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白山小梅
12
#借金
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「えっ……だって昴くんは早紀さんが好きなんだよね? それは今も変わらないんだよね?」
「好きだよ。でも早紀さんが言ったんだ。『私だけじゃなくて、好きにして良いのよ』って」
絶句した。しかしあの早紀を想像すると、なんとなく頷ける気もしてくる。
「あぁ、確かに早紀さんなら言いそう」
「今日だって本当は早紀さんと会う予定だったけど、仕事が入っちゃってドタキャン。この旅行のことを話したら、行って発散してきなさいだってさ」
「うわぁ……なんかついていけない会話だなぁ。でも……昴くんはそれでいいの?」
「なんで? 早紀さん以外なら誰と何しても同じだし。俺にとって特別な行為は早紀さんだけだからね」
そう言い切った昴に、何故か七香は安心した。早紀のことを語る時だけ少年のような可愛らしさを見せる昴に、七香の心がきゅんと疼く。
やっぱり私、早紀さんのことを好きな昴くんが好きなんだーーそのことを再認識し、思わずクスッと笑ってしまう。
「本当に早紀さんに沼ってるなぁ。まぁある意味昴くんが変わってなくて良かったよ」
「……そんなに成長していない? 七香は逆に大人になった気がする」
「あら、じゃあ変わらない昴くんと、大人になった私ならちょうどいいバランスかもねぇ」
早紀の話を終えても、二人の空気はそれほど変わらなかった。むしろワインが進むにつれ、饒舌になっていく。
「七香は最近はどうしてた?」
「別に、普通の女子大生だよ。いろいろな経験がしたくて、資格とか取りまくってる」
「恋人は?」
「いた、っていうのが正解かな。でもすぐに別れちゃった」
「どうして?」
「んー、合コンで気が合って、じゃあ付き合ってみようかーみたいな流れになって。でもやっぱり好きになれなくて別れちゃった」
「ふーん、それって一人だけ?」
「いや、二人」
「そいつらとは、セックスはしてないんだ?」
すぐにそういう話に持って行こうとする昴に、不満そうに唇を尖らせる。
「あーあ、またぁ? 昴くんと話すとすぐにそういう話になるから嫌なのよ」
「だって俺の専売特許だし。で、したの?」
「してない」
「七香だってはっきり言うよね」
「相手が昴くんだからでしょ。友だちとそんな下世話な話はしないもん」
「じゃあ七香はまだ処女なんだ」
「そうよ。でもいつかそのうちする日がくるだろうし、まぁしなくても生きていけるし。別に慌ててないから」
それは七香の本心だった。昴と早紀のことがあって、性行為に愛情を感じられなくなっていた。ただの性欲を満たすだけの行為に意味があるように思えなかったのだ。
七香は軽く答えたつもりだった。しかし昴が急に黙り込んだかと思うと、突然七香の顔を覗き込む。
「じゃあさ……俺と試してみる?」
一瞬、彼の言葉が理解出来なかった。体がカチンと凍りつき、動けなくなる。
「試すって……私と昴くんが? あり得ないから。寝言は寝て言おうね」
「俺正気だけど。人生で一回くらい経験しておくのもいいと思わない? 俺なら七香をイカせる自信がある」
「どんな自信よ」
「それだけ経験豊富ってことだよ。焦ってないのはわかったけど、気持ちいいセックス、経験してみたいと思わない? しかもよく知ってる人物なら尚更安心だろ?」
「知ってるって言っても、名前と職業と早紀さんが大好きってことしか知らないし」
「それで十分じゃない?」
「愛情もないのに?」
「なくたって気持ちいいことに変わりはないだろ」
「で、でもっ……昴くんは早紀さんが好きなわけだし……それって浮気なんじゃ……」
「付き合っていればね。俺たちはそういう関係じゃない」
あまりにも強く言い放った昴に、言葉の裏に何か違う感情が隠れているような気がした。平気なフリをして強がっている子どものような意地の張り方ーー彼が本当は早紀の恋人になりたいと強く願っているのが、微妙なニュアンスから伝わってくる。
なんだかんだと理由をつけているが、人肌に触れたがっているのは彼の方である気がした。
早紀さんに『好きにしていい』と言われて寂しかったのだろう。それを打ち明けられない弱さが、彼をさらに深みに追いやったのかもしれない。
「昴くん、今一時帰国中って言ってたけど、早紀さんには会ったの?」
「会ったよ。帰国してすぐに。でも忙しいみたいで、だから昨日会う予定だったのがなくなった」
それで急遽この旅行に参加ーーなんとなく経緯は納得がいった。だから彼はその寂しさを埋めるために自分を誘ったのだろう。
高校生の時に失恋をした相手とセックスをするなんて、考えたこともなかった。というか、自分が誰かと体を重ねる感覚がさっぱりわからない。
昴くんの慰めになるのなら、彼に抱かれることは嫌ではないーー自分のためというより、彼のために抱かれようとしていることに戸惑いを感じるが、あんな寂しい顔をさせたくないと感じているのも事実だった。
ただ一度は好きになった人。早紀さんを好きな昴が、今も愛おしく感じたのは嘘ではなかった。
ただ昴にとって、早紀以外は誰と何をしても同じだと言っていた。それは七香が"早紀以外の女性"に成り下がる決意も必要なのだということを示していた。
するか、しないか。受け入れるか、拒絶するか。どうせ今日だけの関係。失恋もセックスも、初めてが昴だというのはいい思い出になるかもしれない。七香は昴の目をじっと見つめながら考えつづけ、ようやく答えを導き出した。
「……初めては痛いって言うじゃない? それが少し怖い……」
「ゆっくり優しくする。七香が気持ちいいところを探して、痛くならないようにするよ」
「……絶対?」
「絶対」
「……わかった、じゃあ、する」
俯きがちに答えると、昴は立ち上がってから七香を抱き上げる。
「ひゃっ!」
驚いた七香は昴の首にしがみつくと、極度の緊張感に包まれ瞳をギュッと閉ざした。