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帰宅後
プルルル
ab「もしもし」
iw「目黒、どうだった?」
ab「えっと…」
これは言うべきだろうか。一旦数学的に考える。
まず、言った場合どうなるか。このような事例があると校長、学年主任が目黒くんのもとへ行って、それから全校集会がある。かなりの大ごとになる。目黒くんはそれを望まないと思う。人付き合いが苦手な上に、教師に対して少し反感を抱いていた。なら、俺以外の教師が関わるとまた目黒くんが遠くなる。せっかく心を開いてくれそうなのに、こんなことをしたら台無しだ。
次に、言わなかった場合を考える。そうすると目黒くんは安心して休むことが出来る。しかし、バレた時に責任を問われるのは俺。
ちなみに、目黒くんは今日は病院で安静にするよう言われている。明日には退院出来そうとのこと。
それを考えていると一つ聞き忘れていたことがあった。目黒くんの母親に連絡がいっているかどうか。今日目黒くんと話したときに確認すればよかった。
でももう遅い。照と電話している、なんなら目黒くんはどうだったかと聞かれている。今の俺はどうすれば…
ab「会えなかったよ」
結局、自分の責任を犠牲にして目黒くんを優先した。
iw「そっか」
ab「でも、もう一度だけ行ってみるよ」
iw「えっ?」
ab「なんか、諦めつかないから」
なんて嘘。俺が目黒くんに会う理由が必要だから、今はこう言っただけ。
iw「そっか。頑張れよ」
ab「うん」
そこで通話は切れた。今は7時半。もう一度病院を訪問出来るだろうか。出来るなら、母親のことを聞かなければならない。
病院へ向かうと、まだ病院は閉まっていなかったが、面会は出来ないとのことだった。諦めて帰ろうとした時。
mg「先生?まだ帰ってなかったんすか?」
自分の背後から目黒くんの声が聞こえた。どうやら家に帰っても誰もいないようで弟の世話をしなければならなくて、病院のご飯を弟にも分けられるか聞きに来たところだという。いいタイミングだった。
ab「ねぇ、お母様には連絡した?」
mg「………あんな母親いない」
ab「えっ…」
mg「どうせ俺には興味ないから」
なんとなく、家庭のことを察した。目黒くんが学校に来られなかったのは、家庭の問題もあってなのだろう。
ab「このことは、学校には」
mg「言わないで。こういうときって、大体校長とか来るでしょ?人と会うの苦手だし、大ごとになったら面倒くさいですし」
やはり、照にああいってよかったと思う。目黒くんのことを考えれば正しかったのかもしれない。俺にとっては間違いだけど。
mg「母親には、連絡いってるんです、一応。でも、どうせ来ませんよ。こんなこと、初めてじゃないし」
ab「初めて、じゃない…?」
これが最初じゃなかったの?今まで何回もこんなことしてきたの?
ab「ごめん…」
mg「なんで先生が謝るんですか?」
ab「気付いてあげられなくて…」
mg「大丈夫です。これからは先生がいてくれるんですよね?」
ab「うん」
mg「なら、一旦頑張ろうと思います」
ab「良かった。でも、二度とこういうことはしないでね」
mg「頑張ります笑」
そう、この世の中には、生きるために頑張らないといけない人が大勢いる。それは目黒くんも含めて。
だから、俺が今できることは、目黒くんが元気に生きていけるように支えること。
ab「あっ、陽くんはどうするの?」
mg「今日は病院で寝泊まりです。明日は休みですし」
ab「そっか」
mg「じゃあ、さようなら」
ab「あっ!待って!」
mg「?」
ab「これ、俺の連絡先だから。いつでもは無理だけど、学校終わった後とか、休みの日は目黒くんが呼びたくなったら呼んで。飛んでいくから」
mg「分かりました。ありがとうございます」
目黒くん、俺が単に優しい訳じゃないよ。分かるんだよ。目黒くんの気持ちが。
________俺も、同じ境遇の人間だったから。
翌日
ピロリロリン
mg「今、退院して家に帰ってきたところなので、よかったら来てください」
目黒くんからの連絡。連絡できる余裕が出来たなら良かったと思う。
ただ、流石に生徒に深入りしすぎたかとも感じる。教育委員会の規定に反してはいけない。なんなら条例もある。関わりはほどほどにしなければいけない。とは言っても、昨日の今日で断るわけにはいかない。
ab「分かった。向かいます」
目黒くんの家に行くと、お詫びとお礼を兼ねてお茶を出してくれた。お金がないようで菓子折りもなにも用意できなかったそう。病院の入院代は母親のお金を勝手に取ったという。そんなことをしなければいけないほど、苦しんでいるのだろう。
mg「すみません。お茶しか出せなくて」
ab「ううん、大丈夫。身体の方はどう?」
mg「昨日のことがなかったみたいに元気で」
ab「そっか」
mg「今までなら、何でまた死ねないんだろうって思ってました。でも、先生がなんか面白いから、この人生悪いことばかりじゃないんだなって思えたんです」
ab「面白い…かな?」
mg「先生は面白いですよ。あと、何であんなことしたのかとか、先生聞かないじゃないですか」
言われてみればそうだ。目黒くんが倒れてて凄く焦ったから、一命を取り留めてホッとした。だからか、今は理由とかより元気に生きてる目黒くんを見られてるだけで嬉しかったのだ。
ab「そう、だね」
mg「先生のそういうところ、良い意味で先生らしくなくて安心するんですよ。教師って大体、学校来いとか、何で学校来ないの?何でこんなことしたの?って問い詰めてきて鬱陶しいんです。でも、先生は寄り添ってくれるから」
ab「なんか、嬉しいなー。でも、本当に苦しくならったら言ってね。一人で溜め込まれたら、こっちが困るから。心の準備が出来たらでもいいし」
mg「ありがとうございます」
ab「じゃあ、帰るね」
要は済んだわけだし、目黒くんにも迷惑だと思ったからここで切り上げることにする。
mg「先生」
ab「何?」
mg「また、呼んでいいですか?」
少し考える。これ以上の深入りは出来ない。教師と生徒が個人的な関わりを持つことは許されることではない。バレたらクビだ。クビというより教員免許失効と言ったほうがいい。つまり、教師ではいられなくなる。
目黒くんを優先するか、自分を守るか。
ab「うん、いいよ」
考えていたのに、自然と口がそう動いていた。俺の返事を聞いた目黒くんが、くしゃっと目元に笑い皺を寄せるもんだから、余計断れなくなる。目黒くんって大型犬みたい。
mg「先生、俺、この人生、楽しんで終わりたいです」
ab「それがいいよ」
でも、まだ知らなかった。目黒くんの秘密はこれで終わらないということを。
コメント
2件
ああ〜読んだ読んだ!!😭✨ 第3話、めっちゃ胸にきたよ… 先生、自分の立場より目黒くんの気持ちを優先して「会えなかった」って言うところ、もうね、優しすぎるでしょ…!最後の「俺も、同じ境遇の人間だったから」って伏線、エモすぎて震えた。大型犬みたいな目黒くん、守りたくなる存在すぎる🥺💕 続きが待ち遠しいよ〜!