朝起きて畑葉さんが居ないことに気づく。
あぁ、そっか。
昨夜、泊まらないで帰ったんだっけ?
なんか寂しく感じるな…
下に降りると父さんは仕事へ。
母さんは買い物へ行って今家には僕しか居ない。
余計に孤独感が漂う。
なんかこれ、嫌だなぁ…
そんなことを思っていると急に玄関の鍵が開き、扉が開く。
母さんが帰ってきたのだろうか?
そう思っていたが、扉の前に居たのは畑葉さんだった。
「古佐くん!」
「金木犀探しに行こう!!」
いつも通りのテンションで、
いつも通りの笑顔を見せる。
そんな姿を見て僕の心は浄化されたように先程まで不安だった何かが消えたような気がした。
「古佐くん?」
「もしかして私が居なくて寂しかった?」
少しの笑みを含みながらそんなことを聞いてくる。
正直に『うん』と答えようとした時、
『なんで畑葉さんが僕の家の鍵を持ってるの?』という疑問に上書きされる。
「ねぇ、聞いてる〜?」
「…聞いてるよ」
「それよりなんで僕の家の鍵、持ってるの?」
「んぇ?あぁ、これ?」
「古佐くんママがくれたんだよ〜!!」
母さんがあげた?
畑葉さんに?
なんで?
「それより金木犀探しに行こうってば〜!!」
そう言いながら寝起きの僕の腕を引っ張って眩しい外へと連れていく。
外の眩しさが反射して目が痛む。
家の中がよっぽど暗かったのが感じて分かる。
「金木犀なんて生えてるの?」
「うん!!前言ったじゃん!」
「金木犀は秋の花だって!」
まぁ確かに言ってたけど…
問題はそこじゃなくて…
どこに生えているのかが問題であって…
「金木犀を探すって…」
「生えてる場所の検討はついてるの?」
「全然?」
『全然?』じゃないでしょ…
じゃあ無かったら時間の無駄ってこと?
『着いてこなきゃ良かった…』そう思う。
だが、それはきっと昔の僕で。
今の僕はそんなことを聞いても嬉しいという気持ちが勝ってしまう。
それもこれも全部畑葉さんのせいだ。
じゃなきゃこんな気持ち、
芽生えるはずが無い。
「ねぇ、本当にこっちに生えてるの?金木犀…」
歩いてから数時間が経ったように感じる。
が、きっと数分しか経っていない。
いや、数十分だろうか?
だとしても金木犀が見つかっていないことには変わりない。
「絶対あるって!!私センサーが言ってるもん!!」
なんだよ『私センサー』って…
僕の体には木枯らしが何度も吹き付けている。
極たまに秋が飛んできたりもして。
なのに隣に居る畑葉さんには一切、
木枯らしが吹き付いていなかった。
僕が壁になって風を防いでいるのだろうか?
そう思ったりもしたが、変わらなかった。
なんで畑葉さんには風が当たらないのだろうか。
「あ、ほらあるじゃん!!あそこあそこ!!」
そう言ってはしゃぎながらどこかを指差す。
が、僕には地平線が拡がっているようにしか見えなかった。
「え?」
と眉をひそめながら疑問の声を漏らすと、
いつの間にか畑葉さんは僕の先を走っていた。
何分も歩いてクタクタだと言うのに走らなければいけない。
最悪だ。
でもここで走らなかったら完全に迷子。
詰みだ。
そんな結果にはなりたくない僕は棒になってしまった足を無理やり動かして畑葉さんを追う。
あぁ、運動不足すぎる…
きっと明日は筋肉痛だろうなぁ…
「ね、あったでしょ?」
肩で息をしている僕にそう言う畑葉さん。
確かに目の前にはオレンジ色の花。
そして強い香りが広がっていた。
だいぶ走ったのにこんな距離の金木犀がさっきの場所から見えたってこと?
どれだけ目が良いのだろうか。
「あ!!銀木犀もあるじゃん!!珍しい!!」
そう畑葉さんが興奮している最中、
僕は息を整える。
というかこんな場所まで来て家に帰れるのだろうか?
ちなみに僕は分からない。
何せ、方向音痴なもんで。
「こっちが金木犀で、こっちが銀木犀だよ!!」
そう言いながら紹介する。
金木犀は強い香りがするが悪い匂いでは無い。
それに銀木犀は仄かな香りで、
僕は銀木犀の方が好みに思えた。
「私は銀木犀が好き!!古佐くんは?」
「僕も好きだよ。銀木犀」
僕も同じ意見だと言うと
「やっぱり?!」
なんて言う。
反応が可愛らしい。
いや、面白い。
「ね、もしさもしさ!!」
「色んな色の木犀があったら何色がいい?」
「私はね────」
「「ピンク!」」
当ててやろうと思ったがいいものの、
シンクロに驚き互いに顔を合わせ、
一瞬時が止まる。
「なんで分かったの?!」
先に口を開けたのは畑葉さん。
はい畑葉さんの負け。
って感じで、昔こういうゲームあったなぁ…
先に喋った人が負けなゲーム。
今思えば馬鹿馬鹿しいと思えるが。
「畑葉さんって桜好きだからピンクかなって?」
「わぁ…!理由までも合ってるよ!!」
『すごい!』『エスパーだ!!』というように当てた僕を褒める。
なんだか悪い気分では無い。
「それで古佐くんは何木犀?」
「うーん…僕は……」
「透明かなぁ…」
「透明?」
「うん、なんか夢の中の景色でありそうだし…」
そういつも現実に引き戻すような言葉を言っている僕が『夢に出てくるような透明の木犀』と言うと畑葉さんはすかさずツッコんできた。
「いや、古佐くんに言われたくないし」
と。
正論すぎる。
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