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マイヤさん以外の、集まってきた人魚たちを見てふと思う。
……当然のことながら、男性の人魚もいるんだ……。
上半身が魚で下半身が人間……だなんてオチも無く、男性も女性の人魚と身体の構造は一緒だ。
それにしても男女比が4対6――
男女でペアになるとしたら女性が2人余るけど、これは一部の男性にハーレムの予感……?
そんなことを考えていると、奥にいる女性2人が妙に寄り添っていることに気付いた。
……案外、問題無く5組のペアが出来てしまうのかもしれない。
リリーはマイヤさんのときの失敗を踏まえて、自身の強烈な気配を抑え込んでいた。
気配さえ漏れていなければ、リリーは普通の子供だ。実際、今は他の人魚と楽しそうに話をしている。
他の人魚たちも同様に、いつの間にかルークやエミリアさん、ジェラードと話をしていた。
「……みんな、あんまり警戒しないんだね?」
目の前の光景に、ふとした疑問が湧き起こる。
大半の人魚がシルヴェスターに……人間に殺されてしまったのだから、人間である私たちを無条件で憎んでいてもおかしくはないのだ。
「アイナさんたちが信用に足る人物だっていうのは、私がさっき口笛で伝えたからね。
……それに、私たちも不安なんだよ」
「不安?」
「この閉ざされた世界で、私たちはもう10人しかいないんだよ。
外の世界のことなんて、今までは伝承や物語でしか聞いたことがない。それに、シルヴェスターっていう人間の行方も分からない……」
「……そっか。
頼る人もいないし、敵は所在不明だもんね……」
考えてみれば、不安になるのは当然のことだ。
少なくても、シルヴェスターの行方が分かるまでは安心なんてしていられないだろう。
「ところでさ、今さらだけどアイナさんたちは、ここに何の用なの?
あの人間を追い掛けてきた……とかではないんでしょ?」
「ああ、うん。
私たちは外の世界で街を作ろうとしてるんだけど、近くの海を船で渡ることができないの。
その原因……『螺旋の迷宮』の海流を何とかできないかなって、人魚さんに相談をしにきたんだよ」
「へー、街なんて作るんだね?
100人くらい集める感じ?」
「え? いや、もっと……?
1万人とか3万人とか、それくらい集まると良いなぁ、って」
「まん……? す、凄いんだね!!」
人数は仮だけど、適当に言ってみたらマイヤさんは興奮気味に食い付いてきた。
「それで、どうかな?
海流を何とかする方法って知ってる?」
「そうだねぇ、昔からの言い伝えにあったような……。
うーん、どうだっけ……?」
「しっかり思い出して!?」
「あはは、ごめんごめん。
確か海底の石碑にそんなことが書いてあったから、何とかなると思うよ。
……でも私たちが勝手にやって、大丈夫かなぁ……」
「誰かに許可を取る必要があるの?」
「今はもう無いんだけどさ。
少し前までは、そういうことは長老に相談していたから」
「あ……」
しかしその長老は、きっと半年ほど前に殺されている。
従って今は許可を取らないでもできるはずだが、その結果を受け止めるのもマイヤさんたち自身になってしまうのだ。
「私たちも覚悟というか、そういうのが必要だからさ。
少しだけ時間をくれないかな?」
「うん、分かった。
その代わり、私たちができることがあれば何でもするから」
「え? 本当に?」
私の言葉に、マイヤさんは嬉しそうに声を弾ませた。
「え、えぇっと……、早速何かあるの?」
「もちろん!
あのねあのね! 私、光竜王様にお会いしたい!!」
「……グリゼルダに? 何で?」
「えぇっ!? 何でって……光竜王様だよ!? 会いたいじゃん!?
アイナさん、会いたくないの!?」
そういえばグリゼルダって、凄い存在だったっけ……。
最近は飲んだくれのイメージが付いているから、あんまり凄い存在には思えなくなってしまった……。
「確かに私も、最初はかなり恐縮したものだけど……。
それじゃ次に来るときは、ちゃんと連れてくるね」
「やったぁ!!
この島は水竜王様の加護で作られた場所なんだけど、水竜王様はここにはいらっしゃらないんだよね。
だから、竜王様とお会いするのは初めてなんだ♪」
「ふむふむ……。
ところで、ここにはグリゼルダは入ってこれるのかな?
水竜王様の領域に、光竜王様は入れる?」
「んん? 別に入れるんじゃない? 何で?」
「迷宮の力を持つ存在が、他の迷宮に入ることができなかったことがあったの。
そういうルールが竜王様たちにもあるのかなぁ、って」
「へぇ……、そんなルールは初めて聞いたなぁ……。
でも、竜王様の方は大丈夫なんじゃない? 別に敵同士ってわけでも無いんだから」
確かに敵でなければ、問題は無さそうか。
……いや、そうすると迷宮同士は敵? ……ってわけでも無いんだろうけど。
「それじゃ、次はいつ来たら良いかな。
急げば明日にでも来れるけど、どうする?」
「んー、私たちも話し合いをしなきゃいけないからさ。
多分結構な議論になっちゃうと思うんだ。だから、もっと時間は欲しいかなー」
今まで責任を取ってきた長老たちがおらず、これからは彼女たち自身が責任を取っていかなければいけない。
そのため、慎重になるのも当然というものだ。
「分かった。それじゃ私たちの方がひと段落したら、また来るね。
……2か月以内には、きっと来れると思うから」
「了解! 期待に添えられなかったらごめんねだけど、私も頑張るよ。
せっかく外の世界との繋がりができたんだ。私たちも変わっていかないと……!」
「そういえば、こっちの世界からは外に出られるの?」
「ううん、出られないわ。
だから正直、アイナさんたちが来た外の世界っていうのがよく分からないの。
……きっと私たちの中にも、外の世界に出たい子がいる。でも、現状のこのままを望む子もいるでしょうね」
その辺りの話を踏まえるのであれば、話し合いは実際に時間が掛かるだろう。
これからの自分たちを決めていくということであり、そして自分たちから外に出られない以上、私たちの来訪は限られた機会でもあるのだ。
「私たちのお願いは叶えて欲しいけど、マイヤさんたちも納得できるようにしてね。
力尽くとかは、もちろんしないから」
「うん、ありがと。
……まったく、半年前に来たのがシルヴェスターじゃなくて、アイナさんたちだったら良かったのに……」
「あはは。半年前は、私はむしろ逆側に向かっていたからね」
クレントスを旅立って北東に向かっていればここに着いていたが、実際は真逆の王都に向かって旅をしていたのだ。
先にこの島に来ていれば、私の運命もいろいろと変わっていたかもしれない。……まぁ、その時点ではここには入れなかったはずだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
他の人魚とも話をしていると、すぐに帰る時間になってしまった。
お伽噺や物語でしか見たことのない人魚たちと話すというのは、かなり貴重な体験だ。
もう少し時間を取りたかったけど、最初に決めたことは守っていかないと。
私がそろそろ帰る旨を伝えると、人魚の全員が最初の洞窟まで見送りにきてくれた。
「――それじゃ、またしばらくあとに来るね。
次はグリゼルダ……光竜王様と一緒にくるから、楽しみにしていてね」
私の言葉に、人魚たちは嬉しそうに歓迎の言葉を口にした。
彼らの持つ竜王様のイメージが壊れなければ良いけど……、まぁその辺りはグリゼルダにぶん投げておくことにしよう。
「うん、待ってるからね。
……それとアイナさん。さっきは急に襲っちゃって、ごめんね」
「気にしてないから、大丈夫。
それにこっちも縛り上げちゃったし、鞘も投げ付けちゃったしね♪」
「ああ、あれは痛かった……」
そう言いながらマイヤさんがルークを見ると、ルークは身振りで謝罪をしていた。
でもあのときは、あれがベストな行動だったわけで。
「マイヤさん、怪我は治してあげたから、申し訳ないけどそれでチャラってことで……」
「おっけー、おっけー。
全然気にしていないから、もうこの話はこれでおしまいね!」
「了解! それじゃ、私たちはそろそろ行くね。
ルーク、竪琴をお願いしても良い?」
「はい、かしこまりました」
私はルークに『海鳴りの竪琴』を渡して、ここに来たときと同じようにまた曲を奏でてもらった。
やがて周囲には白い霧が立ち込め始めて――
「――アイナさん! またね!」
「うん! ……申し訳ないけど、シルヴェスターにはくれぐれも気を付けてね!」
「あはは、アイナさんが謝ることでも――……」
……マイヤさんの言葉が最後まで聞こえることはなく、私たちの周囲には視界を奪うほどの白い霧が満ちていった。