テラーノベル
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試練を乗り越えた翌朝。
澪はまだ胸の奥が温かいまま、朧のもとへ向かった。
朧は静かに澪を迎え、深く頭を下げた。
「澪さん。あなたは⋯⋯本当に強い方です」
「い、いえ⋯⋯私は⋯⋯朧さんがいてくださったから⋯⋯」
朧は、澪の手をそっと取った。
「では⋯⋯”花嫁の儀”を始めましょう」
澪は息を呑む。
(⋯⋯ついに⋯⋯”本当の花嫁”になる儀式⋯⋯)
朧に導かれ、澪は屋敷の奥にある庭へ向かった。
そこは普段とは違う空気に包まれていた。
風が止まり、木々が静かに揺れ、
まるで世界が息を潜めているようだった──。
庭の中央には、淡く光る円形の紋様が浮かんでいる。
「これは⋯⋯?」
「花嫁の儀を行う”結界”です。
あなたと私の心を結び、お互いの存在を確かめ合うための場所」
朧は澪の手を話し、結界の中心に立った。
「澪さん。こちらへ」
澪はゆっくりと歩き、朧の隣りに立つ。
その瞬間──結界がふわりと光った。
朧は澪の手を取り、静かに言葉を紡ぎ始めた。
「澪さん。あなたの心を⋯⋯私に預けてくれますか」
「⋯⋯はい」
「あなたの願い、痛み、喜び⋯⋯全てを私に分けてください」
澪は胸に手を当て、ゆっくりと目を閉じた。
(⋯⋯朧さん⋯⋯私は⋯⋯あなたと一緒にいたい)
その想いが胸の奥から溢れた瞬間──
結界が強く光り、ふたりの足元に淡い紋様が広がった。
朧は澪の手を包み込み、優しく囁く。
「澪さん。あなたを⋯⋯私の本当の花嫁として迎えます」
澪の胸が熱くなる。
(⋯⋯朧さん⋯⋯やっと⋯⋯ここまで来たんだ⋯⋯)
しかし、その時──
突然、空気がざわりと揺れた。
風が吹き、結界の光が一瞬だけ揺らぐ。
「⋯⋯っ!」
朧が澪を抱き寄せる。
「澪さん、下がってください⋯⋯!」
「お、朧さん⋯⋯?」
結界の外に、黒い影が立っていた。
その存在は、澪を見つめていた。
──まるで、”奪いに来た”かのように。
「⋯⋯来たか」
朧の声が低くなる。
「朧さん⋯⋯あれは⋯⋯?」
「異界の”影喰い”です。
心の弱さに付け入り、花嫁の儀を妨げようとする存在」
影喰いはゆっくりと近づき、澪に手を伸ばした。
「っ⋯⋯!」
朧は澪を背にかばい、鋭い声で叫んだ。
「澪さん、離れないでください!」
澪は朧の袖を強く掴む。
「離れません⋯⋯!
朧さんのそばに⋯⋯います!」
その言葉に、結界が再び強く光った。
影喰いは光に弾かれ、苦しむように後退する。
朧は澪の手を握り、静かに言った。
「澪さん。あなたの想いが⋯⋯私を強くします」
澪は震える声で答えた。
「私も⋯⋯朧さんを守りたい⋯⋯!」
その瞬間──
結界が眩い光を放ち、影喰いは完全に消え去った。
光が収まると、朧は澪の手をそっと包みこんだ。
「澪さん⋯⋯あなたの想いが、私を救いました」
「朧さん⋯⋯」
朧は澪を見つめ、静かに微笑んだ。
「ですが⋯⋯儀式はまだ終わっていません」
澪は息を呑む。
(⋯⋯まだ⋯⋯?
これ以上、何が⋯⋯)
朧は澪の手を引き、結界の中心へと導いた。
「次は⋯⋯”心の誓い”です」
澪の胸が高鳴る。
(⋯⋯朧さんと⋯⋯
本当に結ばれる儀式⋯⋯)
ふたりの物語は、いよいよ最も大切な瞬間へと進んでいく──。
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