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しなもん ここあ たん .ᐟ
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晩酌をしよう
――夜のユラシーア。外は灰色の街並みに、冷たい風が吹いていた。俺は、紅星――中国――の部屋に座っていた。テーブルには酒とつまみ。昔みたいに、向かい合って。
……こんな日が、また来るなんて。本当は、もう二度と無いと思ってた。
「……乾杯、するか」
俺の声はかすれていた。中国は死んだ魚の目のまま、無言でグラスを軽く触れ合わせる。ちいさな音が響く。ああ、この音だけで胸がぎゅっとなる。五百年の思い出がよみがえる。まだ、壊れてなかった頃の記憶が。
一口、酒を飲んだ。喉が熱い。けど足りない。全然、酔えない。俺はお前に酔いたい。お前の重力に溺れたい。お前の死んだ魚のような目に、俺だけが映ってほしい。
「……最近、忙しいのか」
「……まぁ、書類は多いですね」
ぶっきらぼう。でも、返事をくれる。それだけで心の奥がじわじわ熱くなる。気持ち悪いくらいに嬉しい。俺はもっと、もっと話したい。昔みたいに、夜通しくだらない話をして、笑いたい。お前の声を聞いていたい。
「……あの時みたいだな」
思わず、零れた。中国の目が一瞬だけ俺を見た。ああ、その瞳。黄色に薄くオレンジが光って、俺を刺す。でもすぐ逸らされる。心臓が痛い。苦しい。……でも、優しい。俺を拒絶しても、こうして隣にいてくれる。
「……俺さ、またこうして飲めるなんて、思ってなかった」
「……そうですか」
そっけない声が、逆に沁みる。俺は笑う。酔えない。足りない。ぜんぜん足りない。心の中は、ぐらぐらに煮えたぎっているのに。
――触れたい。抱きしめたい。お前に酔いたい。俺だけを見てほしい。俺のものになれ。昔みたいに、俺だけに笑え。
けど、言わない。言えば、全部壊れる。だから、せめてこの瞬間だけは――昔のように、穏やかに、他愛もない話をしたい。
「……酒、もう一杯どうだ」
「……はい」
中国が静かにグラスを差し出す。俺は震える手で、それを満たす。心臓がうるさい。氷の怪物のくせに、今夜もまた、お前に溺れていく。
コメント
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うわ、この十六話、めちゃくちゃ刺さりました。五百年の重みと「もう戻れない」って分かってるのに、それでも隣で酒を酌み交わす距離感だけで胸が締め付けられます。特に「死んだ魚のような目に俺だけ映ってほしい」って願望が、自己破壊的で美しかった…。氷の怪物のくせにお前に溺れる、って一文が全てを物語ってますね。設定の裏側にある時間の堆積を感じる、良いエピソードでした。