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第2話 猫カフェと小さな秘密
土曜日の朝。
平日ならアラームで飛び起きる時間だが、今日は休日。
リビングにはコーヒーの香りが漂い、ソファでは勇斗が雑誌を読んでいた。
一方、寝室では。
布団にくるまったままの仁人が、気持ちよさそうに眠っている。
「……仁人。」
返事はない。
「朝だよ。」
「……休み。」
「知ってる。」
「寝る。」
「もう10時。」
「……。」
「お昼になるよ?」
もぞもぞと布団が動く。
「……あと5分。」
勇斗は思わず笑った。
「その5分、昨日も聞いた。」
「気のせい。」
「絶対違う。」
勇斗はベッドの端に腰掛け、そっと布団をめくる。
「ひゃっ!」
「そんなに驚く?」
「急にめくるな!」
寝癖のついた仁人が、じとっと勇斗を睨む。
「おはよう。」
「……おはよ。」
眠そうな声で返事をしたあと、仁人は大きくあくびをした。
「まだ眠い。」
「じゃあ、今日は出かけるのやめる?」
その言葉に、仁人は少しだけ目を開く。
「……どこ行く予定だった。」
「猫カフェ。」
「……。」
「新しくできた店。」
「……別に興味ない。」
「そう?」
「うん。」
「じゃあ行かないか。」
「……。」
数秒の沈黙。
「……いつ出る。」
勇斗は吹き出した。
「興味あるじゃん。」
「ない。」
「じゃあ何で聞いたの?」
「……散歩。」
「猫カフェまで?」
「たまたま。」
「はいはい。」
「その返事!」
休日の朝から、部屋に笑い声が響いた。
◇ ◇ ◇
一時間後。
二人は駅前を歩いていた。
休日ということもあり、人通りは多い。
仁人は勇斗より半歩前を歩きながら、小さく周囲を見回していた。
「人、多いな。」
「休日だからね。」
「疲れる。」
「じゃあ手、つなぐ?」
「はぁ!?」
仁人は勢いよく振り返る。
「なんでそうなる!」
「迷子防止。」
「子どもじゃない!」
「知ってる。」
「なら言うな!」
勇斗は楽しそうに笑う。
仁人は頬を膨らませたまま前を向き直った。
その数歩後ろから、勇斗は優しい目で見守る。
このやり取りも、二人にとってはいつものことだった。
◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませ!」
猫カフェの扉を開けると、店員が笑顔で迎えてくれた。
ふわりとした空間。
キャットタワーの上で眠る猫。
窓辺で日向ぼっこをする猫。
ゆっくり歩き回る猫。
「……。」
仁人の足が止まる。
「かわ……」
口を押さえる。
危なかった。
勇斗はその横顔を見て、くすっと笑った。
「我慢しなくていいのに。」
「してない。」
「顔が緩んでる。」
「緩んでない。」
その瞬間。
一匹の茶トラ猫が、とことこと仁人の足元へ歩いてきた。
「にゃあ。」
「……!」
仁人は目を丸くする。
猫は何のためらいもなく、仁人の足にすり寄った。
「え……。」
恐る恐るしゃがむ。
「……触ってもいいのかな。」
小さく手を伸ばく。
ふわっ。
柔らかな毛並み。
猫は気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「……かわいい。」
その一言は、自然とこぼれ落ちた。
勇斗は何も言わない。
ただ、その穏やかな笑顔がすべてを物語っていた。
「……見るな。」
「うん。」
「絶対笑った。」
「笑ってない。」
「嘘。」
「かわいいなって思っただけ。」
「猫が?」
「仁人が。」
「……っ!」
仁人は真っ赤になり、猫へ顔を埋めるようにうつむいた。
「ずるい……。」
小さな声は、猫の喉を鳴らす音に溶けていった。
◇ ◇ ◇
二人が窓際の席で飲み物を飲んでいると、一匹の白い猫が勇斗の膝へ飛び乗った。
「お。」
「懐かれてる。」
仁人が少しだけ身を乗り出す。
その表情は、自分でも気づかないほど柔らかい。
「仁人。」
「なに。」
「笑ってる。」
「笑ってない。」
「その顔、好き。」
「……。」
まただ。
勇斗はこういうことを、当たり前のように言う。
仁人は照れ隠しにストローをくるくる回した。
「……今日は。」
「うん?」
「来てよかった。」
勇斗は少し驚いたあと、嬉しそうに笑う。
「それ、素直な仁人だ。」
「今だけ。」
「じゃあ、この”今”を大事にしよう。」
仁人は照れくさそうに笑って、小さくうなずいた。
「……うん。」
窓の外では、柔らかな春の日差しが街を包んでいた。
そんな穏やかな休日は、二人にとって、また一つ大切な思い出になっていく。
くるみ_226
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コメント
1件
ああ、もう、この2人の空気感がたまらないですね……! 朝の布団の攻防からして可愛いし、猫カフェで「興味ない」って言いながら行く気満々な仁人さん、完全にツンデレじゃないですか(笑)。でも一番ぐっときたのは、勇斗さんが「仁人が」って言ったところ。あの何気ない一言に、日頃からどれだけ見つめてるかが滲んでて、胸がぎゅっとなりました。穏やかな春の日差しみたいな、優しい時間が流れるお話、素敵でした🌷