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「さっっっむい!」
「おいおい、さっきまで平気って顔してたじゃねえか」
「あ、アルベド、火の魔法かけ直して……」
「しょーがねえなあ。ったく……」
面倒くさそうにいいながらも、アルベドは私に火の魔法をかけてくれた。自分で出来ればいいのだが、基本光魔法の魔道士はそれらになれていない。それに、これから、フィーバス卿の試練というか、魔法測定みたいなのがあるのに、無駄に魔力を消費するわけにはいかなかった。
(――って、今の私、魔力無限だったんじゃん!?)
アルベドも、その事を分かっていながら、私に魔法をかけてくれているんだろう。彼の貴重な魔力を消費させてしまったことを、申し訳なく思いながら、中庭……といえるのか、訓練場みたいな所の真ん中に、フィーバス卿はいた。先ほど羽織っていたマントを脱いで、白いグローブをはめている。もしかして、フィーバス卿と戦うことになるんじゃ、と嫌な予感しかしない。もしそうだったら、全力で逃げたいのだが、ここまで来て、逃げるという選択肢は、私に残されていなかった。
人にぶつける魔法は、あまり得意じゃない。何処か、思考にストップがかかって、威力が出せないのだ。ヘウンデウン教の奴らとの戦いもそうだったけれど、対人戦には向いていない。魔力領でいえばピカイチかも知れないけれど、それでも、魔法が人を傷付けてしまうことを知っているから、自分の中で制限してしまうのだと。
(ま、まあ、さすがに自分に撃ってこないなんていわないよね……フィーバス卿も)
「おい、何をしている。さっさとこい」
「へ、は、はい!」
呼び出しを喰らったため、私はささっとフィーバス卿の元に駆け寄る。その間際、私は後ろにいたアルベドにいってきます、とジェスチャーで伝えた。彼も、同じジェスチャーを返してくれて、少しだけ、やる気が出てきた。といっても、ここからが問題なのだと、気を引き締め直す。
フィーバス卿に近付けば、そんなに近付いたら動きにくいだろう、といわれて、私は首を傾げる。こちらの意図も読み取れないのか、的な顔をされて、私は、すみませんね、としか謝れなかった。でも、本当に嫌な予感がして、今すぐに、アルベドと場所を交換したいぐらいだ。
「そ、それで確かめるとは、どのように……」
「決まっているだろう。貴様の魔力……俺にぶつけるんだ」
「は、はい?」
「遠慮せずに撃ち込め。さすがに、死にはしないだろう」
「し、死んだら?」
「何かいいたいことでもあるのか」
「ひいっ、何でもないです!」
いや、いいたいことありまくりだし、この人なんていった? と、私は自分の中で、何度も、フィーバス卿の言葉を反復してみる。でも、何度思い出してみても、「遠慮せずに撃ち込め」といっているのだ。何を撃ち込むのか、決まっている、魔法だ。
私はそれを聞いて、さあと血の気がひくような感覚に陥った。思っていたことが的中したのもそうだけれど、一番避けたかったことであったから、もう立っているのがやっとだった。魔法が嫌いなわけじゃない。人に向かって魔法を撃ち込むのが苦手なのだ。アルベドみたいに、他人に冷淡になれれば、人間に対しても魔法が使えるようになるのだろう。思えば、ブライトもそうで、何処か一線引いていて、人間でも容赦無く魔法を撃つ。それくらいの気持ちを持たないと、想像力が必要となってくる魔道士には向いていないのかも知れない。なら、私は、魔道士に向いていない。
けれど、今回は力を示さなきゃならない。そうじゃないと、私はここにいられない。ここまで来た意味も無いし、落胆させるようなことがあれば、アルベドの評価だって落ちるだろう。
「どうした、撃ってこないのか?」
「いえ。でも、魔法でフィーバス卿を傷付けたらいけないと思って……それに、私の魔法強いですよ?」
「威勢だけはいいんだな。だが、そんなハッタリが通用するとでも思っているのか」
「魔力凄いって誉めてくれたじゃないですか!?」
今の発言は、どっちの意味なんだろうか。ハッタリといったのが、私を滾らせるためか、それともただの失言か。フィーバス卿が、如何に守りが堅い魔道士だとしても、初代聖女の力を持ってすれば、彼の防御魔法なんて砕けるに違いない。やってみないと、そこの所は分からないけれど、自信がなければ飛び出さない発言だと思った。
フィーバス卿は、大きく構えて、こちらを見ている。いつでも、何処からでもどうぞという意味だろう。もう、やるしかないのかも知れない。はじめから、分かっていたことだろう。
「こ、後悔しないで下さいね」
「フンッ……やれるものなら、やってみろ。貴様の力を見せてみろ、ステラ」
「……っ」
フィーバス卿からは攻撃をしないという意思が読み取れた。これはあくまで、私の魔力を測定するためのもの。魔力測定なんて、此の世界にきたっきりやっていない。まして、人にぶつけて、それを審査するなんてこともしたことがなかった。
どんな魔法を撃てば、認めてくれるのか。フィーバス卿の基準が分からなかった。だから、最大火力を出して、ぶつければいいと思ったがそれも気が引ける。かといって、力を抜くことは許されない。
(でも、フィーバス卿が、堅いっていうならこれまで試したことがないくらい、魔力を込めて魔法を撃ってみてもいいかもしれない……)
私は、決心し、身体の中心に魔力を集めた。五属性の魔法はあまり得意ではない。それに、聖女であるなら光魔法を撃った方が効率的だろうし、一番力が出せると思った。
「アルベド、ちょっと下がってて。あと、防御魔法はった方がいいかもしれない」
「はっ?お前、何する気だよ」
「分かってるでしょ?実力を見せつけるのよ」
アルベドに注意喚起をすれば、彼はすぐに私の意図をくみ取って防御魔法を張った。遠くにいるし、まきこまれはしないだろうけれど、念のためだ。アルベドくらいの魔道士なら、自分一人魔法で守ることぐらい造作でもないだろう。
私は、アルベドが防御魔法を使ったのを確認した後、私は身体に集めた魔力を空中に持っていき、大きな槍を作った。あの、レヴィアタンを倒したときの槍を生成する。私が今まで使った中で、一番魔力量がたかくて、威力があるヤツ。これしか思いつかなかったのは、私の落ち度ではあるが、問題ない。
生成するときは力を入れて、でも、対象物に当てる前までは、極力魔力を少なめに注ぐ。そうすることで、魔力を持たせることが出来るのだと、アルベドが教えてくれた。けれど、今回は、魔力のことを気にしなくていい。だって、初代聖女は無限の魔力を持っているから。
皮肉なことに、フィーバス卿の呪いと同じ……
(大丈夫ブレもない、これならいける)
目にもの見せてやるんだから! そう意気込んで、私は、フィーバス卿に巨大な槍を振り下ろす。槍は、その重さから考えられないほど早く落下し、フィーバス卿を貫く……おしつぶさんとばかりに加速していく。だが、フィーバス卿はそこから一歩も動こうとしなかった。さすがに、不味いかも知れない、と思ったがここまで加速してしまっては、止めることが出来ないと、彼が逃げるか、防ぐかどちらかしてくれなければ……
(辺境伯殺しになるのだけは嫌!)
さすがに、そんな不名誉というか、自分が招いたことなんだろうけれど、そんな結果になるのだけはごめんだった。
あの時以上に、槍の威力は増しているし、それでも、これだけ魔力を使っても消費していない身体の方が化け物に思えた。これが、初代聖女の無限の魔力なのかと。それ以外にも、色々と思うところはあったが、槍がフィーバス卿に衝突した際、まばゆい光と、次にもの凄い冷気があたりを包み込み、私は思わず後ろに仰け反った。ゴムボールみたいに身体が跳ねて、後ろの柱に当たりそうになった時、後ろで誰かが受け止めてくれた。
「ぐっ……」
「あ、アルベド!?」
「衝撃波に、供えとけよ」
と、彼は軽口を叩いたが、少し痛そうに顔を歪めていた。魔法を撃つことばかり考えていて、確かに、衝撃波に供えるという意思が抜けてしまっていた。アルベドが受け止めてくれなければ、私は柱に叩き付けられていただろう。
「ふぃ、フィーバス卿は!?」
そして、すぐに現実に引き戻され、白い冷気の霧があたりを包む中、私はフィーバス卿の姿を探した。この冷気は、紛れもなくフィーバス卿のもの。そして、私が生成した槍の魔力はもう感知できなかった。ということは、フィーバス卿が――
「想像以上だった……だが、最後で手を抜いたな。ステラ」
「……フィーバス卿」
冷気がサッとひいたかと思えば、その白い中からフィーバス卿があらわれる。彼は、傷一つついていないぴんぴんとした状態で、私とアルベドを見下ろした。その姿は、まるで魔王のようだった。