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「それにね、上野?私、ちゃんと、いざという時の事を考えているのよ?だって、御簾の内にいても、押入られたら、結局、身は危ないでしょ?だから……」
守恵子《もりえこ》は、側に置く鯨尺《ものさし》を、引き寄せた。
「ほらね。これで、えいっ!って!そしてね……あら?タマ?」
もしも、守恵子に力及ばない時は、助っ人の力を借りるのだと、守恵子は、言ってくれるが、その助っ人とやらは、部屋の外、日当たりの良い広縁で丸まり、くぅくぅー寝息をたてていた。
「もしや、タマの力を借りるおつもりで?」
上野は、守恵子に確かめる。
「ええ、タマも、小さいとはいえ、犬ですからね。何事かあれば、ふらち者に、ガブリと噛みつくはずよ」
「守恵子様!ふらち者が、既に、現れておりながら、まるっきり、役に立っておりませんでしょうがっ!!」
上野の怒りを受けて、秋時が、自らを指さしながら、常春《つねはる》に視線を送る。
「はいはい、そこまでー!な?晴康《はるやす》、几帳の後ろに隠れていて正解だったろう?面白いものが見れた!」
言いながら、何故か、守満《もりみつ》と晴康が、隣の間とを間仕切る几帳を運びながら、こちらへやって来る。
「なっ!守満様!その様なことは、私が!」
守満に、力仕事をさせてはならないと、慌てた常春が動く。
「うわっ!兄様っ!」
守満の代わりに、几帳を運ぼうと、うっかり、おぶった妹から手を離した常春のせいで、上野は床に転がり落ちた。
ドスンと、尻餅をつく上野。その落っこちた音で、目を覚ましたタマが、何事かと起き上がり、上野へ近寄って来る。
「あーー!嫌だっ!タマ、こっちへ来ないでっっ!!」
「おー!タマも、役立っているじゃないか!」
守満が笑った。
「あー!もう!私が、犬が苦手なのを知っていながらっ!!兄様!!」
常春は、助けを求める妹を、別段気に止めることなく、晴康と共に間仕切り几帳を運んでいた。