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「お前さんだけじゃない、冨岡も」
痣。
痣の発現は身体に大きく負担が掛かり、大抵の者が25歳で寿命を迎えてしまう。
柱に命を惜しむ暇はなかった。
鬼を全滅させ、その後が平和なら痣が出るのは寧ろ嬉しいこと。
後悔はない。
(あー…駄目だ。考えねェようにしねェと、ズブズブと泥沼にハマっちまう)
「いいんだよ、このままで。同居だって気まぐれだ」
「不死川、聞いていたか?」
「…料理に夢中で気付かなかった。もう1回聞かせてくれェ」
「いや、料理に集中してくれて構わない。急ぐような話でもない。時間はある、ゆっくり話すとしよう」
時間はある。
まだ互いに21歳。
あと4年、もしかしたら女房も子も出来るかもしれないんだ。
ただ一緒に居たいという願望で、冨岡に嘘をつき面倒を見るためだと理由付けし、同居なんてして良い訳が無い。
(でも、あと4年しか俺らは…)
「冨岡、今日…一緒に寝るか」
何か頭の中で崩れる音がした。
自分の欲を冨岡に押付ける。
好きだという言葉を吐かず、ただジッと見つめ、返事を待った。
「寝るというのは…その」
流石の冨岡でも意図は察したのか返答に困っている。
(そりゃァ、困るわなァ。こんな色気も何もねェ野郎に夜の誘いされるなんて)
酷く断って欲しかった。
もう二度と立ち直れない程キツく拒絶して欲しかった。
そうではないと、好きだと言ってしまいそうになる。
「…分かった。風呂に入る、お前は準備をしておけ」
(なんで断らねェんだよ、バカ岡ァ)
そんなの有りもしない期待をしてしまうだけだ。
相手の思ってることが段々と分かってきたと思っていたが、一瞬で何も分からなくなる。
冨岡は自分を落ち着かせるため、湯船には浸からず、頭から水を被った。
「はぁ…」
(落ち着け。不死川が何の意図もなしに夜の誘いなどしてくるはずがない。きっと何かやむを得ない事情があるはず)
正直言ってしまえば、誘いが嫌だった訳じゃない。
ただ、泣きそうな顔だった理由が分からずに不死川をこのまま抱いてしまって良いのか葛藤をしていた。
このような機会はもう起こりえないかもしれない。
「待たせた、不死川」
「遅かったなァ、冨岡ァ」
不死川は平然なフリをして1枚の布団の上で寝そべる。
(冨岡はどんな気持ちで俺を抱くんだ…)
好き?
気持ち悪い?
義務?
どれも違うようで当てはまっているようで、怖くなった。
冨岡は不死川に覆いかぶさり、寝間着をゆっくりと丁寧に脱がす。
「不死川…」
そう言って名前を呼ぶ声は初めて聞いた。
甘ったるくて熱っぽい声。
気づけば自分も荒い息をしていた。
薄い唇で肌という肌にキスを落とされ、その度に身体がびくりと跳ねる。
「…冨岡ァ、とみおかぁ、」
好きだ。
嬉しい。
嫌だ。
こんな風には抱かれたくない。
気持ちがぐちゃぐちゃになって、ただ名前を呼ぶことしか出来なくて、どんなに身体をくっつこうとも切ない気持ちは消えなかった。
「そんな中途半端な気持ちで、俺を誘うな。馬鹿にしているのか」
「え、」
冨岡は自分の唇を噛み、獣のような荒い息をしながら必死に理性を保ち、不死川から離れる。
「中途半端って、俺は別にそんな顔して…」
「あんなに怯えた目をして、身体も震えていて何を言っているんだ」
「違っ、それは!は、初めてだからで」
「なら、もう少し自分を大切にしたらどうだ。好きでもない男に抱かれようとは、何を考えているんだ」
好きだと言わず、誘ってしまったせいで、冨岡の気持ちを踏みにじる結果となってしまった。
初めて、こんな風に怒る冨岡を見る。
(軽蔑しただろうなァ…でも、これで俺は諦められる)
きっと同居だって今日で最後になって、冨岡は気味悪がって近づきもしなくなるはずだ。
欲を押付けてしまったが、やはり冨岡の幸せが1番である。
大切な弟が亡くなってしまった不死川には、もう冨岡しか居ない。
「明日からは家事も買い出しも俺がする。お前は何もしなくていい。この家に居るだけでいい」