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#普通
野々さくら
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ありあ
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信愛は静かに視線を落とし、先ほど耳にした言葉を思い返していた。
「お爺さんはさっき、おじろくおばさって」
一拍置いて、小さく息をつく。
「村の奴隷制度のせいで勝手に人生を
決められた被害者だってそう言ってたよね?」
朝陽も神妙な面持ちで頷く。
「そうでしたね・・・」
しかし信愛は、どこか引っかかるように首を傾げた。
「けど、本当にそうなのかな?」
その言葉に、朝陽とさくらは顔を見合わせる。
「おじろくおばさは、本当に恨んでるのかな?」
「え?」
朝陽が目を丸くする。
「どういう意味?」
さくらも不思議そうに尋ねた。
信愛はゆっくりと言葉を選びながら口を開く。
「これを今風に言えば、毒親に育てられた子供だよ」
「あ、なるほど!」
さくらは納得したように頷く。
「本人たちは、それが当たり前って
思ってた可能性もあるんだ!」
「その可能性もあるって私は思ってる」
信愛は静かに続けた。
「それに、この村での生活しか
知らなかったら、疑わないと思うんだよね」
朝陽も考え込むように呟く。
「そ、そうか!」
そして少し間を置いて言葉を続けた。
「上に兄がいたら、産まれた瞬間から
奴隷として生きる事を強制されるから
自分の現状に疑問を抱かないんですね!」
「そう!だから奴隷扱いされていた事に
恨みを抱いていた可能性は低いって思う」
信愛の言葉に、さくらが首を傾げた。
「だったら何を恨んでるの?」
信愛は少しだけ微笑み、答える。
「そこでこの歌詞だよ」
「歌詞?」
朝陽が聞き返す。
「この歌詞はさっき朝陽くんが言った様に
これを弔いの歌詞と言うには無理がある」
「そうだよね」
さくらも同意する。
「しかも勝手に、おじろくおばさが
恨んでるなんて歌詞に書いてる」
「あ、なるほど!言われてみればそうだよね!」
さくらははっとしたように目を見開く。
朝陽も腕を組みながら考え込む。
「『僕らは恨んでなんか無いのに何でそんな酷い事
言うの?』って思ってるかもしれないって事ですか?」
「うん・・・そんな感じだと思う」
信愛は力強く頷いた。
「実際に茜に取り憑いた霊は私に
『恨んで無いのに』って口にしてたし
私の夢に出てきた子供も似たような事言ってた」
さくらは少し考え込んだあと、静かに尋ねる。
「でも仮にそうだとして、どうしたらいいの?」
信愛は迷いなく答えた。
「三番目の歌詞を考えるしか無いよ」
「え!?歌詞を!?」
信愛のいきなりの提案に、朝陽は思わず目を見開き声を張り上げた。
「わらべ歌に新しく歌詞を書き足すの?」
さくらが半信半疑で尋ねる。
「うん! もっとおじろくおばさを受け入れて
過去の罪を償う様な、贖罪の歌詞を」
その言葉を聞いた朝陽は、ゆっくりと頷いた。
「確かに、この歌詞におじろくおばさが
不満を抱いてるなら、それが最適かもしれませんけど」
さくらは腕を組み、困ったように苦笑した。
「だからって、いくら何でも作詞って・・・」
信愛は静かに頷く。
「おじろくおばさが恨みを感じてるとすれば
この歌詞以外に考えられないと思う」
信愛は真剣な眼差しで続ける。
「だったら歌詞を新たに付け足して 怒りを鎮める
それしか方法はないと思うんだよね」
「まぁ、確かに・・実際
それくらいしか思いつかないよね」
まだ釈然としない表情を浮かべるさくらに、信愛は森の奥へ視線を向けた。
薄暗い木々の隙間を風が吹き抜け、葉がかすかに揺れる。
「とりあえず調査はこの辺にして家に戻ろっか
もしかしたら茜が目を覚ましてるかも知れないし」
その言葉に朝陽も静かに頷く。
「ですね・・・」
三人は顔を見合わせると、それ以上言葉を交わすことなく、静かに山道を引き返し始めた。
「あ!待って!」
信愛は何かを思い出した様に足を止め、振り返る。
「ん? どうかした?」
さくらが首を傾げる。
信愛は倒れた祠へ視線を向け、静かに言った。
「今ここで修理は無理だけど
倒れた祠だけでも元に戻してあげようよ」
朝陽はすぐに頷く。
「あ、ですね!」
そして祠を見つめながら続けた。
「このままじゃ、おじろくおばさも 報われませんよ」
「だね♬」
さくらも優しく微笑む。
三人は互いに頷き合うと、倒れた祠へ歩み寄った。
苔むした古い木材は雨風に晒され、重く湿っている。
「せー・・・のっ!」
声を合わせ、三人は力いっぱい祠を持ち上げた。
軋む音を立てながら傾いた祠はゆっくりと起き上がり、やがて元あった場所へ静かに据えられる。
「ふぅ〜・・・」
額の汗をぬぐった信愛は、少し離れて全体を見渡した。
屋根は相変わらず傷んでいたが、先ほどまで横倒しになっていた姿よりは、ずっと祠らしい佇まいを取り戻している。
「こんな感じかな」
朝陽も満足そうに頷いた。
「うん♬いい感じ♬」
「とりあえずは、これで応急処置」
信愛はそう呟くと、祠の正面へ歩み寄る。
さくらと朝陽もその隣に並んだ。
三人は静かに手を合わせ、言葉を発することなく目を閉じる。
薄暗い森に風が吹き抜け、木々がざわめく。
その音だけが、三人の黙祷を静かに包み込んでいた。
コメント
1件
ああ、今回もじっくり考えさせられる回でしたね…!信愛が「おじろくおばさは本当に恨んでるのかな?」って疑問を投げかけたところ、すごく腑に落ちました。毒親に育てられた子供の比喩、なるほどなあって。で、解決策が「歌詞を書き足す」っていう発想が斬新で、しかも三人で祠を直して手を合わせるラスト、優しい気持ちになれました。続きが気になります!