テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
縁側には、確かに枝に結ばれた文が置かれてあった。
「何と鋭い勘ですなぁ」
ふざける業平を桂はふんと鼻であしらった。
「まあ、後は白梅と上手くやってくれ」
業平は、踵を返す。
桂は、文を手にすると袖のなかに隠し、白梅を呼び出した。縫い物の稽古があるだろうと叱咤して。
「も、申し訳ございません!」
いつの間にかそのような稽古が入ったのか白梅は疑問に思ったが、口答えは許されない。桂の後ろへ黙って続いた。
部屋に入るなり、桂は、袖から文を取り出して白梅へ手渡した。
「さあ、何と?」
平静を装いながらも桂の気はせいている。
「白梅のようだと……。初めて見た時そう思ったと……」
「まあ。そうなの……」
なんと、無難な手をよこす。桂はそう思った。これは、焦らしたほうが良いのだろうかと頭を悩ますが知恵が出ない。仕方なく、
「業平様のお考えをお聞きしましょう」
言って、業平を呼びに行った。
一人桂の部屋に残された白梅は、再度、寄せられた文を見る。
達筆とまでは行かないが、几帳面に文字がしたためられている。そして、結びつけられている枝は、梅の小枝だろう。もう花の盛りは過ぎてしまい、蕾すらついていない。
ただの小枝に文が結びつけられていたのだが、自分の名前と掛け合わせた気遣いが、どことなく実直さを漂わせている。
白梅の中で何かが動いた。
「そうか、そうか、文が来たか」
弾けるように言いながら、業平が現れた。
「相手も様子見なのだろうなぁ。じれったい話だなぁ……」
「業平様。ここは、一度じらせたほうが?」
追いかけてきた桂が言う。
白梅は、慌てて二人に文を差し出した。
「ああ、構わんよ。おおよそわかるからね。お前宛の文なんだ、お前が持っていなさい」
業平は言いつつも、自身が詠んだものだけに内容はすでに知っている。今更見なくても良いものだと内心複雑だった。
と──、パラパラと軒を弾く音がした。
雨だ。
音は段々激しくなる。
「おやおや、夜の雨ですか。風情はありますが、白梅には少し重たい情緒かなぁ」
「そうですわね。初めての恋文ですものね。月明かりが欲しいところですわ」
空には厚く雲がかかり、月はすでに隠れている。
雨脚は一層強まっていく。
「ああ、かなり振ってきたな……」
そこまで言って業平は、空々しく口角を上げた。
「ややもすれば風にしたがふ雨の音を絶えぬ心にかけずもあらなむ……」
桂が、慌てて筆を取る。
「桂、書けたか?もう、お前の筆跡でかまわんよ。雨がやむ前にあやつに届けなければ話にならんからね」
「はい、どのみち白梅の筆跡はお相手は存じませんもの」
業平と桂のやりとりに、白梅は、ポカンとする。
ただ、業平が即興で詠んだ歌が脳裏にこだました。
「それにしても、相変わらず女心の扱いがお上手ですこと……」
桂が笑っている。
──どうかすると風に吹かれてあちこちになびいてしまう雨の音を、あなたへひたすら一途な私の心と重ねないでください。私はずっとあなたのことだけを思っています──
「どうだ。素直でいいだろう?これくらいしなければ、あやつも動かんだろう」
コメント
1件
第6話、めっちゃ良かったです…!🥺💕 業平さまの即興の歌、女心を掴むのが上手すぎて笑っちゃったけど、すごくエモい…! 雨の夜に届く文のやりとりって、もうそれだけでドラマじゃないですか? 白梅が初めての恋文に心動かされるシーン、すごく丁寧に描かれてて、こっちまでドキドキしました🌸 続きが気になる…!
#完全一次創作
たかはし もけ
717
はるか
5
生方詩
25,680