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――目を開けた。
自分はいつの間にか寝てしまったのか。
けれど、何かが違う。
そこは、バスの車内ではなかった。
見覚えのない場所。
ハルキは反射的に身を起こし、辺りを見渡した。
そこは薄暗い、どこかの学校の教室だった。
けれど、普通の教室とは違う。
古びた机と椅子が乱雑に積み上げられ、足元には誰かが捨てたようなプリントやノートの切れ端が散乱している。
教室の隅には、銃を持ったカモフラージュ柄の兵士のマネキンが無数に並んでいた。
――いや、マネキン……?
その「人形」は異様だった。
カモフラージュ柄の軍服をまといながらも、顔の部分は真っ黒に塗りつぶされている。
まるで、表情を剥奪されたかのような、不気味な存在。
教室の蛍光灯は不安定に明滅し、壁には何かの染みが広がっていた。
それが水なのか、血なのかは分からない。ただ、その異様な空間がまとわりつくような不気味な冷たさを放っていることだけは確かだった。
ハルキは息を呑む。
――これは、夢なのか?
そう思った瞬間、周囲から小さな呻き声が聞こえてきた。
顔を上げると、そこにはハルキと同じ放送研究部の仲間たちがいた。
教室には、バスに乗っていた全員が揃っていた。
彼らの顔には、あの楽しげな笑顔はどこにもなく、青ざめた表情で周囲を見回している。
「……なんだよ、ここ……」
「なんで学校にいるんだよ……?」
「え? さっきまでバスにいたよな……?」
囁き合う声が、恐怖と混乱に満ちていた。
そして――その時だった。
「こんにちは」
教室の黒板の前に、見知らぬ男が立っていた。
サークルにはいない顔。全員が凍りついたように、その男を見つめた。
男は痩せていて、黒いスーツを着ていた。
年齢は分からない。無表情のまま、淡々とした声で言葉を続ける。
「まずは、ひとつお知らせをしておきます」
教室の空気が静まり返る。
男は一歩前に進み、口元だけに僅かに笑みを浮かべた。
そして――
「――みなさんは、これから死にます」
その言葉は、不気味な冷たさを伴い、教室の空気を一瞬で凍りつかせた。
誰もが息を呑む。
声を出そうとしても、喉が凍りついたように何も言えない。
ハルキは、はっきりと感じた。
――これは、ただの悪夢ではない。
彼らは確かに、バスに乗っていた。卒業旅行の途中だった。
しかし今、彼らは見知らぬ場所に連れてこられた。
何者かによって。
そして、目の前の男が告げた言葉の意味を、まだ誰も理解できずにいた。
けれど、この瞬間だけは、誰もが直感していた。
――ここは、ただの教室ではない。
――ここは、命を奪われる場所だ。