しばらくすると、カランと氷が中で揺れる涼やかな音を立てて、尊さんがグラスを二人分持って戻ってきた。
「ほら、飲め。糖分補給だ」
「わ、ありがとうございます!」
尊さんから受け取ったグラスには、たっぷりの氷と共に冷えたココアが注がれていた。
喉を鳴らして流し込むと、濃厚で優しい甘さが、渇いた喉を通って身体中に染み渡っていく。
疲労で凝り固まっていた全身の細胞が、その一杯で芯から癒されていくような心地よさだ。
「はあ〜……生き返る……。尊さん、これ、めちゃくちゃ美味しいです」
「そうか。ならよかった」
尊さんも自分のグラスのアイスコーヒーを一口飲み、ふうと息をつくと、再び俺のすぐ傍に腰掛けた。
窓から入り込む風が、火照った肌に心地いい。
その後も、今日やったメニューの復習や、仕事のちょっとした話など、他愛のない話を交わしながら
尊さんの隣で微睡んでいるうちに、ゆっくりと、けれど確実に夜が更けていった。
部屋の明かりを少し落としたリビング。
静寂の中に、時計の刻む音だけが響く。
早く帰らなきゃいけないのは分かっている。
でも、今のこの、汗の匂いとココアの甘い香りが混ざり合ったような、親密な空気を手放したくなくて。
「あの、尊さん……」
俺は、すぐ隣にある尊さんの服の袖を、指先でくいっと小さく引っ張った。
「なんだ?」
尊さんがこちらを向く。
その至近距離にある端正な顔立ちに、心臓が跳ねた。
俺は頬を熱く染めながらも、奥歯を噛み締めて、勇気を出して言葉を紡ぐ。
「あの……最近、全然シてないですし……それに、まだ……もう少しだけ、尊さんと一緒にいたいんですけど……。時間、ありますか……?」
尊さんを見上げてそう聞くと
俺の言葉を聞いた尊さんの眼差しが、驚いたように僅かに見開かれた。
端正な眉が少しだけ上がり、沈黙が二人の間に落ちる。
「……お前な」
「わっ、ワガママ、ですかね。疲れてるのに、すみませ……」
沈黙に耐えきれず、語尾が弱々しく萎んでいく俺を、尊さんは困ったような
どこか参ったというような深い溜息とともに見下ろした。
けれど、その瞳の奥をじっと見つめれば、そこには決して嫌悪の色など微塵も滲んでいない。
「……今日はそのまま、普通に運動だけして返してやるつもりだったんだけどな」
尊さんの低く掠れた声が、耳朶を震わせる。
「え?……ひあっ?!」
次の瞬間、視界がぐるりと回った。
尊さんの逞しい腕が俺の腰と膝裏に滑り込み、重力から解放される。
「〝運動〟続行だな」
「た、尊さんっ……!?」






