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第10話「家族会議カオス」
アキは三十八歳の主婦。肩まで伸ばした栗色の髪を後ろでひとつに結び、エプロン姿で台所に立っている。柔らかい雰囲気の目元だが、彼女の中には五つの人格がいた。
一つ目は“料理人格”。家庭的で料理上手。
二つ目は“倹約人格”。財布をにぎり、食費を細かく計算する。
三つ目は“冒険人格”。珍しい料理や新しい食材に挑戦したがる。
四つ目は“甘党人格”。とにかくデザートが中心。
五つ目は“代表人格”。調整役で、家族の意見をまとめる。
その日の夕食を決めるため、家族会議がリビングで開かれた。
夫のケンジ(四十歳、眼鏡をかけたサラリーマン、スーツ姿のままソファに座る)と、息子のヒロ(中学生、スポーツ刈りにジャージ)、娘のミナ(小学生、ツインテールに赤いワンピース)がテーブルを囲んだ。
「さて、今日の夕飯は何にする?」(代表人格)
料理人格がすぐに答える。
「カレーにしましょう。材料もあるし、みんな好きだし」
倹約人格が割って入る。
「いや待って、冷蔵庫の野菜を全部使い切らないと無駄になる」
冒険人格が目を輝かせる。
「今日はエスニック料理に挑戦したい!」
甘党人格が机を叩く。
「ケーキ!ご飯よりケーキ!」
アキの声色が次々変わるたび、夫と子どもたちが顔を見合わせる。
実はこの社会では「家庭内人格会議」が珍しくなく、食卓を決めるのは一大イベントだった。テレビでは“人格会議で決める節約術”や“人格交代クッキング番組”まで放送されている。
息子ヒロがため息をついた。
「……もう、昨日も同じで30分かかったじゃん」
娘ミナは笑いながらノートを取り出す。
「今日は私が議事録係!」
結局、代表人格が仕切って多数決をとった。結果は「普通の夕食+デザートにプリン」。
「……妥協案か」(倹約人格)
「でもプリンはあり!」(甘党人格)
アキは深いため息をつきながら、それでも笑顔になった。
「まったく、うちの中も毎日コントみたいね」
家族全員がうなずき、夕食作りがようやく始まった。