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「学校だと隠していたみたいだけどね。まぁ変だもんね。従兄弟だからってわざわざ同じ学校に集結って」
九條くんは笑っているはずなのに、瞳の奥は冷たさを感じる。
「なんで、こんなこと……」
嫌がっている様子だった彼らを無理やり演劇に巻き込んで、しかも九條くんに対してそれぞれ思うことがあるようだった。
「なんで? 彼らが僕のオモチャだからだよ」
まるで彼らは自分のためにあるんだよとでも言っているようだった。そのことに背筋が凍りつく。
……彼は間違いなく、九條泉くんのはずなのに。知らない人みたいだ。
「オモチャって……本気で言っているの?」
「九條家は上に立つものの意見が絶対なんだ。だから、僕に気に入られるため彼らの両親は必死なんだよ。地位やお金がほしいからね」
彼らの両親が九條くんに気に入られることに必死で、そのために彼らが九條くんに好き放題遊ばれるオモチャになっているってこと?
「僕はね、暇つぶしにあるゲームを提案したんだ」
なんとなく嫌な予感がして、私は手のひらをぎゅっと握りしめた。
「——シンデレラゲーム」
その言葉に眉を顰める。シンデレラというのは、まさか十二月の演劇のこと?
「このゲームに制した者には願いを聞き入れてあげる約束をしたんだ」
「それって……」
「冬祭の演劇で王子に選ばれた者が勝者だよ。だから彼らはやる気をだした」
音楽室に集まった翌日から、みんなが口を揃えて自分を選べと言ってきた謎が解けた。
「そういうこと、だったんだ……」
勝者と敗者。つまりは、それを私が決めるということ。
一人の願いを掬い上げ、四人の願いを沈める。
そんなこと——したくない。
「どうして……私なの……?」
彼らと今までなんの関わりもなかった。
特に目立つ生徒でもない私が、どうして勝者を決める役割に選ばれたの?
「君はちょうどよかったんだ。家族とは最近どう?」
九條くんの唐突な発言に、私は目を丸くする。
清々しいくらいの笑顔で、なんの躊躇もなく私の踏み込んでほしくない会話を切り出してきた。
私はなにも答えられない。
九條くんは私が家に悩みを抱えていることを知っている。だって……今まで相談にのってくれていたから。
「僕が知る中で、シンデレラ役に相応しいのは君だったんだ。自分でもどこか似ている境遇だと思わない?」
シンデレラには継母とその連れ子の姉がいる。そして家には居場所がなかった。
————私と似ている境遇。
そんな理由で、私は物語の主人公として踊らされていたの?
みんなの視線が私に集まっているのがわかる。
いやだ。やめて。そんな驚くような、同情するような視線を向けないで。
「まぁ……あとは僕の私情かな。それにしてもお姫様気分はどう?」
「なに言って……」
「みんなにさ、ミッションを与えてみたんだ」
「ミッション……?」
「君を落としてみせてって。その方が張り合いがあるでしょう?でも、現時点では……予想とは違う結果だったね」
悪戯っぽく笑う九條くんに、私は初めて怒りを感じた。それと同時に悲しみがこみ上げてくる。
今まで優しく私の話を聞いてくれていたのも、心配して声をかけてきてくれていたのも、全部演劇のシンデレラに相応しいかの品定めだったの?
私が好きだった九條くんは、偽りの姿だった?
「それとね、これが出来上がったんだ」
九條くんが立ち上がり、ベルベットの布に覆われている長方形の物体に歩み寄った。腰丈くらいの高さのそれを覆っていた布を剥ぐと、透明なショーケースが姿を現す。
「な、に……これ」
ショーケースの中には、真っ白なシルクの布の上に並べられた煌びやかな五色の透き通った靴。まるでガラスの靴のようだった。
桃色、赤色、橙色、緑色、紫色。
「君が誰を選ぶかによって、靴の色が変わる」
つまりはこの色はそれぞれの人物を指しているみたいだ。光が反射してきらきらと輝く綺麗な靴。でも、今の私には歪んで見える。
海の紅月くらげさん