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彼女は僕と同い年・・・元夫はあの偉大な起業家の「伊藤定正」だ・・・と言う事は今は二人は独身同士・・・
―僕はこの女性が好きだ―
浩二はいつの間にか自分に向かってつぶやいていた
「明日の講演会はどちらでやられるの?」
「明日は朝一に明石で、その次は尼崎、そのあとは宝塚、伊丹、それで神戸へ戻ります」
「考えただけでも移動が大変そう」
浩二はハハハと笑った
「大変と言えるかどうか、僕の話を聞きたいと集まってくださる人がいるなら僕は何処へでも行くつもりですよ」
「ご立派だわ・・・その意気込み」
鈴子しみじみと言って、デザートの柚シャーベットを口に運んだ
食事を終えて最後のほうじ茶を飲んだ浩二が言った
「でもそんな僕でもたまに息抜きをします、それは神戸の夜景を見に行くことなんですけど、僕の車で夜景を観に行きませんか?」
「わあ、素敵!」
鈴子は両手を合わせて言った、そして帰りは姫野候補に送っていただくので迎えのリムジンはいらないと運転手にメッセージを入れた
二人は、浩二の運転するBMWのオープンカーで六甲山のドライブコースを回った、あいにく月は出ていなかったが、 何千もの街から発する明かりが宝石の様に生き生きと輝いて、美しい夜景をつくっていた、鈴子はうっとりとそれを見つめた
「こんなにきれいな街だったのね・・・私達の住む街って・・・」
「初めて?ここから夜景を見るの」
「ええ、初めてだわ、こんな素敵な所に連れてきてくれて本当にありがとう」
鈴子ははしゃいで浩二に言った、そんな彼女を浩二は愛しそうな瞳でじっと見つめていた
「こんな事でそんなに感謝してもらえるなんて・・・あなたが僕の事務所にしてくれた援助に比べれば・・・」
鈴子は深く息を吸い込んでから決意をして言った
「実は・・・あの援助は・・・もう一度あなたに会うためだったの・・・」
鈴子の思いがけない告白に浩二の胸は躍った、自分に会うためにわざわざあんな途方もない金額を?呼ばれればいつでも駆けつけるのに・・・なんて人なんだ・・・
「僕は・・・僕は嬉しいです」
浩二は後ろから優しく鈴子の肩を抱いた、ふいに鈴子がふりむいて浩二を見つめた、浩二は彼女の顔を見つめてニッコリした、それが合図だった、ゆっくりと顔が引き寄せられ、唇にキスをした、やがて二人のキスは段々深くなり、口が開き、お互いの舌を絡ませ合った、途端に鈴子がハッと我に返って少し離れた
「もし、からかってるなら・・・今すぐやめて・・・」
そう言って鈴子はくるりと向きを変え、車に向かって歩き始めると、浩二が彼女の腕を掴んで引き止めた
「からかうって、それはどういう意味?」
「わ・・・わからないわ」
鈴子の目から涙がいっぱい溢れていた
「私は何を言っているのか自分でもわからないの・・・ああ、もう・・・ごめんなさい」
定正を亡くしてから男性にこんな思いを抱くのは初めてで鈴子は混乱していた・・・
自分には伊藤ホールディングスの未来がかかっている、こんな軽薄な事をしても責任が取れるかどうかもわからない
「僕を見て!」
浩二はガシッと鈴子の両肩を掴んでまっすぐな視線を彼女に向けた
「君が好きだ!僕達付き合わないか?」
鈴子は彼を見上げた、年甲斐もない自分の泣き顔に呆れているかと思いきや、彼の表情はいつもと同じで温かく、ハンサムでたくましかった、彼の後ろで神戸の夜景がLEDライトの様にキラキラしている
「はい・・・」
鈴子はこれで、自分の人生を全部投げ出すことになるんだと自覚しながらも、彼の告白を心から嬉しいと感じていた、そして優しく彼は言った
「僕のうちにこないか?」
「行ってもいいの?」
「もちろん、君さえ良ければ・・・ちょっと散らかってるけど」
―悪いはずないわ―
鈴子は心の中でそう言った