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「迷わなかった」という人もいれば、そうでもない人もいる。
レイさんは後者だったんだろう。
いつもの質問を繰り返す私に、ふとレイさんが尋ねた。
『君はホストの家族?』
(えーっと……)
この質問をされると、私はいつも少しだけ困る。
正確には、私は野田一家の「家族」じゃない。
だけど伯母の家の居候だなんて、説明するとややこしいだけだし、「YES」と答えた。
『名前は?』
『澪(ミオ)です』
『……ミロ?』
『違います、「ミオ」です』
日本人の名前は聞き取りづらいようで、最初からきちんと言える人は珍しい。
『ミロ?』
『違います、ミ・オ!』
レイさんは困った顔で私を見た。
どうやら本当にわからないらしい。
『どう発音するの?』
私は小さく息を吐き出して、正面から彼に向き直った。
『ミ・オ。
М・I・Oで、「ミオ」です』
『ミ・オ?』
『そうです、ミオ!』
通じた!と嬉しくなった私に、レイさんも謎が解けたような顔で笑った。
『ミオか。
ミオは中学生? 英語が上手だね』
嬉しくなったのも束の間、私はの気分は急降下した。
だけどこういった勘違いも、欧米人の人にたまにある。
『……高校生です』
17歳だと言えば、レイさんはかなり驚いた顔をした。
もう慣れたとはいえ、その顔はちょっとは傷つく。
(……そんなにも子供っぽいのかなぁ)
たしかにラフな服を着てるけど、それなりにおしゃれだと自分では思うのに。
俯きかけた私の耳に、苦笑まじりの声が届く。
『ごめん。
ミオがかわいいから、間違った』
その発言に勢いよく隣を見上げれば、レイさんは綺麗な目で私を見返した。
(なんですか、そのお世辞は……)
やっぱりこういうところが「外国人」だ。
クラスの男子なら絶対に言わない。
……いや、佐藤くんなら言ってくれるかもしれないけど、それでもこんなスマートに言えるはずがない。
ハートを二度打ち抜かれそうになった私は、さっと顔を背けて足を速めた。
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