テラーノベル
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畳の部屋に通された僕は、向かいに並ぶ神野さん親子にじっと見つめられていた。
この部屋に通されて正座してから、もう五分は無言で見られ続けている。
耐えられなくなって口を開こうとしたその時、お父さんが口を開いた。
「君は俗に言う心霊スポットに行ったり、人の多い場所によく行くのかね?」
「最近は一回だけ行きました。でもその前には、一度も行ったことはないです。人の多い場所は……大学なら行きますね」
「そんな風には見えないのだが……不思議だ。君が掃除機のように引き寄せているのかな。たくさんの縁が見えるよ。もちろん、幽霊とのだがね」
目の前で話すお父さんの視線は、僕を見ているようで見ていない。
僕から少しずれた背後を見ている。
「子供の頃に不思議なことがあったり、怪我が多かったりしなかった?」
神野さんの言葉を受けて、子供の頃を思い出す。
記憶力は悪くない方だが、特に該当する記憶はない。
まさしく平々凡々。僕の人生は、そんなものだ。
「特にありません。僕、骨折とかもしたことないですし……」
うーんと唸って、お父さんは腕を組んだ。
「とりあえず、お祓いしてみようか」
お父さんは、そう言って僕をお祓いしてくれた。
私服のままでいいのか疑問だったが、お父さんの祝詞が始まるとやはり本職なのだと思わされた。
辺り一面に神聖な気が満ちた。
僕の心の中から、雑念が消えていく。
母親の腕の中のような安心感の中で、僕は目を閉じた。
お祓いを終えた僕は、心なしかすっきりとしていた。
これもお祓いの力なのだろうか。
「ありがとうございました。なんだか僕も強くなったような気がします」
僕の気持ちに反して、この二人の表情は曇ったままだった。
「残念ながら、何も変わってないわ……」
「え、縁は切れてないってことですか?」
僕の心に、また不安の渦が巻き起こる。
「そうね。私達にできるのは、霊が取り憑いているのを祓うとか実際に目の前の元凶を取り除くことなの。でも、あんたの縁はこれから起こることだから……」
「つまり実際にその霊達がいないと、どうにもできないってことですね……」
神社にまで来て対処できないのなら、もう僕に打てる手はない。思わず頭を抱えた。
「とりあえず、白紙と心霊スポットに行ったら毎回ここに来なさい。定期的に様子を視るべきだと思うわ」
僕は大きくため息をついた。この体質のことを知らなければ、今頃平和に過ごせていたのだろうか。
「君、白紙くんの……」
お父さんの表情が曇った。
あの柔和な顔から一転して、厳しい顔つきになる。
「あー、同行者くん。早く帰った方がいいわよ。あんまり力になれなくてごめんね」
神野さんは、僕の背中をぐいぐいと押して神社の外へと追いやった。
強引に僕を追い出そうとしている。
白紙さんとお父さんに、何かあったのだろうか。
「あのね、あんた本当に今良くない状況だと思う。嫌な予感がするの。気をつけなさいよ」
そう言って神野さんは、僕に手を振った。
「あのガキにそう言われたわけか」
「そうなんですよ。なんかすごく不安になりますよね」
僕は車に揺られながら、昨日の九檀神社の出来事を白紙さんに話していた。
心霊スポットに行き配信をしたが、何もなかった帰り道だった。
あの話を聞いて次の日に心霊スポットに行く僕は、白紙さんに似て少し図太くなったのかもしれない。
「あのガキの言うことは本当だ」
「疑ってませんよ。縁がたくさんあるのは事実なんでしょうし……」
「そこじゃない。嫌な予感の部分だ」
僕は首を傾げて、白紙さんを見つめる。
「ガキはな、あの神社の神に気に入られている。同行者くんは、あの神社で何か気付くことがあったか」
「え、いえ何も……。神聖だなぁとは思いましたけど」
白紙さんは、大げさにため息をついた。
「まぁいい。あそこは実は妖怪を祀ってる神社だ。|件《くだん》って知ってるか?」
僕は首を横に振った。
「件は、牛と人間の両方を併せ持つ妖怪だ。奴は、生まれてすぐに一つ予言をする。それは内容問わず、百発百中らしい」
「妖怪を神様にしてもいいんですか?」
「ああ、日本にはそういった事例がたくさんある。神は崇めてしまえば生まれる。意外と単純だ」
白紙さんは、マスクをずらした。
たくさん話しているので、息が苦しくなってきたのだろう。
「そして、その件を神として崇めたのが九檀神社だ。名前も文字遊びみたいなものだろうな」
白紙さんは、淡々と続ける。
「件を崇めているからか、神野家には予言のできる人間が生まれることがある」
「まさかそれって……」
「そうだ。あのガキは、神に愛されている。件ほどはっきりとした予言はできないが、奴の嫌な予感は外れない」
僕の背筋に嫌な汗が伝った。
「僕、もう普通に暮らせないってことですか?」
「……それは俺にはわからない」
白紙さんの言葉で、僕は自分の足下に目を伏せた。
とにかく違うことを考えようとしたとき、ふと先ほどのことを思い出した。
「そういえば、今日変なもの見たんですよ。さっきの家で」
「それはなんだ」
「あ、確か写真撮ったんです。ほら」
僕は、自分のスマホの画面を白紙さんに見せる。
今日行った心霊スポットは、無理心中のあった一軒家だった。
ほとんど廃墟のような状態で、ベランダのガラスも割れていたため中に入るのに苦労することはなかった。
中も相当荒れ果てていたが、所々に生活感を感じる食器や小物が散らばっていてもの悲しい気持ちになった。
その中に、妙に気になるものがあった。
こぶし大くらいの石だ。普通であれば、気にも留めないだろう。
だが、その石には何かのマークが描かれていたのだ。円の中に、手が抱きしめるように交差されている。
それを見た時、何かが引っかかった。
僕はこのマークを知っている。
しかしどれだけ考えても、それが何なのか思い出せなかった。
それならばとこの石の写真だけ撮って、白紙さんに聞こうと思っていたのだ。
石の写真を見た白紙さんが、珍しく感情を見せた。
目を大きく見開いたかと思うと、すぐに僕のスマホを持つ手を軽く払った。
「どうしたんですか?」
僕が聞いても、白紙さんは俯いたまま何も答えなかった。
どうしたらいいのかわからずにいると、小さな声が聞こえた。
「お前は、それに、関わるな」
一言ひとこと、きっちり子供に言い聞かせるように、白紙さんは僕に言った。
コメント
1件
みぅです🤍🥀お祓いしても何も変わらなかったっていうのが逆に怖かった……。神野さんの「これから起こることだから」って言葉、すごく重くてゾッとしたよ。それに九檀神社が件を祀ってるって設定、めっちゃ好き。白紙さんが珍しく感情見せて石の写真に反応したところも、何かヤバいものを感じて鳥肌立った。続きすごく気になる……!
#最後はハッピーエンド予定
#衝撃のラスト
山根利広
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