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そんなこと言われても、って感じだった。
過去にうちのおばあちゃんに声を掛けて断られたからって、孫であるわたしに改めて声を掛けてくるっていう、そのやり方が気に入らない。
実際にその『全魔協』とやらがどんな活動をして、信用に足る人たちなのか、この目で見てみないことには判断のしようがなかった。
おばあちゃんが断ったのは、『魔法使いのことは信用するな』というある種の信条を持っているからだ。
信用できる人たちとだけ付き合い、基本的には自分一人だけで魔女の活動|(薬草を使って色んな薬を作ったり、魔法で人助けをしたり)をする。
今でもおばあちゃんはひとり田舎に暮らしていて、近隣の人たちのいい相談役として生活しているらしい。
楾さんは信用できそうな雰囲気だけれど、果たしてその全魔協そのものが信用できる集団なのか、わたしには判断しかねた。
「その協会って、具体的にはどんなことをしているんですか?」
恐る恐る訊ねると、楾さんはその可愛らしい口元に人差し指を当てながら、
「そうねぇ。例えば魔法のお店をやっているとして、自分の力では解決できそうにない依頼が来るとするでしょう? そんなときに協会に連絡して、その依頼に適した魔法を使えたり、そんな魔法道具を持っている魔法使いを紹介してもらうの。やっぱり、私たち魔法使いにも得手不得手ってあるじゃない? そういうものをカバーし合うのが一番の目的かな」
それから楾さんは一度言葉を切って、
「あとは――使ってはいけない魔法や使わない方がいい魔法の取り決めをしたり、とかかな」
それを聞いて、わたしは眉間にしわを寄せる。
「使ってはいけない魔法?」
「うん」
楾さんは頷き、
「例えば、この世にありもしないものを作ろうとしたり、死んだ人をよみがえらせようとしたり、人を呪ったり、そんな感じの魔法よ」
「人を、呪ったり――」
「えぇ、そう。まぁ、魔法って、基本的には楽しい気持ちじゃないと使えないから、そんな人を傷つけるような魔法が使える人なんてそうそういないんだけれど、希に人を傷つけることが楽しいって人たちもいるじゃない? そういう人たちにそんな魔法を使わせないことも、一応協会の取り決めにはあるの」
わたしはそれを聞いて、しばらく思案する。
だとしたら、楸先輩は相当にヤバい魔法使いってことになる。
『なんだか私が世界の支配者になったみたいで、すごくいい気分です』
『――もしもそんなことになったら、シモフツくんを殺してわたしも死にますから、そのおつもりで』
『もう、二度と、絶対に、彼に近づいてはいけません。もし近づけば……そうですね。あなたを、呪い殺します』
そんなことを言ってのけるような人なのだ。
だとすれば、もしかしたら全魔協がわたしを助けてくれるかもしれない。
楸先輩をどうにかしてくれるかもしれない。
「あの、楾さん」
「なぁに?」
優しく微笑みながら小首を傾げる可愛い魔女に、わたしは言った。
「実はわたし、呪い殺されそうなんです」
「えっ」
楾さんは小さく口にして、目を見開いた。
「呪い殺されそうって、いったい誰に?」
わたしは一つ、つばを飲み込んで、
「学校の先輩に」
「先輩――」
楾さんの顔色が、一瞬にして青くなる。
「それって、もしかして、楸真帆って子じゃないかしら」
「そ、そうです! やっぱりご存じなんですか?」
「うん、知ってる。知ってるんだけど……そう、あの子、そんなことを」
困ったように眉を寄せ、大きくため息を吐く楾さん。
しばらく床に目をやり黙りこくったままそうしていたが、やがてわたしに視線を戻すと、
「そのことは、イノクチ先生はご存じなの?」
「あ、いえ。まだそこまでは話していません」
「そう」
と楾さんはもう一度床に視線を移して、
「……わたしが聞いたのは、真帆ちゃんがまたいたずらしてるみたいだってことだけだったから」
「いたずら?」
あれが、いたずら? わたしの夢の中にまで現れて、私を脅して、現実でもわたしに念押しして、あれがいたずらだっていうの? だとしたら、相当にタチが悪いんだけど。
すると楾さんはこくりとひとつ頷いて、
「うん。昔から、あの子はいたずらが大好きだった。人をからかうのが大好きだった。けど、ここ一年は恋人ができて、以前に比べればずいぶん大人しくなったと思っていたんだけど」
そこでもうひとつ、楾さんは大きなため息を一つ吐いて、
「わかった。この件はちょっと私に預からせて。イノクチ先生と相談してみるから」
「は、はい、お願いします!」
わたしは思わず笑みをこぼしていた。
大人が、しかも二人の魔法使いがわたしを助けてくれるというのだ。
きっと、何とかしてくれる……はず。
「もし楸先輩をなんとかしてもらえれば、わたし、全魔協に入会しても構いません!」
「え、そ、そう?」
あいまいな笑みを浮かべる楾さん。けれどすぐに真顔にもどって、
「とにかく、また何かあったらすぐに私かイノクチ先生に相談してね。力になるから」
「はい!」
わたしは大きく、頷いた。