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133 - 第3話:コードの向こうにあるもの

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2025年04月22日

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第3話:コードの向こうにあるもの


風が揺れるツリーハウスの中層。

枝と枝の間に設けられたガラス天井の教室に、今日はいつもの演習ではない緊張感が漂っていた。


「本日は――“再生コード”の演習を行う」

そう宣言したスエハラ先生は、白衣の裾をひらりと翻し、演習用の杭の前に立った。


「テーマは『記憶』。お前らが“他人の想い”を読んだとき、何を感じ、何を書くか。それをコードで示せ」




演習空間が展開される。碧素杭の先端に、青白く脈動する点が浮かび上がる。


「この杭には、過去の生徒の“断片的な記憶”が記録されている。誰のものかは、伏せる。感じ取れ」


教室がざわつく中、ゲンが真っ先に前に出る。


「先生、これ使っていい?」


《TRACE = “杭”》《MEMORY = “最初の音”》《RENDER = TRUE》


光が杭から迸る。半透明の視覚データが空中に展開され、そこには古びたピアノと、白いカップが浮かび上がる。


「……音? なんか音楽室っぽい……」

タカハシが呟く。


《SOUND = “失われた旋律”》《ECHO = ON》


ゲンが更にフラクタルを重ねると、かすかなピアノの音色が空間全体に反響し始めた。




「すげぇ……これ、コードで音を再現してる……」


「違うな」

ゲンが微笑む。


「“想い”にコードを寄せただけだよ。記憶が、奏でたいって言ってた」


タカハシが腕を組んで見つめる。


「……やっぱりお前、変だ。でも、ちゃんと届いてる」




演習の終わり。別の班では、笑顔の記憶を呼び起こした者もいれば、涙を流した者もいた。

スエハラ先生は静かに言った。


「コードは、命を動かす。ただの命令じゃない。そこに“意味”があるかどうか――それを見極められる奴が、真のフラクターだ。」


ゲンとタカハシは帰り道、ツリーデッキで風を感じながら並んで歩いた。


「……なあ、タカハシ。お前の記憶、いつか見せてくれよ」


「気軽に言うなよ。でも……機会があればな」


夕暮れに、光の杭が優しく脈打っていた。

コードの向こうにあったもの――それは、“誰かを想う力”だった。

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