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「くそっ――! ひなたがイクの、待ってらんねぇ」


苦しそうにそう吐き捨てると、彼の熱が私を貫いた。


「きゃぁ……っ」


久し振りに他人が私の中に挿入ってきて、痛みを感じたのはほんの一瞬。


私の上に倒れ込むように身体を重ねた太陽のキスに、そんなことは吹き飛んだ。


私は身構える隙も与えられず、達してしまった。


キスで口を塞がれて、呼吸もままならない。その上、太陽は激しい抽送を始めた。


ぐちゅぐちゅと溢れた蜜が掻き混ぜられる音、音にならない私の嬌声、はっはっと規則正しい太陽の呼吸。


イキながら揺さぶられ、私のお腹も足も痙攣が止まらない。


「とま……っ」


力を振り絞って彼の肩を両手で押し上げ、言った。異常な喉の渇きで、声が掠れる。


「おねが――」


「――結婚して」


どういう流れでプロポーズの言葉が飛び出すのか。


目を丸くして問いたくても、絶えず与えられる快感と酸素不足のせいで、シーツに滴るほどの涙が瞳を覆っていて出来ない。


「あんな上司がいる会社は辞めて、俺んとこに来て」


今度はヘッドハンティング。


聞こえているし、意味も理解できるのに、返事も反論も出来ない。


ぐりっと最奥に腰を押し付けられて、ようやく彼の動きが停止した。


ふーっと息を吐くと、太陽が私の涙を拭った。


手で顎を持ち上げられ、正面を向かされると、キスが降ってきた。しっかりと触れて、離れる。


「結婚して」


『して』と言う割には、頼んでいる表情ではない。かと言って、自信に満ちた表情でもない。


太陽の額や首に、汗が流れる。


「結婚、して」


三度目のプロポーズの言葉で、彼の表情が変わった。


歯を食いしばり、上瞼を震わせる。




ああ、そうか――。




私は両腕を伸ばすと、彼の頬に触れた。


「私の年じゃ、子供は難しいよ?」


彼が小さく首を振る。


「太陽のご両親だって、若くて可愛い子の方が喜ぶよ?」


さっきより強く首を振る。


「私、課長になる前は『経理の鬼女』って呼ばれてたから、家計も会社経費もうるさいよ?」


太陽がぷっと吹き出す。


「ゴム代は家計から出してね」


「ひと月ひと箱ね」


「全然足りねーじゃん!」と、彼が唇を尖らせた。


その、いじけた表情が可愛くて、私も思わず表情が綻ぶ。


「名義変更って手間なのよ。そう何度もするのは嫌だわ」


「これが最後だから」


「今夜のセックスも?」


「それは、無理」


笑えた。


きっと、目尻や口元に深い皺が刻まれている。化粧は剥げてるし、涙でベトベトだし、きっと、最高にみっともない顔だろう。それなのに、まだ、涙が溢れてくる。


「だめ」


私は両足を彼の腰に絡ませた。


グイッと力を入れると、彼が眉をひそめた。


「先は長いんだから、毎晩こんなのはもちません」


「じゃあ、今夜はこれでやめておくから、明日の初夜は――」


「――明日結婚するなんて言ってない」


「今、言って」


「だめ。あなたの会社の経営状態とこのマンションのローンの返済計画を確認して、私のマンションの売却とローンの完済の目処が立ったら――」


「――結婚してくれる!?」


テンション高めにそう言った太陽は実年齢よりも幼く見え、状況が違えばよしよしと頭を撫でてあげたくなっただろう。




――っていうか、こんなきっちり挿入った状態でプロポーズすること自体、ムードの欠片もないんじゃ……。




三度目ともなれば、こんなものなのかもしれない。


いや、これくらいでいいのかもしれない。


私は、ふっと笑い、親指と人差し指で彼の頬を抓った。


「あなたのご両親に挨拶に伺うわ」


頬を抓られた変顔でも、彼が不機嫌になったのはわかった。


そして、今まで私の最奥で『待て』をしてた彼は、勢いよく腰を引き、再び最奥へ打ち付けてきた。


「ちょ――」


抜き差ししながら上体を起こすと、自分の指を舐め、その指を繋がっている場所に当てた。そこから膨らみを擦る。


「まだ、話が――っ」


「――このマンションのローン関係の書類は明日の朝見せる。会社の帳簿や経営計画なんかは月曜」


そう言いながらも彼の手も腰も動き続ける。


同時に与えられる刺激に、脳が太陽の言葉を理解も保存も出来ずに嬌声に自動変換してしまう。


「やっ、ああんっ――!」


ベッドのスプリングが唸る。


「ひなたのマンションについても週明けの営業日に管理事務所? 不動産屋?」


「ふぅっ……ん! あっ! やっ、も――」


「――俺のっ……、親……に……はっ、次の――」


太陽の言葉が途切れ途切れになり、今にも達しそうな快感に耐えて目を開くと、彼もまた苦しそうに顔をしかめていた。それでも、腰の動きは止まらない。


「――くそっ! そんな、しめ……んな!」


いつもより高く甘い声でそう言葉を絞り出した太陽は、悩まし気に天を仰いで息を吐くと、両手で私の腰を掴み、目を閉じて腰を打ちつけた。


夢中になっている太陽は、私が既に達して意識が朦朧としていることに気づいていない。


「あっ、あ……、イクッ――!!」


太陽の叫びにも似た声を聞きながら、私は深い眠りに堕ちていった。


満月を抱いて、満月の夜に抱かれて

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