コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ですね、嘘をつきました。本来の計画ではあなたの本名がネットに晒された時点で、既に終わっていたんです」
しのちゃんは立ち上がり、ゆっくりと離れながら言う。ショルダーバッグから何かを取り出し、こちらへ投げてきた。私はたじろげながらもそれを受け取った。
それは久しぶりに見たが、よく知っている。まさしく今、この私の欲していたものであった。記号が縦に連なり、二〇×二〇の枠を埋め尽くすことで価値を持つ。原稿用紙、いや違う小説だ。
私はこの作品を読んだことがあった。これを私は、三年前彼女に読まされた。
物語の流れは大まかにこうだ――幸せな生活を送る女がいた。金と時間に恵まれ、それでも更なる幸せを求める女がいた。
ある日、夫の浮気が発覚する。女はあまりの悲しみに嘆き、やがて自身の全てを賭けた復讐を誓う。燃える魂は悪を許しはしない。夫を言葉で責め立て、離婚し、それに留まらずに社会的地位すら落す。そんな物語だった。
しかし、今回違っていたのは、以前は未完成であった、その後が書かれていたところにある。
「これは、私なの……?」
そう、これは私だった。実はこの復讐こそ、離婚を願う夫。つまりは晃一による、美蘭への復讐の過程でしかなかったのだ。初めから私に味方などいなかった。
「これらの作戦の大半を作り上げたのは玲奈さんです。ですので、今のこれは完全な私の独断。先輩、あの日これを読んで、私に何と言ってくれたか覚えていますか?」
「……失恋」
「そう私、ずっと前から恋しくてたまらないんです。先輩が変わってしまったあの日から」