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第9話「配信バズり」
リオは20歳の女子大学生。明るいピンク色に染めたセミロングの髪をヘアピンで留め、オーバーサイズのパーカーとショートパンツを着ている。リングライトの前で座る姿は華やかだが、彼女の中には三つの人格がいた。
一つは“実況人格”。ハイテンションでゲームの状況を盛り上げる。
二つ目は“解説人格”。冷静に戦術や情報を説明する。
三つ目は“絶叫人格”。負けたり驚いたりすると大声で叫び散らす。
リオは毎晩、動画配信プラットフォームでゲーム実況をしていた。多重人格社会では配信者の“人格交代”が売りになっており、視聴者は「今日は誰が出てくるか」を楽しみにしている。
「やっほー!リオです!今日はホラーゲーム実況だよ!」(実況人格)
画面の中でキャラクターが進むと、すぐに解説人格が前に出る。
「このルートは安全、アイテムを拾えば進行が楽になります」
視聴者コメントが流れる。
《交代きた!》《解説ありがたい!》
ところが突然、ゲーム画面にゾンビが飛び出す。
「ぎゃあああああああ!」(絶叫人格)
リオの髪が振り乱れ、視聴者が大爆笑。
《耳壊れるww》《絶叫人格きた!》《これが楽しみなんだよ》
チャット欄は一気に盛り上がり、同時接続数は跳ね上がった。
この社会では、配信者の人格ごとにファンクラブが存在する。「リオの実況人格推し」「解説人格クラブ」「絶叫人格信者」など、ファン同士で議論するのが当たり前になっている。
配信の終盤、リオが交代しすぎて疲れ果てた代表人格に戻った。
「……みんな、ありがとう。私、ほんとは普通にやりたかったんだけど……」
視聴者コメントが一斉に流れる。
《普通なんていらない!》《交代芸最高!》《明日も絶叫頼む!》
翌朝、大学で友達に会ったとき、スマホを見せられた。
「リオ、昨日の切り抜きもう100万再生だよ!」
リオは頭を抱えた。
「……また“絶叫芸人”としてバズっちゃった……」
だが心の中で人格たちは口々に叫ぶ。
「次も盛り上げようぜ!」
「攻略チャート作らないと!」
「うわああああ!楽しみー!」
多重人格社会では、ネットもまた“人格の渋滞”によって沸き立っていた。