私は,函館で舶来品を扱う万屋の娘.
女学校帰りのある日,数少ない乗り物を乗りこなす褐色男子とすれ違った.大湊水雷団に新たに配属された海軍少将のご子息だという噂がすぐ耳に入ってきた.学校でもその人の話題で持ちきりだ.
「貴女はどう思う??」
「変わった眉してるのが気にならないくらいの好男子よね.でもなんか,潔癖そう….」
「もう,貴女ってば.そんな偏った物の見方してると婚期を逃すわよ.」
「いいの.結婚だけが全てじゃないし.私の将来は私が決める.」
「さすが舶来品屋を営む家の娘ね.それくらい気丈な貴女ならどこででも上手くやっていけるわ.」
なんて今日もいつもと変わらず友人とお喋りしながら大通りを歩いていると.
「今の,あのお方よね….」
「え,ええ….」
「連れていかれたわよ!?嘘,こっちにくる!!」
そう言って友人はぼさっと突っ立っている私の手を引いて,端へよけた.
「え!?追いかけるの!?」
私は鞄を友人に押しつけ馬車を追いかけるが,脚力がかなわず.追わずにいられなかった感情に府が落ちずに,友人と帰路についた.
「あのお方,見つかったそうね.」
「らしいわね.少将のお父様が直々に助けにいったそうじゃない.」
「あら,貴女の方が詳しいのね.」
数日後,登校中に誘拐事件の顛末を話し合っていると軍服を着たあのお方が.
「ごきげんよう.」
「ごきげんよう….」
友人が先に挨拶をしたので私もすると,彼は無言で被っていた帽子を少し上にあげて会釈した.その姿に友人は大喜びしていた.士官学校と女学校が同じ方向にあるので,それ以来すれ違い様に挨拶をすることが日常となった.
「誰かいないのか.」
「はい!!ただいま…!?」
休日,洋服を着て店番がてら本を読んでいると彼が店の入り口に立っていた.
「私の顔に何かついてるか.」
「申し訳ありません.初めて見るお客様だったので.(初めて声聞いた….)」
「ティーカップとやらはあるか.」
「はい.こちらに….」
「しかし,本を読む蝋人形と思ったら人だったとは.」
「申し訳ありません.この時間帯は見ての通り閑古鳥が鳴いております故,私が店番を任されているのです。」
「なるほど.人がいない方が品物を見やすいので私は楽だ.で,何を読んでいた.」
「洋書です.古本ですが,語学の勉強がてら目を通していました.」
「売り物か??」
「そうだったものを私が勝手にくすねました.え,嘘.逮捕されるんですか??」
顔を覗き込まれるので思わず後ずさる.
「どこかで見た顔かと思えば,あの2人組の.舶来品屋の娘だったとは.」
「お,覚えていただいていたとは.」
「この辺で女学校に通う女子はそういないからな.」
あったあったと,彼は目当てのティーカップを品定めし.
「この皿もついてくるのか.」
「はい.このように持って使ったりしますので.」
「そうか.じゃあこれを包んでくれ.」
「はい.」
お金を頂戴して,包んで店先まで持って渡すと.
「また来る.」
そう言って人混みに紛れていくのを.
「ありがとうございました.またのお越しをお待ちしております.」
と深々と頭を下げて見送った.
コメント
4件
さっそく読んでいただきありがとうございます✨ ネームレスな分、個性は出したかったです💡 現代の言葉を使わないように注意したので明治の雰囲気出せたかと🙆 後編に続くんですけど、書いても大丈夫そうですか??
うわぁ...!!😭ありがとうございます!!時代設定がしっかりしてるし、何より夢主ちゃんの個性がしっかりあるのめちゃくちゃ良いですね💕︎