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#異世界ファンタジー
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「……ん」
目が覚めると、優羽は藁をかぶって寝ていた。
お日様の匂いを吸い込んだ藁の香りを、思い切り吸い込む。
そういえば、異世界に来たんだったなと息を吐く。
体が疲れていたのだろう。予想以上の快眠が、頭の中をクリアにしていた。
昨日の出来事が整理されて、意外にも冷静だった。
横になったまま、視線を横に向けた。黒くなった焚き火の跡。
それから、二人分の足が視界に映った。
「ゲート、開いてなかったぁ……」
「ま、方法は他で探すしかないな」
イズナとライルの話し声。
……ゲート?
優羽は、目を擦りながら起き上がる。地面で寝たせいか、身体中が痛い。
「あ、起きた」
「おはよ〜、優羽くん!」
服についた汚れをぱさぱさと落としながら、優羽は「おはよう」と返した。
「聞いちゃったんだけど……ゲートって?」
不安げに問うと、ライルが優羽の横に腰掛けながら言った。
「昨日、イズナが言ってたやつ。『地球に帰る』ために必要なゲートだよ」
そういえば……。
昨日森に入ったのは『地球に帰る方法を知っている』というイズナの言葉が理由だった。
ジャックとの出会いで、優羽はすっかり忘れていた。
「でも……ごめんね優羽くん。そのゲートが割れちゃってて」
イズナの沈んだ声に、優羽は慌てて手を振った。
「謝らないでっ!その、ありがとう……わざわざ、考えてくれて」
優羽の様子に、ライルがくすくすと笑った。イズナも、ふっと微笑む。
「あっはは!優羽、お人好しすぎ」
「ほんと!でも……本人がそう言うなら、他の方法を全力で見つけるまでだね」
優羽は、小さく俯きながら顔を綻ばせた。
「そういえば、昨日の……ジャックは?」
優羽が、辺りをキョロキョロと見渡す。
彼の姿が見当たらなかった。
「かぼちゃ頭なら、まだ暗いうちに森に行ったよ」
「そうなんだ……なんか、みんな朝早いね」
そう呟くと、イズナが笑った。
「優羽くんも早いと思うけどね」
「ていうか、ライルくんは寝てないし」
「え、そうなの!?」
優羽の反応に、ライルが笑う。
「俺は、寝なくても生活できんだよ」
死神は寝ないのか……と一人で納得する優羽。
「私は、朝起きたらお仕事があるからね♪」
「仕事?」
イズナは「そ!」と頷きながら笑った。
「掃除とか、お参りとか、結界の確認とかだね〜」
その時、後ろからがさりと音がした。
足音だ。
優羽が振り返ると、そこにはかぼちゃ頭の……ジャックがいた。
「……おはよう」
彼が、無愛想に言った。
優羽が「おはよう」と返すが、彼はそれ以上何も言わずに通り過ぎる。
ぐるるるる……
「っ!!」
腹の虫が鳴ったのは、その時だった。優羽が、顔を真っ赤にしながら俯く。
そういえば、昨日から何も食べていない。緊張で感じていなかった空腹が、今になって押し寄せてきた。
ライルが、優羽を見下ろして言った。
「じゃ、街でも行くか」
「……街?」
ライルは、草原を迷いなく歩き出した。
……「俺はいい」と言ったジャックを引きずって。
やがて見えてきた細い土の道を辿っていく。
広大に広がる大地は、どこか海外の風景を思わせた。
街は、優羽が歩き疲れてきた頃に見えてきた。
れんが造りの家々が並ぶ、西洋風の街並み。
あまり大きくはないが、ずらりと店が並び、活気があった。
果物の甘い香り。
食欲をそそる、何かを焼く香り。
カモミールやミントを潰したような、爽やかな薬草の香り。
そういえば、この薬草のような匂い……来てすぐ、こんな匂いを嗅いだような気がする。
「さ、何買う?」
「肉食べたいっ」
「即答!?」
高校生男子らしい回答に、ライルが吹き出す。
「じゃあ、あのお店とか?」
イズナが指差す先を見る。たった今、鉄板で肉を焼いている店が目に入った。
じゅうじゅうと音がする。肉が鉄板に押し付けられ、汁が溢れ出る音だ。
ライルが、その肉を四人分買った。十円玉より一回り大きいコインを渡す。
この世界でも、お金に似たものが使われているらしい。
そして、それを受け取った店主。優羽よりずっと小さな体で、尖った耳をしていた。
ゴブリンだ。
周りを見渡すと、ゴブリンや、エルフや、小さな妖精までいる。
ライル達に会って、異世界に慣れる───なんてことはなくて。
挙動不審な優羽の肩を、ライルが笑いながら叩いた。
「あはは!心配すんなって。俺がいるだろ?」
優羽は、面倒そうについてくるジャックを振り返りながら、どんどん進むライルを追った。
街並みを、突き当たりまで来た。また、優羽のお腹が小さく鳴る。
「ボクもお腹すいちゃった!食べよっか」
イズナに促されて、近くのベンチに腰掛けた。
『いただきます』
街の小さなざわめきを傍に聞きながら、肉を頬張った。
久々の食事が、情報量の多さに戸惑っていた脳を癒してくれる。
「美味し……」
優羽が口をいっぱいにしているのを見て、イズナも一口食べる。
「いっぱい食べて大きくなりなね」
のほほんとした雰囲気のイズナ。小動物でも眺めるような表情だった。
それから、ライル。寝なくても生活できるが、ご飯は食べるらしい。もぐもぐと口を動かしている。
優羽が、ちらりとジャックを見る。そういえば、彼はかぼちゃ頭だ。
ギザギザの口が、開いた。肉を普通に食べている。
優羽の動きが、ぴたりと固まった。
「食べれるんだ」
「……まぁ」
ジャックが気まずそうに頷くと、イズナが弾けるように笑った。
「ジャックくん、怖ぁ。優羽くん、食べられないように気をつけてね?」
「えぇ、人間も食べるのっ!?」
「……変な誤解作らないで貰っていい?」
「あっははは!!ほんとに食べそー」
「黙れ」
「ジャックくん、口悪いぞ〜?」
「────ふはっ、!」
イズナとライルにいじられるジャック。3人のやりとりを見て、優羽が思わず声を上げた。
まだ横で話している2人の輪から抜けて、ライルがこちらに来た。
ぎりぎり肩に触れないくらいの距離。
「初めてじゃん、ちゃんと笑ったの」
「え、そう……?」
そういえば、と優羽が口を押さえる。ずっと強張っていた口角が、上がっていた。
それを見て、目を細めるライル。
横にいる死神と一緒に、笑っていることが。今の優羽には、幸せだった。
朝食も食べ終え、水を飲んで一息ついた頃。そういえば、と優羽が切り出した。
「魔力、とか……夜神玲、さんのこと聞いてないなって」
優羽の疑問に、ライルが斜め上を見て言った。
「あー…..委員長ね。忘れてたな、話すの」
イズナが、ベンチに座ったまま身を乗り出した。
ジャックも、興味なさげにしながら、体だけはこちらを向いている。
「簡単に言えば、俺達の敵って言ったけど……アイツは、魔力を集めてるんだ」
やっぱり、ここでも魔力だ。
「魔力取締委員会委員長……だっけ?ほんと、厄介だよね」
小さく首を傾げながら、イズナが言った。
「委員長は『魔力が多いヤツは危険だから、排除する』って考えで活動してるらしい」
「俺、イズナ、それからかぼちゃ頭。で……あとは優羽。優羽はなぜか魔力が多いから、目をつけられたって訳」
魔力が、多い。またこの話だ。優羽自身、ここに来てから何の変化も感じていない。
「みんなも狙われてる……ってことは、魔力が多いってこと、だよね」
まあね、とライル。
「どうして?」
「俺は、残骸になった奴の魂を刈ってるから」
「あぁ、残骸っていうのは。昨日見た黒いモンスターのことね」
イズナの補足に、優羽が納得した。
「私は、神社への信仰とか、悪霊を祓ったりとか、だね」
「……俺は、迷い込んだ魂を浄火しているから」
イズナに、ジャック。魔力って、この世界の至る所にあるエネルギーなのか……と、優羽は自分なりに解釈した。
そして、小さく息をつく。
「じゃあ……僕は?」
「……」
沈黙が落ちた。
優羽の視線が中を彷徨う。
「まぁ、気楽にいこうよ」
イズナのフォローに、優羽は小さく頷いた。
そしたら……と、ライルが立ち上がる。黒いローブがふわりと揺れた。
「腹も満たしたところで、行こうか」
「どこに?」
「あはは!決まってんじゃん、帰る方法、探しにだよ」
「……!」
ライルが、軽い足取りで街中を進んでいく。イズナも立ち上がって、それについて行った。
「……ぼーっとしてないで、立てば」
ジャックのそっけない声に促され、優羽も慌てて立ち上がる。
歩き始めた足取りが、来た時よりもほんの少し、軽かった。
来た道を引き返す。
店から、客を呼び込む明るい声。小さな子が、アイスを手にはしゃいでいる声。
ゴーン……と、鐘が鳴る音がした。
見上げると、そこには大きな時計塔があった。針が10時を指している。
「時計、この世界にもあるんだ」
イズナが振り返る。
「街にしか、ないけどね〜。確か地球には、どこにでもあるんでしょ?」
「うん。腕時計、とか……」
「これくらいの大きさで、腕につけるんだ」
「へぇ、すご!」
優羽が手で丸を作る。
その時、ふと家のことが頭をよぎった。今ここにいる間、家族はどうしているだろう。クラスメイトは?
そもそも、地球と同じ時間軸で進んでいるのだろうか。進んでいるとしたら、優羽は、ベッドにはいないのだろうか。
「みんな、どうしてるかな」
思わず呟く。
「……大切な人が、いるのか」
「うん。母さんに、父さんに、学校の友達も……」
ジャックが珍しく問いかけてくる。
……その声が、少し震えていた気がした。
だが、優羽が何か言う間も無く、イズナが口を開く。
「学校って、毎日行くんでしょ?」
それを聞いたライルが、頭の後ろで手を組みながらぼやいた。
「へぇ、俺なら絶対サボる」
今頃、学校では何をしているんだろう。……授業中だろうな。2限目が始まるくらいだろうか。
それから、帰る途中でライルが怪しい店に立ち寄った。ネックレスやら、ブレスレットやら、キラキラとした宝石を大量につけている店主のゴブリン。
「この宝石は魔除けに効果的で……」
結局、そんな売り文句に騙されて……いや、半ば強制的に手に持たされて、ライルが購入した。
今朝来た道を戻って、再び神社に向かう。
ただ広いだけに見えた草原も、今は少し見慣れた景色に思えた。
神社に戻ると、イズナは、調べ物をすると言って拝殿に入った。
ジャックも、森の様子を見に行くと言い森に入っていく。片肩にかけたマントが翻って、暗い森に背中が消えていった。
優羽は、街で買ったあれこれを並べていく。昨日焚き火を焚いた近くの丸太の上。
今日の夕食用の食材……きのこや、肉、見たことのない野草など。それから、傷口に使えるという薬草や、怪しい店でゴブリンに売られた宝石。
「……これ、いる?」
「いらない」
「じゃあなんで買ったの!?」
「優羽にあげる」
「えぇ……」
優羽の呆れた様子に、ライルがけらけらと笑った。
「まあお守りってことで」
「むしろ災難に遭いそうな見た目だけど」
怪しく光る宝石を受け取りながら、優羽がため息をついた。ライルの瞳に似た、紫色の宝石。
適当にポケットに突っ込むと、優羽は大きく体を伸ばした。
「調べ物終わり〜」
「……水」
すっかり日が暮れ始め、空が暗くなってきた頃。
口元に手を当てながら欠伸をするイズナ。
それから、ジャックが筒に水を汲んで持ってきた。
「イズナは、なにかいい情報あった?」
優羽が問いかけると、イズナはしょぼんと項垂れた。
狐耳がぺたんと伏せられる。
「全然。人間が来たことある、って記述はあったけど……」
「そっか……ありがとう」
「よーし、じゃあ俺は料理でもしようかな」
「ライルくんって、料理できたっけ」
「もちろん」
このあと、彼は知らない。得意げに頷いたライルが大失敗して、焦げたシチューを食べたことは……。
「おやすみ」
それぞれが寝床につく。イズナの声を合図に、みんな静かになった。
藁の布団に、優羽が横になる。あまり寝心地は良くない。
「……」
2日目の焚き火。さっきまでぱちぱちと音がしていた火は、すっかり消えてしまっていた。
少し肌寒くなって身じろぎする。
イズナの、規則正しい寝息が横から聞こえてきた。
なかなか寝付けず、優羽は体を起こした。
「どした、優羽?」
起き上がった優羽に、ライルが声をかけた。
……本当に、寝ないんだな。
「……今日、楽しかった」
「へぇ、そう。良かったじゃん」
それ以降続く沈黙に、気まずくなって夜空を見上げる。
雲が空を覆っていて、冴えない景色だった。
「夜更かしはあんま良くないと思うけどな?」
笑い混じりのいじりに、「ライルに言われたくない」と答える。
「帰りたい。いつもの日常に」
「でも……ライルと。イズナと、ジャックといるのも楽しくて。ずっと、一緒にいたいって、思うんだ」
本音が、ぽろぽろと溢れてくる。行き場のない本音。ずっと、頭の中をぐるぐると彷徨っていた本音が。
「いいじゃん」
ライルが、呟いた。その言葉が、夜の闇に溶ける。
「帰る方法が見つかって、それからもさ。居たかったらいればいい。俺は、どっちもいいと思うよ」
ライルは、笑わなかった。ただ、冴えない夜空を見上げながら、言う。
「……」
重く考えなくて、いい気がした。そうしたら、自然に眠気が襲ってきて、意識がフェードアウトする。
明日も、こうやって過ごせたらいいな。
・・・
────同時刻。
ある会議室の奥に佇む一人の周りに、集まる影があった。
「……随分呑気だね〜、アイツら」
一人が、ゆったりとした口調で言った。
「くだらない。明日にでも、処理すればいい」
「あっははァ!オレの愛息を殺った奴らだろォ?」
感情のない声に、裏返ったようなハイテンションな声。
それを聞いて、彼は深くため息をついた。
「……少し落ち着いてくれないかな?」
「イインチョーこわーい!」
「だってさ、暇なんだもん」
高く、間延びした声が返す。
「ほら、みんな。夜神さんが言ってるんだからちゃんと聞こ?」
穏やかな声が、皆を嗜めた。
「君達が言わなくても……明日、動く予定だ」
彼がそう言うと、ピリリと空気が引き締まった。
明日────何かが、動く。
コメント
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すっげぇ…っ!物語のテンポが全体的に良くて見やすい!ところどころコメディ要素があったり、シリアス挟んだりするギャップも好き! ノベルってやっぱいいね…セリフだけじゃなくてその人の心情、行動、世界観全てがわかりやすい。世界線の同時進行…そして2つの場面、マジでオモロ…明日何起こるんだろ… 続き楽しみにしてるね!
やばばば、、、 もう、凄すぎるよね😻👊 表現も綺麗だし、 展開もどんどん進んでいくしっ! 続きが楽しみです🎶
長い……(