「それにしても、姫君の大事な時、屋敷の警備も、相当なものでしょう。なのに、秋時《あきとき》様如くが、潜り込めるものなのでしょうか?」
晴康《はるやす》のつぶやきに、皆、頷いた。
「ちょっと、私が、ではなくて、悪さしたのは、藤隆《ふじたか》様ですからね。そこの所は、誤解のないように、お願いしますよ!」
秋時は、慌てて、言い訳するように、話の続きを語った。
「誰か、導いた者がいるのではなかろうかと……内大臣様は、ぴりぴりされており、屋敷の者の身元を検《あらた》め直したりしているようです」
「なるほど、内通者ね。それは、ありえるわ。特に、藤隆様なら、また適当な事を言って、下男辺りを買収したりしそうですもの……」
「そうそう、さすがは、紗奈《さな》ちゃま!何せ、藤隆様は、今上帝のおぼえもめでたい身と、ご自身で、言い切っちゃうお方ですから。下男の一人ぐらい、転がすなんて、朝飯前でしょ」
「……上野です。秋時……」
吐き捨てるような、キツい返しを受けて、秋時は、あたふたしつつ、そう言えば!と、ご機嫌取りでも行うように、再び、口火を切った。
「ここだけの、話ですがね。藤隆様って、若色らしく。つまり、衆道趣味もお待ちのようなのですよ」
「げっ」
一同は、声にならない声と共に、秋時へ、侮蔑の目を向けた。
「おお?!ちょっと!なんですか?!その、眼差し。違うでしょ!あくまでも、藤隆様の話であって!どうして、私へ、その様な、視線がきちゃうかなぁ!!って、タマまでも?!なんで、お前、衆道なんて、言葉わかってんの!」
「獣の勘、と、いったところでしょうか?」
常春《つねはる》が、じっとりとした視線を、秋時へ定め置いたまま、つぶやく。
「それで、今、姫君は?」
晴康は、何か、気になる事があるのか、秋時に食いついた。
「おー!さすがは、晴康殿!それがですねぇ。その姫君は……」
「えええーーーー!」
常春と、上野は、叫ぶ。
「なんと、不思議なお話だこと!兄上?その様な事が、起こるものなのでしょうか?」
「いや……どうだろう……」
守恵子《もりえこ》に問われ、守満《もりみつ》も言葉が続かない。
「どうあれ、何やら、おかしな事が、おこっていると、そういう事ですね?」
驚きから固まる一同を前に、晴康は、何か心当たりがあるかのように、静かに言った。
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