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第12話:ユメのことば
放課後、くもった空の下でチャイムが鳴った。
ミユが教室を出ようとしたそのとき、
ドアの向こうに、見覚えのある顔が立っていた。
「ユメ……?」
ゆるく結ばれたポニーテール。
制服のカーディガンの下から、首元に薄い紫あざのような影。
目の下には、濃いめのクマが浮かんでいる。
でも、笑っていた。
「ミユ……ちょっと、話せる?」
ミユはうなずき、ふたりでカフェに入った。
席に着いても、ユメはずっとスマホを握ったまま、黙っていた。
やがて画面をこちらに向ける。
「これ、見て……これ、私が書いたように見える?」
NaPointの投稿だった。
丁寧な文体。
レビューの内容はやさしくて、なんだか“ユメっぽい”。
でも、妙に正確すぎた。
「これね、3時間前に投稿されてた。
でも、私……今日、NaPoint開いてない」
ユメは苦笑いしながら言った。
「ねえ、ミユ。
“わたし”って、どこからどこまでだと思う?」
ミユは答えられなかった。
「……アカウントだけが、動いてるの。
わたしの知らないとこで、“わたし”が生きてるの。
それってさ……もう、わたしじゃないよね?」
ユメはカップを手に取り、少しだけ笑った。
その笑顔だけが、
この部屋のどこよりも、あたたかかった。