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「なんですこの子供は!」


その小さな影はシエラでした。


先程まで私の背後に隠れていたのに、前に出て使者から私を庇うように両手を広げたのです。


「シスターをイジメたらダメッ!」

「どきなさい!」


マルクスががシエラに手を掛けようと距離を詰めました。


「止めて!」


私は制止の声を上げました。


大きな大人の男性に接近されたのです、まだ7歳の小さな女の子であるシエラが恐くない筈がありません。しかし、マルクスは止まる気配を見せません。


シエラの体が小刻みに震えています。それでも彼女は両手を広げて私の前から退こうしません。怯えながらもマルクスを睨みつけたのです。


シエラの小さな体にマルクスが手を掛けようとしました。ですが、異変を感じて孤児達が礼拝堂に入ってきてシエラと同じように両手を広げてマルクスを阻止したのです。


「なんですかおまえ達は!?」


さすがに多数の子供達に怯んでマルクスは強硬手段に出るのを断念しました。


「シスターは私達のシスターなの!」


驚いた事にいつも大人しいシエラが、私のスカートをギュッと掴んで涙を溜めた目でマルクスを睨みつけました。


小さな手が私を必死に握っているのです。

私を離すまいと精一杯の力で掴むのです。


それは小さな女の子があらん限りの力を振り絞って私を助けようとする懸命な姿。


「何を言っているのです。ミレーヌ様は国母となられるお方なのです!」

「シスターは嫌がってんだ。そんなもんになるかよ!」


マルクスが神経質そうな声で叫びますが、子供達は逃げるどころかキッと強い眼差しを彼に真っ直ぐ向けて手を広げたまま動こうとしませんでした。


「彼女が王都へ戻ればおまえ達ももっと良い暮らしができるんですよ!」

「そんなのどうだっていい!」

「シスターが嫌な思いをするくらいなら私達は今のままでいい!」


懐柔しようとするマルクスにも彼らの心は揺るがず――


「あまり聞き分けがないなら外の騎士を呼びますよ!」

「シスターはいつも僕らを守ってくれた」

「だから俺らはシスターを絶対に守る!」

「私達はあんたなんかに負けない!」


――脅しにも彼らは屈しなかった。


「あなや達……」


私を助けようと必死の行動に出る彼らに驚きで私は両手で口元を覆い、目からは涙が溢れそうになりました。


ああ、私はまたしても何も分かっていなかった――


シエラの小さな小さな手は、私に差し伸べられた救いの手。


私はいつもこの子達を守っているつもりでいました。

でも、本当は守られていたのは私の方だったのです。


この子達がいたから、私は冤罪で追放されたあの絶望から立ち直れた。

この子達がいたから、私はエンゾ様を喪った悲しみを乗り越えられた。

この子達がいたから、私はこの辺境の地で毎日を幸せに送れたのです。


今になってやっと分かりました。

私はこの子達に今までずっとずっと支えられていたのです。


「くっ、かくなる上は……」


身を翻してマルクスは礼拝堂を出て行きました。

外に控えている騎士を連れてくるつもりなのでしょう。


「あなた達は隠れていなさい」


このままではこの子達に危害が及んでしまう。それだけは避けなければ。


「いや!」


いつもなら言い付けを守るシエラが私のスカートをきゅっと強く握り締め、そのまま顔を埋めてしまいました。他の子達も動こうとしません。


「お願いよ。私なら大丈夫だから」

「ん~、ん~~!!」


シエラはスカートに顔を埋めたままイヤイヤと首を激しく振りました。

ああ、このままでは騎士達にこの子達が害されるかもしれません。


「なんだこれは!?」


しかし、一向に騎士達が礼拝堂に入ってくる気配はなく、それどころか外からマルクスの素っ頓狂な声が聞こえてきました。


何事かと表に出てみれば、騎士達が馬車に積み込まれていたのです。ぴくりとも動かない所を見るに、恐らく彼らは気を失っているのでしょう。


「だ、誰がこんな真似を!」


それを見てマルクスは怒り狂いました。しかし、深々とローブを被った人物がマルクスの背後を易々と取って喉元に刃を突き付けると、彼は口を閉じました。


ユーヤ!?


そのローブの人物が誰か私にはすぐに分かりました。


「き、貴様! こ、こんな事をしてただで済むと思っているのですか」

「済むさ……ここでの貴様の横暴を王都の教会に報せればな」


その言葉にマルクスは息を飲みました。


「そうなればどうなると思う?」

「ど、どうなると言うんだ?」

「ただでさえ民心の離れた王家だ。国王も教会からの信用をこれ以上は失いたくないだろう。だから、ここでの暴挙を無かった事にしようとするだろうな」


ユーヤの言葉にマルクスの顔色は次第に悪くなっていきました。


「わ、私はどうなる?」

「今までの国王のやり口を見て分からないか?」


ごくりと生唾を飲み込むマルクス。


「前王太子妃でさえ断頭台に登ったんだぞ」

「そ、それでは……」


震え出したマルクスの顔は可哀想なくらいに真っ青です。


「当然、全ての罪を被せられて始末されるに決まってるだろう」

「ひっ!」

「それが嫌なら大人しく帰る事だな」


ユーヤに脅されたマルクスは這う這うの体で帰ってしまいました。


「ありがとうございます」


フードを取ってその黒髪を曝け出したユーヤは不敵に笑いました。


「これで国王も易々とは手をだせないだろう。これ以上強行すれば完全に教会を敵に回すからな」


ユーヤには感謝の言葉しかありません。ですが、彼がこれ程に意地が悪いとは思いませんでした……

転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。

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