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私の方が、美人だし、頭もいいし、性格もいいし、仕事もできる……。
彼が香帆を選ぶ理由が解らない。
そうか!!
彼は私を好きなのに、香帆が騙して奪い取ったんだ!
(妊娠したって言ったのか?) (ゼクハラしたに決まってる)
美緒の〈思い込み〉は、香帆への憎しみに変わった。
だが、美緒は極めて『普通』を装った。
気持ちを知られると香帆に優越感を与えるだけだ。
「私は佐山さんなんて興味ない」の振りを続けた。
お客様が途切れて、香帆と美緒に会話の時間ができた。
「ねぇ、いつから付き合ってたの?」
「覚えてるかなぁ? 地域に〈不審者情報〉が出たでしょ」
「ああ、1年前ね」
「あの日、家まで送ってくれたの」
「え?」
美緒に「美人やから、気ぃ付けや」と言った日だ。
(私には言葉だけで、香帆は家まで送った?)
「送ってって、頼んだの?」
「違う。危ないから家まで送らせてくれ、って」
「家に入れたとか?」
「まさかぁ。私は実家住まいだから」
〈不審者情報〉の解除まで、颯真は香帆を4日間送った。
「そこからかな。意識したの」
美緒は香帆の話を信じない。
(あざとく「恐いぃ」と言って送らせたんでしょ)と思っている。
都合のいい〈思い込み〉と〈決め付け〉で、自分を守ると楽になるからだ。
それが『現実逃避』だと気付いていない。
美緒は香帆に忠告した。
「あの人はモテるし、やめた方がいいよ」
「ありがとう。でも、やっぱり結婚するわ。颯真のこと好きだし」
キッパリ言い切る香帆に(不幸になれ!)と美緒は思った。
香帆と颯真は結婚した。
結婚式と披露宴は行わず、両親と親族だけの食事会をした。
その後、4泊5日の新婚旅行でシンガポールに行った。
旅行から帰ると、颯真は別の営業所へ転勤になった。
「え? 佐山さんが移動するの?」
「夫婦は同じ営業所に勤務できないからね」
「香帆が退職すると思ってた」
「パートで残るんだ。扶養内っていうアレ」
(何それ。最悪じゃない)
香帆の勤務時間は短縮され、美緒の仕事量と責任が増えた。
美緒は、心も身体も疲れ始めた。
無意識のうちに〈歯軋り〉することが多くなった。
だが美緒は、プライドを保つために香帆と普通に会話した。
他人が見たら『仲良し同僚』だろう。
話題はどうしても颯真のことになる。
美緒は「新婚生活」を訊いてしまう自分が〈みじめ〉だった。
嬉しそうに答える香帆が憎らしかった。
「三千万円の保険金を掛けた」という話までは、なんとか聞けた。
だが……、
「そろそろ妊活しようかな」という言葉で、心の糸がプツンと切れた。
心の糸が切れた美緒は体調を崩した。
正確には心を病んだ。
(香帆が楽しく暮らしているのに、なぜ私はこんな目に遭うの?)
そのころ女子大の同窓会があり、二次会でホストクラブに行った。