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7話目もよろしくお願いします!
レトルトとキヨの過去の話が出てきます。
ちょっと長いです。
スタートヽ(*^ω^*)ノ
レトルトは連れて行かれた。
キヨは信じられなかった。
あのレトルトが捕まるはずがない。
自分が張り巡らせた罠を、遊ぶように潜り抜けてきた男。
夜を支配する怪盗。
誰よりも自由で、誰にも掴めない存在。
違和感が胸の奥で渦を巻く。
キヨは深夜、地下の牢獄へと向かった。
階段を降りるごとに空気が冷たくなり、
湿ったカビの匂いが鼻につく。
無機質なコンクリートの壁。
蛍光灯が時折、ジジ…と音を立てて揺れる。
最奥の牢。
鉄格子の向こうに、
床に腰を下ろしている男がいた。
手錠。
足枷。
動きを封じられてなお、
その姿は不思議なほど余裕に満ちていた。
キヨが近づくと、
レトルトはゆっくりと顔を上げる。
『こんばんは、探偵さん』
低く、穏やかな声。
まるで、捕まったのは想定済みだったかのように。
「どうして….」
声が、自分でも驚くほど掠れていた。
「なんで捕まってんの?お前… わざとだろ」
『ふふ…さすがだね。 やっぱりキヨくんにはバレちゃったかぁ』
レトルトは、ふふっと小さく笑う。
囚われの身とは思えないほど、余裕のある表情。
その笑顔が、
なぜかひどく胸を締めつける。
「……目的はなんだ」
キヨは睨む。
『だってさ、こうでもしないと――
キヨくんと、ゆっくり話せないと思って』
そして、少しだけ声を落とした。
『今日のキヨくん、変だった』
その一言で、キヨの胸が跳ねる。
『ずっと上の空だった。
俺を追いかけてるのに、心は別のところにあった』
レトルトの瞳が仮面越しにじっとキヨを射抜く。
『俺の事追いかけてる最中に俺以外のこと考えるなんて――許さへんよ?』
冗談めかした口調。
だが、その奥にある感情は冗談ではない。
鋭く、深く、逃がさない視線。
キヨは無意識に拳を握りしめた。
鉄格子の向こう。
レトルトが、音もなく一歩近づいた。
そして――
スッと顔を寄せる。
『なぁ、キヨくん』
低い声が、耳元に落ちる。
吐息混じりの囁きでキヨの背筋がぞくりと震えた。
『俺以外、見ないでよ』
囁きは優しいのに、言葉は鎖みたいに絡みつく。
キヨの体温が一気に跳ね上がった。
「……っ!!」
勢いよく一歩下がるキヨ。
「べ、別に!
上の空になんかなってねーよ!」
声が裏返る。
それが余計にレトルトを楽しませた。
『えー? うそやん!!絶対違うこと考えてたでしょー!!』
レトルトは鉄格子越しに子供のように頬を膨らませる。
『もー!許せないー! 俺だけ見てよー!』
牢屋にいるのはどっちだ、と言いたくなるほど自由な態度。
――こいつ、なんなんだよ。
キヨは思わず眉をひそめた。
レトルトは鉄格子越しに、静かに問いかけた。
『せっかく捕まった事だしさ。 ちょっとお話しよーよ。 教えてよ。どうして上の空だったの?』
その声は、さっきまでのふざけた調子とはまるで違った。
甘さも戯けも消え、ただ真っ直ぐに心を射抜く声。
「……別に」
絞り出した声は小さかった。
「…. お前を追って、捕まえて。
俺はそれが正しい事だって信じてきた。 俺は……自分がしていることが正義だと信じてた。
怪盗を捕まえる。それが探偵の役目で、世の秩序を守るための正しい行いだって。
でも……」
言葉が止まる。
レトルトは何も言わず、ただ聞く。
その沈黙が、続きを許してしまう。
「……お前が盗んでたのは、 本来あるべき場所に戻すためだった。
お前の過去を調べて 盗まれた宝の“本当の持ち主”を知った。 ……俺は、わからなくなった。
俺が守ってきたのは、
奪った側の“権力”だったかもしれない…」
キヨは自嘲気味に笑った。
「俺が追ってたのは本当に“悪”だったのか…って。」
レトルトはゆっくりと笑う。
柔らかく、安心させるような微笑み。
『そっか…。ねぇ、キヨくん。「正義も悪も、ひとつじゃない。 立つ場所で形が変わる。」
そして、優しく問いかける。
『キヨくんは……なんで探偵になったん?』
その声は柔らかい。
甘いほど優しい。
なのに、不思議と逆らえない響きがあった。
キヨは鉄格子に手をつき、視線を落とす。
そして、ぽつりと語り始めた。
⸻
「……俺が子供の頃の話だ」
声は低く、淡々としているのに、奥に押し殺した痛みが滲む。
「その日は父さんが夜勤の日でさ。
家には母さんと兄ちゃんと俺の三人だけだった」
静かな地下牢に、遠い夜の記憶が流れ込む。
「夜中、突然母さんの叫び声で目が覚めた。
今まで一度も聞いたことのない声だった」
キヨは息を詰める。
「――『二人とも! 逃げなさい!!』」
その叫びが、今も耳の奥で鳴る。
「怖くて、でも何が起きてるのか分からなくて……
俺は母さんの部屋の扉を開けたんだ。
“逃げろ”って言われたのに」
喉が震える。
「……ドアを開けたんだ」
声は低く、かすかに震えていた。
「その先にいたのは、知らない男だった。
母さんはその男と掴み合いになってた」
鉄格子越しの薄暗い灯りが、キヨの横顔に影を落とす。
「母さんは叫んだ。
“逃げなさい! 早く!”って」
その言葉を、何度夢で聞いただろう。
「……でも俺は動けなかった。
怖くて、震えて、足が床に縫い付けられたみたいだった」
拳が震える。
「兄ちゃんが俺の手を掴んで、無理やり外へ引っ張り出してくれた。」
「気づいたら、家の外にいて。
大人たちの声がして …」
キヨは目を閉じた。
「そのあとすぐ、犯人は捕まった。
金目当てで忍び込んだらしい。
部屋で母さんと鉢合わせして、掴み合いになって……」
喉が震える。
「そして――母さんは、その男に殺された」
短い沈黙。
地下牢の空気が、さらに重くなる。
「……なんで、母さんが殺されなきゃいけなかったのか、分からない。でもどんな理由があったとしても俺はその男を許せなかった。だからその時決めたんだ」
声は低く、揺るぎない。
「悪は許さない。
大切なものを盗む奴を。
大切な人を奪う奴を。
俺は――絶対に許さないって」
鉄格子の向こうで、レトルトの瞳がわずかに揺れる。
「守れなかった過去は消えない。 でも、これからは奪われるものは――俺が守る。 だから俺は探偵になったんだ」
言い切ったキヨの声は、静かな地下牢に強く響いた。
しばらくの沈黙の後 レトルトが静かに囁いた。
『……なるほどねぇ』
そして、次はキヨがレトルトの仮面の奥を見つめて聞いた。
「お前は?なんで怪盗になったんだよ」
レトルトはふふっと小さく笑い、まるで遠い記憶を撫でるような、静かな声で話し始めた。
⸻
『俺の家族はね、ある日突然“奪われた”』
レトルトはゆっくりと顔を上げる。
仮面の奥の瞳が、暗闇でもはっきりと光を宿していた。
『大切にしていたものがあった。家族で守って大切にしていたものやった。
でも外の世界はそれを“価値のあるもの”として嗅ぎつけた』
淡々と語る声が、逆に重い。
『武器を持った大人たちが来て、 守ろうとした俺の家族は、俺の目の前で――殺された。』
キヨの指先がわずかに震える。
『泣いて叫んでも、誰も助けてくれへんかった。家族も守れなかった。』
レトルトは微笑む。
優しいのに、底が見えない笑み。
『だから決めたんや。これからは 俺が助けてあげるって。 奪われたものを奪い返して 本来あるべき場所へ返す。 泣いてる人の手に、ちゃんと戻してあげたいんよ』
沈黙。
キヨは言葉を探すが、見つからない。
鉄格子越し。
二人の距離は遠いのに、心は否応なく近づいていく。
キヨは低く問いかける。
「じゃあ俺は……
今までお前を捕まえようとしていた俺は……
間違ってたのか?」
レトルトは首をかしげる。
『さぁ? それを決めるのはキヨくん自身なんじゃないん?』
捕らわれているはずの怪盗が、
まるで檻の外にいるかのように笑った。
その笑顔を見て、
キヨの胸の奥で何かが静かに音を立てて揺れ始めていた。
『俺の正義とキヨくんの正義は――
ちょっと似てるね』
声は低く、甘く、確信を帯びていた。
『どっちもさ、“守りたい”って想いから生まれてる。
大切なものを守りたい。
もう二度と失いたくない。
そのためなら、どんな道でも進む』
レトルトの目が細く笑う。
『キヨくんは“悪を捕まえる”ことで守ろうとした。
俺は“悪から奪い返す”ことで守ろうとした。
ほら、ね?
向いてる方向が違うだけで、
見てるものは同じなんよ』
⸻
キヨは何も答えられなかった。
否定できない。
だからこそ、悔しい。
レトルトは楽しそうに続ける。
『だから俺はキヨくんのこと…好きやで。
同じ想いを持ってる人に、初めて会えたからさ』
まるで秘密を共有するように囁く。
キヨは息を呑んだ。
胸の奥が、熱い。
でも、それが怒りなのか、焦りなのか、共鳴なのか――
自分でもわからない。
正義だと思ってきたもの。
信じて疑わなかった道。
それが、目の前の怪盗と同じ根から生まれていたなんて。
「……っ」
声にならない。
言葉にすれば、何かが崩れてしまいそうで。
レトルトはその沈黙さえ愛おしむように微笑んだ。
『その顔、唆るなぁ。本当キヨくんって可愛い。』
『….壊しちゃいたい位に』
耳元で甘く囁かれて キヨは顔を真っ赤にして唇を噛みしめる。
心臓がうるさいほど鳴っている。
レトルトの指先が、鉄格子越しにキヨの頬をなぞる。
冷たい鉄と、温かい指。
その温度差が、やけに生々しかった。
いつのまにかレトルトの両手の手枷が床に落ちていた。
「手枷が……なんで!? いつのまに!!」
目を見開くキヨ。
さっきまで確かに、鉄の輪はレトルトの手首を縛っていたはずだ。
レトルトは楽しそうに肩をすくめる。
『俺を誰だと思ってんの?』
レトルトは楽しそうに目を細める。
仮面の奥で、確かに“笑った”気配がした。
『世間を騒がす大怪盗レトルト様やで?』
悪戯っぽく笑う声が冷たい地下に響く。
『捕まってあげてただけやで?
キヨくんが来てくれるって信じてたからさ』
レトルトは一歩、鉄格子の内側から距離を詰める。
「……お前、最初から――」
『うん。最初から、こうするつもりだったよ。』
レトルトは鉄格子の隙間から手を出し
キヨのネクタイを軽く引く。
ぐい、と身体が引き寄せられ、
二人の距離は吐息が触れるほど近くなる。
『言ったやん。ゆっくりキヨくんと話したかったって。』
優しい声。
けれど、抗えない熱を帯びている。
キヨは息を呑んだ。
逃げたいのに、目を逸らせない。
そしてレトルトは、囁くように笑った。
『ねぇキヨくん。
今度は――
キヨくんが俺に捕まる番だよ』
続く
コメント
4件
寝てたぁッ!!!!!2時間前に見てれば良かったッ!!!! 2人の過去で死にそうになってその後死んだんですけどどうしてくれるんですか!
うわぁ…!!やっぱストーリー 神すぎる!!お互いの過去があった なんて…どうなるんですかね!?