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信愛、さくら、朝陽の三人は、おじろくおばさが祀られているという祠を目指し、山奥へと続く道を歩いていた。
木々に囲まれた静かな山道には、鳥のさえずりだけが響いている。
しかし、その穏やかな景色とは裏腹に、さくらの表情はどこか曇っていた。
祖父から聞かされた過去。
天虎村村民が代々背負ってきた罪。
そして、自分の血筋が、その悲劇と無関係ではなかったという事実。
その全てがさくらの肩に重くのしかかる。
それはひとりの女子高生が背負うには、あまりに重すぎる業だった。
歩きながら、その様子に気づいた朝陽が、さくらに優しく声を掛ける。
「花牟礼先輩?どうかしました?」
返事はない。
俯いたまま歩き続けるさくらを見て、朝陽は心配そうに続けた。
「花牟礼先輩・・元気無いですね?」
信愛は苦笑混じりに肩をすくめる。
「そりゃそうだよ・・・」
少しだけ歩みを緩めながら言葉を続けた。
「お爺ちゃんが実の兄弟を奴隷に
してたなんて話、聞かされたんだもん」
朝陽は申し訳なさそうに目を伏せた。
「あ、そうですよね・・・」
小さく息を吐き、頭を下げる。
「すいません・・・」
さくらはゆっくりと顔を上げ、優しく微笑んだ。
「ううん、謝らないで」
その笑顔はいつもの明るさではなく、どこか無理をして作ったようにも見えた。
信愛はそんなさくらを励ますように口を開く。
「気休めにしかならないかもだけどさ」
少し間を置き、静かに続けた。
「お爺ちゃんも無理矢理やらされてた
みたいな話してたじゃん?村八分があったって」
朝陽も力強く頷く。
「そうですよ、花牟礼先輩」
真っ直ぐさくらを見据えながら言葉を続けた。
「家族を守る為だったんです・・・きっと」
その一言に、さくらはふっと表情を和らげる。
「ふふふ、ありがとう」
そして、小さく付け加えた。
「気を遣ってくれて」
信愛はそんなさくらを見つめ、小さく名前を呼ぶ。
「さくら・・・」
重たい空気を抱えたまま、三人はさらに山奥へと足を進めた。
やがて舗装された道は途切れ、獣道と呼ぶにも細すぎる険しい山道へと変わる。
朝陽は辺りを見回し、不思議そうに呟いた。
「本当にこんな険しい山道の先に祠があるんですか?」
信愛は迷いなく答える。
「教えてもらった通りなら、この先にあるはず」
しかし朝陽は納得しきれない様子だった。
「だいたい祠って、みんなが行きやすくて
目に留まりやすい所に建てるんじゃないんですか?」
信愛も足を止めることなく頷く。
「確かにね・・そこは私もおかしいと思った」
考え込むように森の奥を見つめる。
その時だった。
先頭を歩いていたさくらが突然立ち止まり、木々の奥を指差した。
「あ!あれじゃない?」
信愛が指差す方角に、二人もそ視線を向ける。
木立の隙間に、何か人工物らしき影がぼんやりと浮かび上がっていた。
「あ、あった・・・」
信愛は思わず呟く。
しかし、近づくにつれてその姿は鮮明になり、期待はすぐに驚きへと変わった。
朝陽は息を呑む。
「でも・・・」
その祠は、原形を留めているのが不思議なくらい無残な姿だった。
「これは・・酷い有り様ですね・・・」
朝陽は呆然と立ち尽くす。
「何年も放置されてたみたいな・・・」
三人はゆっくりと祠の前まで歩み寄る。
そこには、かつて村民が敬い奉っていたとは思えないほど無残な姿となった祠があった。
祠は横向きに倒れており、何年もの間放置されていたのだと窺い知ることが出来き
朽ちかけた木枠には所々に腐蝕の痕が刻まれており、憂さ満ちていた。
信愛は祠を静かに見つめたまま、その表情を険しくしていく。
「確かに酷いね・・・」
その隣で朝陽も、朽ち果てた祠を見回しながら顔を曇らせる。
「こりゃ霊だって怒りますよね・・・」
その時、不意にさくらが祠の壁へと身を寄せた。
「ん?なんか書いてない?」
「ん?何の事?」
信愛が近寄ると、さくらは木枠の一角を指差した。
「これ!ほら!文字が彫ってある」
三人は崩れかけた祠に顔を寄せ、注意深く見つめる。
長い年月で黒ずんだ木肌には、確かに鋭い刃物のようなもので刻まれた文字が残されていた。
信愛は目を細め、埃を軽く払いながら一文字ずつ読み上げる。
そこに刻まれていたのは、例のわらべ歌だった。
オジロクオバサガ啜リ泣ク
重イ鎖ガコノ地ニ響ク
子供ヲ縛ル鎖ガ響ク
ジャラジャラガシャガシャ鎖ヲ鳴ラシ
オジロクオバサガ来ルヨ来ルヨ
そして、その下にはさらに別の歌が続いている。
オジロクオバサガ怒リ泣ク
弟妹腑煮エクリ返ル
村民憎ンデ煮エクリ返ル
フツフツグツグツ怒リヲ込メテ
オジロクオバサガ来ルヨ来ルヨ
読み終えた信愛は思わず息を呑んだ。
「あ・・・これって」
朝陽もすぐに思い当たったように頷く。
「これってあれですよね?」
少し緊張した面持ちで続ける。
「菅生先輩が取り憑かれた時
うわ言の様に言ってたヤツ」
信愛は小さく頷いた。
「これ・・・わらべ歌だよ」
さくらは驚いたように目を丸くする。
「わらべ歌って、さっき
お爺ちゃんが言ってた弔いの歌?」
「うん・・・」
信愛の脳裏には、夢の中で子供たちが輪になって歌っていた光景が鮮明によみがえっていた。
「私が見た夢の中で子供が歌ってたのもこれだよ」
朝陽は刻まれた歌詞を見つめたまま、腕を組む。
「でも・・・これで弔えますかね?」
「え?どういう意味?」
信愛が聞き返すと、朝陽は歌詞を指差しながら説明する。
「いや、この歌詞って・・・」
少し考えを整理するように間を置き、ゆっくりと言葉を続けた。
「おじろくおばさがどんでもなく村民を憎んでて
いずれ呪いに来るぞ!みたいな歌詞じゃないですか?」
信愛も改めて歌詞を見返し、小さく頷く。
「あ、確かに・・・」
すると、さくらも首を傾げた。
「明らかに弔いの歌詞じゃないよね」
朝陽は静かに言葉を重ねる。
「もっと罪を償って、おじろくおばさに謝る
みたいな歌詞じゃなきゃ、弔いにはならないですよ」
その瞬間、信愛の表情が変わった。
何かに気づいたように目を見開く。
「あ!だからか!」
二人の視線が一斉に信愛へ向く。
信愛は刻まれた文字を見つめながら、自分の考えを口にした。
「この歌を私たちに伝えようとしてるんじゃない?」
さくらはきょとんとした表情で首を傾げる。
「ん?どう言う意味?」
#ボカロ
ありあ
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ありあ
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コメント
1件
第100話、お疲れ様です。さくらの背負う業の重さと、それでも共に歩もうとする信愛や朝陽の優しさが沁みました。祠に刻まれたわらべ歌——「弔い」の形式を借りた呪いの歌詞という構造、ゾッとすると同時に設定の妙に唸りました。「この歌を伝えようとしている」という信愛の気づき、ここからどう真実に迫るのか、続きが本当に気になります。