テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
朧は澪の手をそっと話し、静かに立ち上がった。
「澪さん。あなたを本当の花嫁として迎え入れるには⋯⋯
“試練”を受けていただく必要があります」
「試練⋯⋯ですか」
「はい。異界の守護者の花嫁となる者は、その心の強さを証明しなければなりません」
澪は息を呑んだ。
(⋯⋯心の強さ⋯⋯
私に、できるのか⋯⋯)
朧は澪の不安を感じ取ったように、そっと澪の肩に触れた。
「安心してください。
私は⋯⋯あなたをひとりにはしません」
その言葉に、澪の胸が少しだけ軽くなる。
朧に案内され、澪は屋敷の奥にある古い扉の前に立った。
扉には、見たことのない紋様が刻まれている。
「ここは⋯⋯?」
「異界と人間界の境が最も薄い場所です。
花嫁の試練は、この奥で行われます」
朧は扉に手をかざし、静かに呪を唱えた。
淡い光が扉を包み、ゆっくりと開いていく──。
中は薄暗く、まるで霧の中にいるようだった。
「澪さん。この試練は⋯⋯”心を映す鏡”です」
「心を⋯⋯映す⋯⋯?」
「あなたの恐れ、迷い、願い⋯⋯
すべてが形となって現れます」
澪は喉を鳴らした。
(⋯⋯私の心が⋯⋯形に⋯⋯)
朧は澪の手をそっと握った。
「大丈夫です。
あなたなら、きっと乗り越えられます」
「⋯⋯朧さんがそう言ってくださるなら⋯⋯
私、頑張ります」
朧は静かに微笑んだ。
澪が一歩踏み出した瞬間──
世界が、揺れた。
視界が白く染まり、気づけば澪はひとりで立っていた。
「⋯⋯朧さん⋯⋯?」
返事はない。
(⋯⋯ひとり⋯⋯?
朧さんが⋯⋯いない⋯⋯)
胸がざわつく。
その時──
「澪」
背後から、聞き慣れた声がした。
背後から、聞き慣れた声がした。
「⋯⋯朧さん?」
振り返ると、そこには朧が立っていた。
けれど──
その瞳は冷たく、澪を見ても微笑むことはない。
「あなたは⋯⋯私の花嫁ではありません」
「⋯⋯え⋯⋯?」
「”仮”のままでもよかったのです。
あなたは⋯⋯必要ありません」
澪の胸が、ぎゅっと締めつけられる。
(⋯⋯そんな⋯⋯朧さんが⋯⋯そんなこと⋯⋯)
「あなたは弱い。私のそばに立つ資格などない」
「⋯⋯やめてください⋯⋯
そんなこと⋯⋯言わないで⋯⋯」
朧は冷たく澪を見下ろす。
(朧さんっ⋯⋯!!)
『──この試練は⋯⋯”心を映す鏡”です』
(⋯⋯!そうだ。あの時、朧さんは──)
「⋯⋯私の⋯⋯心⋯⋯?」
「⋯⋯私⋯⋯朧さんに⋯⋯嫌われるのが⋯⋯怖いんです⋯⋯」
その瞬間、冷たい朧の姿がふっと消えた。
霧の中に、静寂が戻る。
澪は胸に手を当て、深く息を吸った。
(⋯⋯私は⋯⋯
朧さんのそばいたい)
(怖くても⋯⋯不安でも⋯⋯それでも⋯⋯)
澪は前を向いた。
「私は⋯⋯逃げない⋯⋯。
朧さんの花嫁になるって⋯⋯決めたから⋯⋯!」
その言葉が霧に響いた瞬間──
光が澪を包んだ。
気づけば、澪は元の場所に立っていた。
朧が駆け寄ってくる。
「澪さん!大丈夫ですか⋯⋯!」
「⋯⋯朧さん⋯⋯」
朧は澪の手を強く握った。
「あなたの心の声が⋯⋯聞こえました。
あなたは⋯⋯本当に強い」
澪は小さく微笑んだ。
「朧さんが⋯⋯私のそばにいてくださるからです」
朧の瞳が揺れた。
「⋯⋯澪さん。
あなたは⋯⋯試練を乗り越えました」
「⋯⋯本当に⋯⋯?」
「はい。あなたは⋯⋯私の”本当の花嫁”になる資格を得ました」
澪の胸が熱くなる。
(⋯⋯朧さんの⋯⋯”本当の花嫁”⋯⋯)
ふたりの指が、そっと絡んだ。