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その日の深夜。
シンヤの寝室に、招かれざる客が訪れた。
それはベッドに上がり、シンヤの体に手を伸ばそうとする。
その時だった。
「ふっ!」
シンヤが動いた。
彼は瞬時に起き上がると、侵入者を組み伏せる。
「誰だ!?」
「グウッ!? やはり、シンヤは強いナ……」
シンヤによって組み敷かれたのは、まだミレアであった。
風呂に入ることによって綺麗になった彼女は、いつもよりも色気が増していた。
赤い髪が月明かりで綺麗に輝いているように見える。
そのことがシンヤを惑わせる原因となっているのだが、本人には自覚がない。
「何をしに来た? 主人である俺を暗殺……というわけでもないようだな」
ミレアは武器を何も持っていない。
彼女は格闘家ではあるが、暗殺を仕掛けるのであれば当然ナイフなどで胸を一突きした方が確実だ。
にも関わらず丸腰ということは、暗殺が目的ではないのだろう。
何より、シンヤはミレアから一欠片の殺気も感じてはいなかった。
「暗殺? そんなことをするわけがナイ。赤猫族の女、受けた恩は忘れナイ。あたしが来たのは、一緒に寝るためダ」
「なんでだよ!?」
「シンヤと一緒にいると、落ち着くカラ……」
ミレアが甘えた声を出す。
(くそっ、可愛いじゃねえか!)
シンヤは内心で毒づく。
ミレアには振り回され放しだ。
だが、彼女の顔を見ると、どうしても憎めない。
「分かったよ。だが、俺も男だ。そんな格好でいたら襲っちまうかも知れんぞ?」
ミレアの服装は、かなりの薄着だ。
キッチンでの裸エプロンや浴室での全裸に比べれば露出は少ないが、それでも十分に魅力的な姿である。
「構わナイ。シンヤになら何をされてもいい」
「……ッ!?」
シンヤは絶句する。
自分がとんでもないことを言っていることに、ミレアは気がついていない。
「赤猫族の女、強い雄に惹かレル。シンヤは強い。さっきから振りほどこうとしているけど、ビクともしナイ」
シンヤはミレアを組み敷いた体勢のままだ。
招かねざる客を無力化したのは当然の判断であったが、ここに至りその意味合いが変わりつつあった。
「ああ、悪い。すぐにどく」
シンヤが力を緩め、ミレアを解放する。
だが、彼女は離れようとしない。
「待テ。このままでいい。むしろこの方がいい」
ミレアはシンヤの腕を抱きかかえるようにして、体を密着させた。
「なっ……」
「強い雄に抗えない雌は、そのまま雄を受け入れル。赤猫族の女、そうやって子どもを孕む。あたしにもそうしてほしイ」
ミレアは真剣そのものの表情で言う。
シンヤはどう答えればいいのか分からなかった。
「あー……。ミレア、お前は俺のことを好きってことでいいんだよな?」
「人族の言う恋愛感情はよく分からナイ。だけど、シンヤと一緒だと胸の奥が熱くなる。これが恋というものなのカ? シンヤはどう思う? 教えてほしイ」
ミレアはシンヤを見つめる。
「俺は……」
シンヤは言い淀んだ。
彼にも多少の恋愛経験や女性経験はある。
だが、ここまで真っ直ぐな感情をぶつけられたことはない。
「俺はミレアのことが好きだ。俺の子どもを産んでくれるっていうなら嬉しいし、他の奴に渡したくはないと思う」
シンヤの言葉を聞いたミレアの顔が綻ぶ。
「あたしもシンヤのことが好き……なんだと思ウ。だから、シンヤの子を産みたい。あたしはシンヤのものになりタイ」
ミレアはシンヤの胸に顔をうずめる。
「シンヤ、キスをしてクレ。そして、抱いて欲シイ。それが、赤猫族の女の求愛行動ダ」
「ふふ。それは人族も同じだよ」
「んっ!」
シンヤはミレアに口づけをする。
最初は軽く触れるだけ。
だが、それだけでは満足できなかったのだろう。
ミレアは自ら舌を伸ばし、シンヤの唇に触れる。
「あっ……」
ミレアが甘い声を上げた。
シンヤはそれに答えるように、自らの舌を伸ばす。
二人の舌先が触れ合う。
「ふぅっ……」
ミレアの体が小刻みに震えた。
彼女にとって初めての感覚だったのかもしれない。
シンヤはゆっくりとミレアの口を味わっていく。
互いの唾液を交換し合いながら、二人は何度も角度を変えながら、深く長い接吻を交わし続ける。
やがて、どちらからともなく、二人同時に唇を離した。
ミレアの口から漏れ出た銀糸が、月明かりで妖しく輝く。
「ミレア、本当に俺の子どもを産んでくれるのか?」
「シンヤさえ良ければ、あたしは歓迎ダ」
「そうか。ありがとう」
シンヤは再びミレアに口付ける。
今度は最初から激しく、ミレアを求めていく。
「シンヤ……シンヤぁ……」
ミレアが切なげな声を上げる。
そうして、二人の影は一つになったのであった。