一方、渦中の守恵子《もりえこ》はというと……。
「うーん、では、これでどうでしょう?」
初々しい声と共に、房《へや》には、パチンと碁を打つ音が響いた──。
「あっ!そ、それは!守ちゃん!それは、ないって!ここは、幼馴染みのよしみでさぁ、ちょっと、待ったあ!!」
「なあーにが、ちょっと待ったあ!ですかっ!!それは、こちらの台詞ですっ!!」
「あら、上野……と、常春《つねはる》……?それは、いったい?」
守恵子の房の入口には、上野をおぶった、常春の姿が。
守恵子は、何事かと、目を見張る。
「う、うわっ!私の紗奈《さな》ちゃまっ!!どうしちゃったのっ!!って言うか、長良兄《ながらにい》さん、羨ましすぎるわっっ!!」
「お黙んなさいっ!なーにが、紗奈ちゃまですかっ!いつから、お前の物になりましたっ!この、阿保時《あほとき》めがっ!よりにもよって、何故、守恵子様と、御簾の外、それも対面で、囲碁などを!」
ひいいいーと、声を挙げながら、上野の剣幕に、阿保時と呼ばれた公達は、後ずさった。勢い碁盤に触れてしまい、バラバラと、碁石が床に落ちてしまう。
「あらあ、せっかくの勝負が、台無し」
守恵子は、残念そうに散らばる碁石を見た。
「守恵子様、あとは、私共が片付けます。どうか、お早く御簾の内、ご座所へお移りください」
常春が守恵子を急かす。
「そうです!姫君とも有ろうお方が!何故ゆえ、男子《おのこ》に、素顔を晒しますかっ!!」
「上野?だって、秋時《あきとき》様とは、幼馴染み、それに、碁を嗜んでいただけよ?」
あーー、と、常春、上野の兄妹《きょうだい》は、息をつく。