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鈴子が姫野浩二と二人きりで会いたいと言う願いは意外と早く来た、彼の方から電話がかかって来たのだ、彼の政党YouTube番組のクレジットに伊藤ホールディングスの名前を載せても良いかと、彼が直々に鈴子に連絡をしてきたのだ、鈴子はうちのネームバリューがあなたの役に立つなら好きに使ってくれて良いと心地良く返事した
『急な申し出で無理でしたら構わないのですが・・・今夜よかったら―』
「今夜は開いています」
鈴子は浩二が全部言い終わるより早く返事した
・:.。.・:.。.
姫野浩二が鈴子を食事に誘った場所は、神戸の海が見渡せる豪華な料亭だった、 個室の座布団に腰を降ろしざま、鈴子はちらりと周りを見回した、この店に入る時に店主はじめ、誰もが期待の眼差しで浩二を見つめていた
「姫野さんって、本当にみんなに人気があるのね」
鈴子の言葉に浩二は首を横に振った
「いや、みんなが期待しているのは僕じゃなくて改革だよ、誰もが自分の故郷を住み良くしたいと思っている、僕はそのメッセンジャーに過ぎない、そのことはずっと昔に悟らされました、僕がまだ若くて生意気盛りだった時のことです」
「まぁ・・・もっと聞きたいですわ」
鈴子は配膳されたウーロン茶を一口飲んで言った、浩二も車だからと二人で大人なのにお茶だねと笑った、鈴子は彼のおしゃべりに心地よく聴き入った
「講演会が終わった時、もの凄い拍手喝采が起きて、僕は得意になって客席に笑顔を振りまきました、すると先代の支援者がみんなが拍手しているのは代々受け継がれてきた党の理念であってそれを継承するお前が偉いかどうかではないと・・・あの教訓はこたえました」
感心して鈴子は言った
「でも、毎晩同じ話をあちこちでして飽きるということはないんですか?」
「いえ、それはありません、講演会というのは一回一回が違うんです、たとえ演説の内容が同じでも、会場に足を運んでくれている支持者は違いますし、熱狂も違います・・・ところで同じ年なので敬語はやめませんか?」
クスクス・・・「賛成です」
彼の瞳がキラキラして鈴子に語りかけている、二人の間に見えない強烈な何かを感じられた、浩二の瞳は鈴子を欲しいと語っていた、「目は口ほどにモノを言う」とは良く言ったものだ、きっと鈴子も同じ目をしているのだろう
鈴子は浩二の話に感動した、自分達の利益の為に死力を尽くす起業家の鈴子と違って、彼は理念や本当に地域社会貢献のために生きていた、それが利益優先で物事を考える様に仕込まれてきた鈴子にとても新鮮に映った
二人が楽しく会話をしていると食事が運ばれてきた、浩二が注文したのは二十一品のコース料理だった、肉に魚に麺類と、兵庫県の郷土料理が次から次へと振舞われた、これには今までたらふく美味しい物を食べて来た鈴子も、宝石の様な美しい小鉢に乗った上品な料理を見て目を輝かせた
「こんなに食べられるわけないわ」
さらにデザートを三品も持ってこられて、鈴子は笑いながら悲鳴を上げた
「兵庫県民は食欲旺盛なんですよ」
浩二は可愛く笑う鈴子から目が離せなかった、正直言うと初めて会った時から鈴子に魅せられっぱなしだった、とても同じ年とは思えない、彼女は自分よりは10歳は若く見える、そして思い切って食事に誘ってみると一緒にいるのがどうしてこんなに楽しいのか不思議なくらいだった
その気になれば、女性に不自由しない浩二である、美女も大勢知っているし、経験豊富だ、しかしこの年まで彼が独身なのは自分は政治家に成りたいと言う野望があったからだ、それには恋人や家庭は足かせのようにしか思えなかった
自分はあちこちの土地を飛び回るし、サラリーマンの様に毎週休みを取って家族サービスなどは出来ない、恋人を作ったとしても、いざ選挙の為に呼ばれたら、どこへでも駆けつけないといけない、それが政治家なのだ、なので自分が家庭を持って落ち着くのはすっかり諦めていた
しかし鈴子の様な女性は初めてだった、功成り名遂げた、自立したキャリアウーマンの代表のような彼女であるが、偉そうな態度はみじんも見せず、常に女らしく、自分がどんなに美人なのかもまったく自覚はなさそうだ・・・
そして浩二の話をまるで世間知らずの少女の様に目を輝かせて熱心に聞いてくれる