テラーノベル
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キーンコーンカーンコーン
生徒「起立、気を付け、礼」
全員「さようならー」
ab「さようなら」
阿部亮平。雪野高等学校二年六組担任。数学担当。30歳独身、彼女なし。母親から結婚を急かされている今日此の頃。
少し人馴れしていないところもあるが、生徒と話すのはそこまで嫌じゃない。生徒もよく俺に話しかけてくれる。生徒と距離が近くなるのは良いことだと思っていたが、それは昔の話みたいで、今は「距離感考えてくださいね。生徒に深入りしないように」だから。
いや、そんなの分かってるって。適正距離を保ちながら、楽しく仕事してますよ。
生徒A「阿部ちゃん先生ー」
ab「阿部ちゃん先生って呼んでいいって誰が言った」
生徒A「こいつ」
生徒B「ちょっ、馬鹿!」
ab「まあいいけど、それで、何か用でも?」
生徒A「文化祭さ、俺らコスプレ喫茶やんじゃん?先生もして欲しくて」
ab「えっ?なんで?」
生徒B「先生女子ウケいいからさ!なんか王子とか吸血鬼とか、そこらへんのコスプレしたら客寄せになんだろ?」
ab「そんなことないと思うけどなー」
生徒A「頼む!ガチで!」
ab「…ものによる」
生徒B「よっしゃー!いくつか案考えとくから。安心して」
ab「はいはい笑」
生徒A「じゃーなー」
これは日常茶飯時。生徒からもタメ口で話されて、まあ嫌じゃないし、全然いいんだけど…
iw「阿部先生、また生徒と距離近かったでしょ?」
同僚の体育教師である岩本照先生の視線が痛い。同い年で同期だからタメ口で話す仲なのだが、照は強面だからか、生徒からは少し恐れられている。特に男子。しかし、最近は生徒の中で、岩本先生は可愛いのでは?という噂が広がり、人気を集めている。
ab「いいでしょ?生徒とはちゃんと距離を保ってるから」
iw「阿部の距離はバグってるからなー」
ab「自制はしてるよ」
iw「はいはい、分かりました」
ab「分かってなさそうだな」
放課後、職員室でテストの採点や、個人成績の整理を済ませる。個人成績は、もちろんテストの点数も大事だが、主体的に授業に取り組んでいるのか、学校生活の態度はどうかなども含まれる。こういうのは学期末にするものだと思われがちだが、俺は一気にやるのが苦手。だから、こうしてコツコツ進めている。
その時に、ふと出席名簿に目を落とす。最近は出席停止や公欠ではなく、欠席する生徒が増えてきている。そのためか、進学の場合だと大学や専門学校は皆勤している生徒を求める。こういうところが重要になってくる。
だが、一つの行だけ全てにバツが付いている。バツは欠席のマーク。
____________目黒蓮。
うちのクラスの不登校生徒だ。俺は目黒くんを二年からしか担当していないから一年の様子を知らない。去年目黒くんの担任だった教師の人によれば、一学期は普通に登校していた。だが、夏休み明けから来る回数が減っていった、と。
去年はギリギリ出席日数をクリアしていたみたいで進級できたが、今年度になってから一度も登校していない。もうそろそろヤバいから、説得しなければ。
iw「あー、目黒?」
ab「そう。来てないからさ」
iw「連絡は取ってる?」
ab「一応ね。でも、行けませんの一点張り」
iw「そっか…」
ab「最近は電話にも出てくれなくなって」
iw「うーん、連絡ぐらいないと安否確認が出来ないからなー」
ab「でも、だからといって家に押しかけるわけにはいかないじゃん?」
iw「それはない」
ab「でも、一回ぐらいはいいのかな」
iw「いやダメだろ」
ab「だって、二週間ぐらい連絡取れてないんだよ?心配すんじゃん」
iw「まぁそうだけど……一回だけだぞ」
ab「えっ?」
iw「一回行って、ダメなら諦めろ」
ab「分かった」
午後5時半。5時に学校を出て徒歩三十分で目黒くんの家。距離は比較的近いから、距離や交通手段が問題で学校に来れないわけではなさそうだ。
________着いた。
えっ、これが家?目の前にあったのは二階建てのアパート。築四十年ぐらいか。かなり年季が入っている。
ここに、目黒くんが住んでいると。言ってはいけないが、かなり想像と違っていた。
うちの高校は私立で、授業料とかもかなりの額がかかるから、どちらかといえばお金持ちが入学する場所。だからか、勝手に目黒くんの家をマンションだと思い込んでいた。
目黒くんの家である203号室のインターホンを鳴らす。いや、こらインターホンか?なってる気配もないし、壊れてる気もする。
そう思った時________
??「…ゃん!……ぃちゃん!兄ちゃん!」
家の中から、誰か子供が叫んでいる声がした。お兄ちゃん、そう呼んでいる。
確か、目黒くんには幼い弟さんがいる。中で目黒くんと何かあったのだろうか。
ドンドン
ab「大丈夫ですかー!目黒くんの担任の阿部です。良かった開けて貰えませんかー」
開くだろうか。電話も出なくなった生徒が、いきなり押しかけてきた担任教師に心を許すはずがない。
ガチャ
ab「えっ?」
弟「助けてっ!兄ちゃんがっ!」
ab「何があったの?」
弟「来てっ!」
小さな手で中へと引かれ、急いで中の様子を伺うと、そこにあったのは…
ab「目黒くん…?」
床に倒れた目黒くんの姿だった。あんだけ弟くんが叫んでいたのに起きないというのはただ寝ているというわけではなさそうだ。
危険を感じて急いで目黒くんの脈を計る。幸い、まだ動いている。ふと近くのボトルが見えた。
食器用洗剤、そう書いてあった。ボトルはキャップも外れて少し液体が垂れている。もしかして…
『界面活性剤中毒』
洗剤の大量摂取は命に関わる。自殺目的で使う人も少なくない。まさか、飲み込んだ訳じゃ…
ab「すみません!救急です!男子高校生が部屋で倒れていてっ!」
脈があるうちに救急車を呼ぶ。早く、早くと心の中にで叫んで。こんなに長い時間は久々だった。
弟「兄ちゃん…グスッ」
ab「ありがとう、気づいてくれて」
弟「兄ちゃん、大丈夫?」
ab「きっと…」
俺が言えることじゃないから、そこから先は言えなかった。でも、後ろ向きな考えは俺も信じたくない。だから、きっと。
救急車が到着し、すぐに目黒くんは運ばれた。発見者として、俺と弟くんも救急車に同乗した。
幸い、命に別状はなかった。発見が遅れていたら、命を落としていたかもしれないと。
行ってよかったと思った。命を救えたことに今は何より安心した。
時間が経ち、病室の前でふと考える。どうして目黒くんは洗剤を飲み込んでしまったのだろうか、と。
心の中では、自らの選択であって欲しくなかった。だが、誤飲するような年でもない。可能性は一つに絞られてしまう。
医師「目が覚めましたよ」
ab「ありがとうございます」
弟くんを連れて病室に入る。妙な緊張感があった。だって、俺は目黒くんとはほぼ初対面だったから。
目黒くんは身体を起こしていたが、僅かに俯いて遠い目をしていた。
弟「兄ちゃんっ!」
弟くんは目黒くんのもとに駆けつけ抱き締めた。
mg「ごめんな、心配かけた」
目黒くんもそう言って弟くんの頭をそっと撫でる。俺も胸を撫で下ろした。
目黒くんの視線が俺に向く。
mg「どちら様ですか?」
弟「兄ちゃん助けてくれた人!」
その言葉で目黒くんの表情は一変した。なんとなく想像はしていたが、それよりもはるかに冷たく変わり者を見るような目だった。
mg「陽、キッズスペースで遊んでて」
弟「はーい」
どうやら、弟くんの名前は陽くんというようだ。
そんな平和な考えは1秒にも至らなかった。すぐに目黒くんの抑揚のない低い声が俺の鼓膜を揺らした。
mg「なんで助けたんですか…」
ab「そりゃ…人が倒れてたら助けるでしょうよ」
mg「俺は死にたかったんだよ」
そういうと思ったよ。倒れてるところを見りゃ一目瞭然。
ab「でも、だからといって見捨てるわけにはいかない。自殺補助になるし」
mg「てか、誰?」
ab「高校の担任の阿部です」
mg「なんで教師がうちに来てたんですか?どうせ説得でしょ?」
ab「当たりです」
mg「…来なきゃ良かったのに」
その言葉から、彼がどれだけ死にたかったのかが分かった。本当に思いやられていたのだろう、生きているのが辛いって顔に書いてある。
ab「俺は行って良かったと思ってる。目黒くんを不幸な人生のまま終わらせずに済んだから」
mg「…は?」
ab「人生、終わるなら幸せな時に終わったほうがいいよ。辛いまま死ぬのは、一番辛い」
mg「………」
ab「学校、来なくていいよ」
mg「えっ?」
ab「生きてくれるだけで100点満点だから」
目黒side
この教師は馬鹿なのか?学校来なくていいとか、俺にとっても先生にとっても損でしかないじゃん。
でも、こんな教師は初めてだった。誰もが学校来いって急かすから、行く気もなくなるし、強要されるのが辛かった。
それなのに、この人は違った。来なくていいなんて、甘ったるいことを平気で言う。面白い。
mg「ぷっ…、ぷはっ!先生、面白いですね」
ab「何が面白いんだよ」
mg「あー、自殺しようとしてた俺がアホらしいわ。なんかもうどうでもいい」
阿部side
目黒くんがやっと笑ってくれた。俺のどこに笑う要素があったのかは分かんないけど。でも今は、この瞬間を面白いって思えてくれたなら、それでいい。
mg「じゃあ先生、俺の人生、楽しませてくださいよ」
ab「えっ?」
mg「だって、人生楽しんで終わったほうがいいんでしょ?なら、先生が俺を楽しませてください」
ab「ちょっと、急だな。しかも、楽しませるとか…」
mg「俺、最近弟としか話してないんです。だから、人と関わるのが怖いんです。でも、先生はなんか、大丈夫な気がする」
ab「そんなこと言われたらなー…」
mg「お願いします」
ab「分かったよ…」
mg「えっ?」
ab「その代わり!少しは勉強してね」
mg「えー」
ab「はい、は?」
mg「…はい」
俺が撒いた種だ。しっかりと目黒くんのことを支えてあげなきゃいけない。
________この日から、俺と目黒くんの人生は始まった。
コメント
3件

めめ〜そこまで行くには色々とあったんだね( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`) でも生きてくれるだけで100点満点なんて言ってくれる先生に出会えて良かったね
うわ、これはめっちゃ重い回だったな…。教師が不登校の生徒の家に行って、まさかの♡♡♡未遂に遭遇する展開、読んでて息が止まったわ。 でも最後の「学校来なくていいよ。生きてくれるだけで100点満点」って阿部先生のセリフ、めっちゃ響いた。普通「来いよ」って言うとこを「来なくていい」って言えるの、すごいよな。目黒くんが笑った瞬間、こっちもホッとした。 この二人、これからどうなるんだろう。続きめっちゃ気になる🔥
篝火

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#目黒蓮受け