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#闇バイト
るしゅ
199
74
1,998
土橋真二郎
215
五十万円。
その数字を見た瞬間。
俺はスマホを伏せた。
見なかったことにしたかった。
だけど。
五十万円という数字は頭の中から消えてくれない。
十万円。
三十万円。
そして五十万円。
どんどん上がっている。
まるで俺が慣れるのを待っていたみたいに。
その考えにゾッとした。
翌日。
指定された雑居ビルへ向かう。
足取りは重かった。
帰りたい。
本気で帰りたい。
でも母さんの写真が頭から離れない。
俺は階段を上った。
三階。
あの部屋の前に立つ。
ドアを開ける。
そして。
違和感を覚えた。
「……あれ?」
部屋を見回す。
椅子。
机。
モニター。
全部同じ。
でも。
人が少なかった。
前回より。
明らかに。
海斗も来ていた。
目が合う。
海斗も気付いているらしい。
部屋の中を見回していた。
俺は空いている席に座る。
人数を数える。
一人。
二人。
三人。
四人。
五人。
六人。
七人。
八人。
前回はもっといた。
確実に。
「あのさ」
小さな声。
隣の席の男だった。
大学生くらい。
「人、減ってね?」
俺は答えなかった。
答えられなかった。
みんな同じことを思っている。
でも誰も口にしない。
その時。
海斗が近づいてきた。
誰にも聞こえない声。
「気付いたか?」
俺は頷く。
海斗はさらに声を落とした。
「十人以上いたよな」
「たぶん」
「今、八人しかいない」
胸の奥がざわつく。
辞めたのかもしれない。
来なかっただけかもしれない。
そう思おうとした。
だけど。
あの女の子を思い出してしまう。
第六話。
帰ると言った女の子。
スマホを見た瞬間。
顔色が変わった女の子。
俺は周囲を見回した。
いない。
海斗も同じだったらしい。
「いないな」
小さく呟く。
俺は何も言わなかった。
言えなかった。
その時。
モニターが点灯する。
全員が黙る。
画面に文字が表示された。
【参加ありがとうございます】
誰も反応しない。
以前なら笑う奴もいた。
今はいない。
空気が違う。
みんな分かり始めている。
この仕事がおかしいことを。
次の文字が表示される。
【本日の案件説明を行います】
その瞬間。
一人の男が立ち上がった。
「ふざけんな」
部屋が静まる。
二十代前半くらい。
見たことがない顔だった。
「俺は降りる」
誰も止めない。
男は続けた。
「違約金?勝手に言ってろ」
そう吐き捨てる。
少しだけ。
俺は羨ましかった。
その勇気が。
男は出口へ向かう。
ドアノブを掴む。
そして。
ピロン。
スマホが鳴った。
男が画面を見る。
表情が変わる。
みるみるうちに。
血の気が引いていく。
部屋が静まり返る。
誰も喋らない。
男は固まったまま画面を見ていた。
十秒。
二十秒。
三十秒。
そして。
ゆっくり席へ戻った。
何も言わずに。
さっきまでの勢いが嘘みたいに。
部屋の空気がさらに重くなる。
俺は拳を握った。
見覚えがあった。
あの日の女の子と同じ顔だった。
同じ反応だった。
モニターに新しい文字が表示される。
【全員の参加を確認しました】
その文章を見た瞬間。
なぜだろう。
背筋が寒くなった。
全員。
その言葉が妙に引っかかった。
まるで。
来なかった人間は参加者として数えられていないみたいで。
俺は無意識に空席を見た。
そこに座っていたはずの人たちを思い浮かべる。
だけど。
名前も知らない。
連絡先も知らない。
何も知らない。
消えても。
誰も分からない。
その事実が。
たまらなく怖かった。
(第十二話へ続く)
コメント
1件
わ……これ、めっちゃ怖かった……。 もう五十万円になってて、しかも人が消えてる。 「全員の参加を確認しました」って文言、めちゃくちゃ不気味だよね……来なかった人は“参加者じゃない”って扱い。 海斗も気付いてて、二人で同じこと思ってるのがまた重い。 この空気、じわじわ来るタイプのホラーだよ……続き読みたい。