。
ここでの会話が外に漏れる事はない」
王宮の一角……
恐らくは最奥の位置にある部屋で、私と
ライオネル様は跪く。
見ると皇帝の傍らにはティエラ王女もおり―――
「余と彼女を指名したようだが……
それほど重大な話があるのか」
謁見をセッティングしたであろう、ライさんが
頭を上げて、
「はい。
この事は向こうでも、王族か各種族の
トップしか知らない秘中の秘であります」
「そ、そのような事をわたくしが知っても
よろしいのでしょうか」
痩身の、パープルの前髪を眉毛の上で
揃えた女性が困惑の表情を浮かべる。
「正確には各国・各種族のトップ……
それにここにいるシンの知り合いしか
知らない事です」
「シン、か。
ドラゴンを妻とし、料理や生活に革新的な
技術をもたらした『万能冒険者』―――
貴殿の話は亡命して来たムラトからも
よく聞いておる」
孫を助けてもらった事のある皇帝は、
直接その事には触れないながらも……
好意的な感情をシンに向ける。
(■180話
はじめての せんぞがえり参照)
「はい。
ところで陛下。
あちらの大陸での記録―――
『境外の民』についてはご存知でしょうか」
ライさんの質問にティエラ王女様は『知らない』
という表情になるが、マームード陛下はわずかに
うなずいて、
「新生『アノーミア』連邦の前身……
マルズ帝国にいた参謀の別称だな?
謎多き人物だったとは聞いておるが」
「『境外の民』というのは、別世界から来た
人間の事―――
異なる文化・技術・思想を持ち、
こちらの世界ではとうてい思いもつかない
能力を発揮する者です」
彼の答えに皇族二人はしばし沈黙した後、
「……では、シン。
貴殿がその参謀だというのか?」
「それなら、あの実力も納得ですが」
私は首を左右に振って、
「いえ、参謀ではありませんが―――
その人と同じく、別世界からこちらの世界に
来た人間です。
その際、神様からある『能力』を授かったの
ですが……」
そこで私は、この世界に来た経緯を二人に
説明し始めた。
「元の世界には無かった事を全て無効化出来る、
か―――」
「魔法や魔力が無く、魔物もいない世界から
来たとおっしゃいましたよね?
ならばシン殿には誰も太刀打ちできないと
いう事に……!」
さすがに皇族。
国のトップとして、まずその危険性から
指摘してくる。
「私の全属性の魔法弾すら、
彼の前では無意味でした。
以前こちらの大陸で、ハイ・ローキュストの
10万もの大群が出現し、各国・各種族連合で
何とか撃退する事が出来ましたが、
その裏でその3倍もの大群を1人で
退けたのが、ここにいるシンです」
(■117話
はじめての うらのたたかい参照)
そこでマームード陛下とティエラ王女様は、
目を大きく見開いて私を見る。
「いやいやいやっ!?
いくら何でも1人じゃ無理でしたよ!?
空を飛べるアルテリーゼやワイバーンの方々、
範囲索敵を使える人もいたから何とかなった
だけで―――」
私は慌てて訂正するも、
「それだけの力と実績があっても、それを
驕らず、か」
陛下が両目を閉じて感心したような
面持ちとなり、
「わたくしが敵うはずもありませんね」
「申し訳ありません。
何ていうか……インチキみたいな能力で」
微笑む彼女に私が頭を下げると、陛下は
片手を差し出すように挙げ、
「実はここ数日、貴殿が騒動に巻き込まれた事は
こちらでも把握しておった。
ただ貴殿が―――
『何も無かったという事にして欲しい』
と要望したそうなので、その通りにした。
恐らくは周囲や相手に責任が生じる事を
恐れての事であろう。
そなたが人格者である事は余にもわかる」
そこでいったん一息ついた後、皇帝は雰囲気を
変え、思わず硬直してしまう。
「とはいえ、余はこのランドルフ帝国の皇帝だ。
そなたらに問い質しておかねばならん。
この秘中の秘を話したのはなぜだ?」
私の喉にゴクリと音を立てて唾が
飲み込まれるが……
ライさんの方が先に口を開き、
「戦争回避です。
今回、そちらから来た船団を『保護』し、
友好使節を送ったのも―――
全てはそのため。
水中戦力を準備し、それをあえて公開
しなかった事……
魔界王に『ゲート』を作らせたのも、
戦を思いとどまらせるためです」
「確かに、『ゲート』の件では帝国でも意見が
割れに割れた。
だがあれで現実に気付いた者も多いであろう。
とても戦うどころではない、と」
あ、やっぱりそれなりに揉めたんだ、
と思っていると、
「ちなみに水中戦力も『ゲート』を作るのも、
発案はシンにございます」
「ちょっ!? ライオネル様!?」
すると皇族の二人の視線はこちらへ向き、
「むう……人格者と思っていたが、
意外と冷徹に判断を下せるのだな」
「シン殿はその―――
やる時は容赦の無いタイプですか?」
どう答えたらいいものかと困惑していると、
「あー、コイツは人畜無害な顔しながら、
しれっとえげつない事しますので」
「ライさーん!?」
なぜか味方がいない状態となり……
しばらく三方からいじられ続けた。
「はっはっは、すまぬすまぬ。
しかしこれほど笑ったのは久しぶりだ」
「いやあ、ハハハ……」
私が疲れたような声を返すと、ティエラ様も
ライオネル様も苦笑する。
「だが―――
その気になれば世界をも征する事の
出来る力……
逆にそれを戦争回避のために使われたのだ。
納得するしかあるまい。
他に何か希望があれば聞こう」
そこで私とライさんはいったん顔を
見合わせると、
「では―――
この国に亡命してきたアルトル・ムラトに
ついて少々お願いがあります」
「あの男に、ですか?
確かにわたくしも、彼には危機感を持って
いますが」
ティエラ王女様の言葉に今度はライオネル様が、
「いえ、別にぶっそうな話をするわけでは
ありません。
ただ、あの男……
新生『アノーミア』連邦から亡命する際、
過去の『境外の民』である参謀の記した
書物や記録を持ち出しているんですよ」
するとそれだけで陛下は全てを察したのか、
「なるほど。
やたら斬新な兵器や戦術を打ち出すと
思っていたが―――
それは『境外の民』の知識だったか」
「ですが、問題はそこではありません。
彼は恐ろしくその知識を理解しています。
設計思想や運用方法まで……
もし彼が新生『アノーミア』連邦で
重用され続けていたとしたら―――
10年以内に向こうの大陸は連邦の支配下に
なっていたでしょう」
私の言葉に、皇族の二人は真剣に聞き入る。
そして続けて、
「あの知識を正確に理解し、実用化し得る。
こちらの世界でも稀有な才能の持ち主です。
実際、彼がこちらの帝国に亡命したのも、
私たちが国交樹立を急いだ理由の1つでも
あります。
ですので何としてでも、彼をこの国で
抑えておいて欲しいのです」
それを聞いた陛下はアゴをなでて、
「……ふむ。
確かにあちこちに移動されるより―――
一ヶ所に留めた方が管理はしやすい。
兵器開発はこのまま続けさせても良いのか?」
「それは構いません。
確か今後、合同軍事演習も予定して
いるんですよね?
その時に亜人や人外との連携を認識して
もらえれば……」
そこでティエラ様はハッとした表情になり、
代弁するかのように皇帝が口を開く。
「その有用性がわかれば―――
彼らの重要性も立場も上がる、という事か。
つくづく底が知れぬのう」
その答えに、私とライさんが二人して
頭を下げる。
「そちらからのご希望は―――
何かありませんでしょうか?」
返礼としてライオネル様が陛下に聞き返す。
「そうだな。
今の話を聞いたら、ある事を思い出した。
一つ余の頼みを聞いてくれぬか?」
そして私とライさんは、皇帝陛下からある
お願いをされた。
「お久しぶりです、マギア様。
先の会見以来ですな」
「うむ、リンドゥ大司教。
少々用があってここへ来た」
見た目が四十代の司教らしき人に、五・六才に
見えるベージュの巻き毛の少年が対応する。
「そちらの方々は」
「今日は余が付き添いである。
用事があるのはこのシン殿だ。
大聖堂の奥を見せてもらいたい」
そこで私は先日、皇帝・マームード陛下から
受け取った手紙を彼に渡す。
リンドゥさんがその文面に目を通すと……
その手はガタガタを震えだし、
「こ、公聖女ミレーレ様の遺品があると
言われている、最奥の封印が解けるかも、
ですと……!
わかりました!
こちらへお通りください……!!」
彼が奥へ進むと、その後についていくように、
私と妻二人とラッチ、そして少年の後に二人の
魔族が付き従った。
「ここは?」
私たちの目の前に、豪華な聖堂の中には
不釣り合いな、独立した小さな小屋みたいな
建物が現れた。
「この大聖堂の中心にして、かつて公聖女様が
暮らしていたといわれるお部屋にござります。
ここを基に教会は増築を続け―――
また建物全体を改修のため取り壊した時も、
ここだけは傷一つ付かなかったとか」
すると魔王・マギア様が一歩前へと進み、
「……うむ。
確かにここに彼女の気配が残っておる。
しかし封印とは―――
何があったのだ?」
それを聞いた司教はやや口ごもりながら、
「い、いえ。ミレーレ様のご意思では
ありませぬ。
扉を開ける方法も口伝で伝わっていたと
記録に残されております。
ただ長い月日の間、どこかで解除方法を
亡失してしまったのかと……」
マームード陛下からお願いされた事がこれだ。
要は解除方法がわからなくなってしまった、
公聖女様の小屋を―――
私の『無効化』能力で開けてもらえないか、
という要望であり、
また公聖女様は魔王・マギア様と関係浅からぬ
人物だったので、彼も呼ぶ事にしたのである。
実際この手の依頼は、ウィンベル王国や
ユラン国で受けてきたしなあ。
(■155話 はじめての そつぎょうしき
■158話 はじめての ゆらんこく参照)
「では、やってみても構いませんか?
私の『抵抗魔法』で解除してみます」
「お願いします」
リンドゥ司教が頭を下げると、私だけ小屋へと
近付いて、その前に立ち……
「(聖女様というくらいだから、罠とか仕掛けは
無いと思うけど―――
一応、用心はしておくか)」
そこで私は小さな扉に両手の手の平をくっつける
ように当てると、
「(魔力による爆発……
毒・呪い・施錠・仕掛けなど―――
・・・・・
あり得ない)」
小声でそうつぶやくと、ゆっくりと扉が
こちらへ向かって開き、
「お……お……おぉおおおっ!!」
司教が大きな声を上げる中、小屋の入口は
解除・解錠された。
「ここは―――
ずいぶんと質素と言いますか」
「彼女らしいといえばらしい。
優雅とはかけ離れた暮らしをしていたので
あろうな」
私やマギア様と一緒に、同行してきたみんなも
せいぜい六畳くらいしか無い室内を見渡す。
ベッドに机、本棚と家具はそれくらいで、
後はテーブルが片隅にちょこんと置かれており、
とても公聖女教の創始者が暮らしていたとは
思えないほど簡素だ。
「……あれ?
これって魔導具? それに石板が」
メルがめざとく何を見つけ、全員がそれに
注目する。
「『マギア様へ』……?
これは―――」
リンドゥ司教の視線が、魔王様と魔導具の間を
行ったり来たりし、
「とにかく作動させてみようぞ。
まさか爆発はすまいて」
「ピュウッ」
アルテリーゼの言葉に、司教がその魔導具の
スイッチらしき物を押した。
『やっほー♪
魔王・マギア様!
そこにいるんでしょ!?
お久しぶり! 元気だったー!?』
そこから再生された声に、文字通り全員が
固まり、
「これってあの女……
いえ、ミレーレ様の肉声ですよね?」
「だいぶ歳は取っているようだけど、多分……」
外ハネしたミディアムボブの女性と、
白銀の長髪を持つ褐色肌の同性の魔族―――
イスティールさんとオルディラさんが、困惑した
表情で何とか言葉を振り絞る。
「こ、この音声が―――
公聖女・ミレーレ様……?」
リンドゥ司教は目を白黒させるが、
魔王・マギア様は表情を変えずに聞き入る。
『あーねー、最近は便利な魔導具があるのね!
声を記録出来るなんて思わなかったわ。
あ、あとマギア様あまりこっち見ないでね。
私すっかりお婆ちゃんになっちゃって―――
って声だけだから大丈夫か♪』
私たちの家族はというと、
「どうするのコレ?」
「我に言われてものう……」
「ピュ?」
まあそうだよな。反応に困るというか。
そして魔導具からは声が再生され続け、
『そんでねー、多分私もうすぐ死んじゃう
からさー。
言い残す事をこれに記録する事にしたのよ。
何か死が近くなってくるといろいろ見えてきた
ものがあってね。
それで遠い未来、あなたが来る事を
知ったのよ、マギア様』
「……ミレーレ様」
ようやくここで、つぶやくようにマギア様が
答える。
『未来予知っていうのかな。
神様の使いがあなたの封印を解いて、
その人と一緒にこの地までやって来るって。
だから―――
あの時の事とか、あなたにどうしても
謝っておきたくって。
それにあの後どうなったのかっていうのも』
神様の使いって自分の事か?
いや、確かにこの世界の神様のせいで
ここに来たようなものだけど……
しかし、あの後どうなったかというのは、
恐らく魔王・マギア様の封印後の話だろう。
リンドゥ司教と魔族の女性二人は緊張した
面持ちになる。
創始者がどういう経緯でこの大陸・クアートルに
来たのか―――
それは関係者に取って長年の疑問であり、
知りたい真実に違いない。
そして魔導具から語られたそれは……
『いやー、国の連中さあ。
私を使って魔王・マギア様をおびき寄せて、
騙して捕まえる計画立てていたのよ。
私が知らされたのは全部終わった後でさー。
冗談じゃないよーホントに!
魔族との和解が済んだらマギア様と結婚して、
いい奥さんになって10人くらい子供作って
幸せに暮らす私の計画が台無しだよー!
もー最悪!!』
いやそれ本人に話通っているのか。
突然の告白と家族計画に全員微妙な表情に
なるが、マギア様だけは両目を閉じただけで、
『それでねー、頭きたから計画に関わった
連中を片っ端からシメていたらさー。
国に居場所が無くなっちゃって。
それでこっちの大陸に来たのよー』
思ったより力技な理由だった。
武闘派な聖女ってどうなのだろう。
『で、罪滅ぼしってわけじゃないけど、
こっちの新天地で、かつてマギア様と
語り合った理想……
『どのような種族や国とも共に手を取り合って
生きていける世界を』―――
それを目指してみたわけ。
で、今じゃ私を崇める宗教まで出来ちゃって。
私を拝んでも意味ないってーのに』
全員沈黙したまま、魔導具の再生に耳を傾ける。
なるほど。
他種族との共存共栄を唱えて活動した結果、
自分が崇められる立場になってしまった……
それが公聖女教の始まりという事か。
そしてその活動の元となったのは、マギア様と
彼女の理想だったと。
『それでどうかな?
マギア様から見たこの地は、少しは
風通しが良くなっているかなっ?
そうなっていたら嬉しいよ。
何かそっちは未来予知では見えないのよねー。
じゃ、いずれあの世で会いましょう!
それと―――』
その話の続きに全員が神経を集中していると、
『あの魔族の女性2人……
『霧』のイスティール、
『腐敗』のオルディラ
でしたっけ?
あなたたちもそこにいるんでしょ?
言っておきたい事があるの』
突然名指しされた二人は戸惑うが、
『もしあなたたちがいつまで経っても覚悟を
決めないつもりなら―――
私が生まれ変わって、マギア様を奪いに
行くからね!』
そこで魔導具の再生は終わり……
『おいどうするんだよこの空気』の中に
全員が残された。