テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
柔太朗side
玄関のドアを開けた瞬間、少しだけスパイスの匂いがした。
(……料理してる?)
靴を揃えながら、柔太朗は小さく息を吐く。
(シェアハウス、か)
仕事の都合で急に決まった引っ越し。
時間もなくて、選べたのはここだけだった。
「はーい、新入り?」
奥から声。
振り向くと、ラフな服装の男が腕を組んで立っている。
「吉田仁人。ここの管理してる」
「山中柔太朗です」
軽く頭を下げると、仁人はじっと見てきて、
「礼儀はあるな」
一言。
でもそのあと、少しだけ口元が緩む。
「ま、よろしく」
そこに、もう一人。
「え、ほんまに来たんや!じゅうちゃん!」
勢いよく近づいてくる。
「塩崎大智でーす!」
距離が近い。声がでかい。
「顔ちっさ!スタイルよすぎやろ!」
「……どうも」
若干引きながらも答えると、
「人の話ちゃんと聞いてる?この子」
仁人がさらっとツッコミ。
振り返ると、少し年下っぽい男が笑ってる。
「俺は曽野舜太!よろしくな、じゅうちゃん!」
「……よろしく、舜太くん」
ちゃん付けが飛び交う中で、少しだけ違和感。
(距離感近いなここ)
「で」
仁人が一歩前に出る。
「あと一人いるから」
その時。
キッチンの方から、包丁の音が止まる。
足音。
ゆっくり近づいてくる。
「新しいやつ来た?」
低めの声。
振り向いた瞬間。
目が合う。
一瞬、空気が止まる。
(……なにこの人)
整った顔。
無駄のない動き。
エプロン姿なのに、妙に様になってる。
「あ、佐野勇斗です」
短く名乗る。
「山中柔太朗です」
言いながら、なぜか少しだけ声が硬くなる。
勇斗は一歩だけ近づいて
「よろしく」
それだけ。
なのに——
距離が妙に近く感じる
視線が、外れない。
ほんの数秒。
でもやけに長く感じる。
「はいはい、見つめ合うな」
仁人の声で空気が戻る。
「飯できてるから、とりあえず食え」
テーブルに並べられる料理。
「これ全部、はやちゃん作ったんよ!」
大智が誇らしげに言う。
「すご…」
思わず漏れる。
勇斗は特に反応せず、皿を置くだけ。
「冷める前に座れ」
ぶっきらぼう。
でも、椅子を引くタイミングが自然すぎる。
「……ありがとうございます」
座ると、すぐ隣に勇斗が来る。
(なんで隣)
ちょっとだけ緊張する。
食事が始まる。
「すご…おいしい」
思わず声が出る。
勇斗が一瞬だけこっちを見る。
「だろ」
短い。
でも少しだけ誇らしげ。
「毎日これ食えんの、勝ちやでじゅうちゃん」
「ほんとそれ」
大智と舜太が騒ぐ中、
勇斗は黙って食べてる。
でも。
ふとした瞬間。
「それ、辛くない?」
小さく聞いてくる。
「え?」
「顔、ちょっと赤い」
よく見てる。
(……なんで)
「大丈夫」
答えると、
「無理すんな」
水のグラスを、さりげなく手元に寄せてくる。
自然すぎる気遣い。
ドキッとする。
(いや、ただの親切)
そう思おうとするのに。
「じゅうちゃんさー!」
大智の声で現実に戻る。
「彼女おるん?」
「いきなり何」
「気になるやん!」
「いないです」
即答。
その瞬間。
隣の空気が、ほんの少し変わる。
ちらっと横を見ると、
勇斗が、ほんの一瞬だけ目を細めてる。
「ふーん」
それだけ。
でも。
(……なんだ今の)
胸の奥が、ざわつく。
まだ何も始まってないのに。
もう、少しだけおかしい。
——
夜。
部屋に戻る。
ベッドに倒れ込む。
天井を見ながら、さっきのことを思い出す。
勇斗の視線。
距離。
声。
(……やば)
小さく呟く。
「気にしすぎ」
でも。
頭から離れない。
その時。
コンコン、とノック。
「柔太朗」
この家で初めて呼ばれる、自分の名前。
ドアを開けると、
勇斗が立ってる。
手に、マグカップ。
「さっきあんま食ってなかっただろ」
差し出される。
中は、あったかいスープ。
「……なんで…いいんですか」
「全然いいよ、余ったから」
そっけない。
でも絶対嘘。
受け取ると、指が少し触れる。
一瞬。
ほんの一瞬なのに、妙に意識する。
「ありがとございます。」
勇斗が少しだけ目を細める。
「どういたしまして」
一拍。
「……なんか、お姫様みたいだね」
「へっ?」
突然の呼び方。
「さっきから、なんか守ってやりたくなる顔してる」
意味わかんない。
でも。
心臓がうるさい。
「やめてください」
そっぽ向く。
勇斗が少し笑う。
「慣れるよ」
そう言って、去っていく。
ドアが閉まる。
静かになる。
柔太朗は、スープを一口飲む。
あったかい。
(……無理)
顔を手で覆う。
「好きになりそう」
小さく、こぼれる。
この時まだ、
——もう遅いってこと、気づいてなかった。
コメント
4件
佐野くんめっちゃ優しい、、💖 新しい小説嬉しい、!続きが楽しみです✨☺️

素敵な設定の小説ありがとうございます! 続き楽しみにしてます🥹💖
