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第3話 突然の雨と、帰り道
猫カフェを出ると、空には少しずつ灰色の雲が広がっていた。
「天気予報、晴れじゃなかった?」
勇斗が空を見上げる。
「……外れたんじゃない。」
仁人はそう言いながらも、どこか落ち着かない様子だった。
風が少し強く吹く。
葉が揺れ、遠くで小さく雷の音が鳴った。
ゴロ……。
その音に、仁人の肩がぴくりと震える。
「……。」
「仁人?」
「何でもない。」
歩く速さが少しだけ早くなる。
勇斗はその変化に気づいていたが、何も言わず隣を歩いた。
ゴロゴロ……。
今度はさっきより大きな音。
仁人は無意識に勇斗の袖をぎゅっとつかんだ。
「……あ。」
我に返り、慌てて手を離す。
「ご、ごめん。」
「謝ること?」
「いや……その……。」
言葉が出てこない。
勇斗は優しく笑った。
「雷、苦手?」
「……。」
「図星か。」
「……子どもの頃から。」
仁人は観念したように小さくため息をついた。
「大きい音が……ちょっと。」
「ちょっと?」
「……かなり。」
勇斗は笑わなかった。
からかうこともしない。
「教えてくれてありがとう。」
その一言に、仁人は少しだけ驚く。
「笑わないの。」
「笑う理由がない。」
「普通、笑うだろ。」
「俺は笑わない。」
その言葉が、胸にじんわりと広がっていく。
◇ ◇ ◇
ぽつり。
頬に冷たいものが落ちた。
「あ。」
次の瞬間には、大粒の雨が降り始める。
「うわっ!」
「走るぞ!」
勇斗が仁人の手首を軽くつかむ。
二人は駅前の商店街まで一気に駆け出した。
雨宿りできそうな屋根の下へ飛び込む。
「はぁ……。」
「結構降ってきたな。」
外はあっという間に土砂降りになっていた。
ゴロゴロッ!
近くで雷が鳴る。
「っ!」
仁人は思わず目を閉じる。
勇斗はその様子を見て、そっと隣へ立った。
「大丈夫。」
「……うん。」
それでも仁人の肩は小さく震えている。
勇斗は少しだけ距離を縮めた。
「温かいものでも飲もうか。」
「……。」
「向かいにカフェがある。」
仁人は静かにうなずいた。
◇ ◇ ◇
窓際の席。
カップから立ち上る湯気が、冷えた体を少しずつ温めてくれる。
「落ち着いた?」
「うん。」
勇斗はホットココア。
仁人はカフェラテ。
しばらく無言で飲んでいると、仁人がぽつりと呟いた。
「……さっき。」
「うん。」
「ありがとう。」
勇斗は目を丸くする。
「どうした?」
「その……手。」
雨の中でつかまれた手首を、仁人はちらりと見る。
「ああ。」
「安心した。」
勇斗は少し照れたように笑う。
「それならよかった。」
「……。」
仁人はカフェラテを見つめる。
こうして素直に話せるのは珍しい。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
◇ ◇ ◇
雨が弱くなった頃。
二人は店を出て、ゆっくり歩き始めた。
「ねえ。」
勇斗が呼ぶ。
「なに。」
「来週さ。」
「うん。」
「柔太朗たちとご飯行かない?」
仁人の足が止まる。
「……え。」
「柔太朗も舜太も、仁人とゆっくり話したいって。」
「いや……。」
仁人は困ったように頭をかく。
「緊張する。」
「太智も呼ぼうか。」
「太智も?」
「四対二じゃ不公平だから。」
仁人は思わず吹き出した。
「何その理由。」
「ちゃんと味方がいたほうが安心でしょ?」
図星だった。
勇斗は、本当に仁人のことをよく見ている。
「……なら。」
「うん?」
「行ってもいい。」
その言葉に、勇斗は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。」
「勘違いするな。」
「ん?」
「勇斗の友達だから、仲良くしたいだけ。」
「うん。」
「……笑うな。」
「ごめん。」
「全然反省してない。」
二人の笑い声が、雨上がりの街に溶けていく。
雲の切れ間から差し込んだ夕日が、濡れた歩道をきらきらと照らしていた。
その光は、二人の未来を優しく照らしているようだった。
くるみ_226
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コメント
1件
第3話、読み終わりました。雷が苦手な仁人が無意識に勇斗の袖をつかむシーン、すごく印象的でした。からかわずに「教えてくれてありがとう」と言える勇斗の優しさが沁みますね。雨宿りのカフェでの会話や、友達の輪を広げようとする提案も温かくて、二人の距離が自然に縮まっていく感じが素敵でした。今後の展開も楽しみです。