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「おっしゃ〜次の音楽でラスト!」
その日の最後の授業である音楽の授業の準備を教室のロッカー前でしていたところ、一切の前触れなくその事件は起こった。
「私らで最後みたいだね。ちゃっちゃっと音楽室向かうぞい」
ーそれは突然のことだった。
カンッ、カランと音が聞こえた。私はただ西田がリコーダーを落としただけに見えたが、すぐに彼女の様子がおかしいことに気付いた。
「西田……?」
彼女は壁際に後退ってしゃがみ込んでいた。その顔は蒼白で瞳が僅かに揺れている。
そこで私は西田が落としたリコーダーを見下ろし、嫌な予感を押し殺してゆっくりと近付いた。
ー乳白色の粘液がリコーダー全体にべっとりと付いている。西田の反応とリコーダーに付着した粘液の意味を照らし合わせて、…考えたくもない一つの結論に思い至った。
これはーー
「触らないで」
顔を跳ね上げると、そこには隣の教室から出てきたであろう遊宵先生がいた。
「そこで待ってて」
職員室へ駆け出したその背中を見送って、私はハッと西田の存在を思い出した。すぐに駆け寄ってその手にハンカチを握らせる。が、西田は焦点の定まらない目のまま一言も発しない。
…暫くして数名の先生たちがやって来るまで、私は西田にそれ以上声をかけることが出来なかった。
先生たちの足音に気付いたのか、西田は急に顔を上げた。
「…あたし帰ります」
ハンカチがはらりと足元に落とされる。足早に歩き去っていく西田を先生が追って行った。
どうしよう、どうしよう、どうしよう………
パニックと後悔と無力感が頭の中でせめぎ合う。目の奥が熱くなっていくとともに小さく嗚咽を漏らしかけたときーーぽん、と背中に包み込むような温もりが広がった。
「…ちょっと話さない?」
その一言ですっと思考が落ち着く。
…そうだった。私には、西田のためにするべきことがある。
遊宵先生の目を真っ直ぐに見つめ返し、私は確かに頷いた。