TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「でも透明か〜…」

「なんかいいね、それ」

突っついたと思ったら褒めてくる。

まるでそういう鳥みたいに。

「光の反射で一瞬見えるとか」

「なんか良くない?」

僕も負けじとそんなことを言うと『めっちゃいい!!』と畑葉さんが言った後、

二人して木犀についての話で盛り上がる。

その時、ふわりと何かが飛んでくる。

「あ!!雪虫!」

雪虫。

初雪が降る前に飛ぶ虫。

地域によっては気持ち悪いほど飛んでいるとか。

そう雪虫だと確信していた僕の手に雪虫が当たる。

違う。

雪虫じゃない。

これは雪だ。

ヒヤリと冷たい白いふわふわ。

雪虫なら感じない冷たさを。

「ねぇ、これ雪虫じゃないよ──」

そう言い切ったと同時に畑葉さんの方を向く。

と、畑葉さんは何やら切なそうな目で空からゆっくり降り注ぐ初雪を眺めていた。

それがなんだか美しくて。

でもなんだか胸が苦しくなって。

不安の気持ちが増す。

何の不安なのかは全く分からないけれど。

「…近所に『ユキアイス』っていう店が出来たんだって」

「行ってみる?夏に食べたアイスと違く感じるかもだし」

無意識的に口から飛び出してきたそんな話題。

畑葉さんが切なそうな顔をする度に僕の胸もキリキリと痛む。

畑葉さんに『なんでそんな顔するの』って聞けば僕の胸の痛みも無くなるだろうか。

そんな疑問が浮かぶも、

もっと大きい不安が出来そうで聞くに聞けない僕は弱虫なのだろうか。

「行く!」

「丁度アイス食べたいと思ってたんだ〜!!」

「やっぱり古佐くんってエスパーなんでしょ!」

少しの間が空いてから畑葉さんが返してくる。

いつもの雰囲気でノリで。

それに心の中で安堵のため息を零した。



「ん〜!!美味しいねこれ!!」

「冬に食べるアイスも悪くないね!!」

ユキアイスのアイスクリームは丸いアイスでコーンに乗っかってる。

theアイスって感じ。

畑葉さんが選んだアイスは下から順に『チョコ』『ミルク』『イチゴ』の3種。

僕は『ミルク』と『モカ』のマーブルアイスの1種。

「人生に一度はこんな風なアイス食べてみたいよね〜!!」

そう興奮しながらイチゴのアイスを食べる畑葉さん。

確かに3段アイスは子供の夢。

僕も1度は食べてみたいと思ったけど安全面で見ると食べたく無くなった。

もし全部落としてしまったら元も子も無い。

「古佐くんのはどう?」

「美味しいよ」

「というかこんな美味しいアイス屋さんが出来たなんて…」

「一瞬で混みそう」

「確かに」

今はオープンしたばっかだったから人は少なかった。

だけどこれから多くなるんだろうなぁ。

それくらいアイスは美味しかった。

「そういえば雪虫ってさ〜」

「夜に見たら蛍みたいに光るのかな?」

「蛍雪みたいにさ!!」

どうだろう…

「光らないんじゃない?」

「だって虫だし」

そう返事をすると『そっかぁ〜…』と落ち込む。

「そういえば雪虫って地方によって呼び方が違うんだってさ」

「知ってる?」

畑葉さんを励まそうと思い、

豆知識を披露することにした。

「知らない!!」

「例えばある地域では『綿虫』って呼んだり、またある地域では『おこまさん』なんて呼ぶんだって」

「へ〜…」

「面白いね〜!!」

「場所によって呼び方が違うなんて…」

「興味深い…」

漫画のセリフのような言葉を言う畑葉さん。

なんだか面白い。



「てか待って!!初雪が降ったってことは初霜もあるんじゃない?!」

そう言いながら畑葉さんはまたもやどこかへと走っていく。

「ちょっと!!急に走らないでってば…!」

慌てて追う。

が、最悪なことに見失ってしまった。

『畑葉さんとはぐれたら迷子確定。詰み。』さっきまでそんなことを言っていたけど、

それが現実になるだなんて…

屈辱だ。


止まっているのもあれだし歩いておこうと思ったのも数分前。

逆にその場から動かない方が良かったのでは?

と思い始めてくる。

なんだかすれ違いが起きてそうで怖い。

というか畑葉さんは僕のことを探しているのだろうか?

まずまずそれが分からない。

探してくれてると信じて雪が降り注ぐ道を歩いて行く。

金木犀を見るためにこんな所まで来ていたなんて…

行くって言わなきゃ良かったなぁ…

でも金木犀も銀木犀も綺麗だったし…

そんなことを考えながら『はぁ…』と大きなため息を吐く。

瞬間、

後ろから誰かに腕を引っ張られ、

バランスを崩す。

「わっ…!ごめん!!」

僕の腕を引っ張って転ばせた犯人は畑葉さんだった。

「あと置いてちゃってごめん!!」

「でも初霜見つけたから!一緒に行こ!!」

そのまま僕の腕を掴んでどこかへと連れていく。

遠くから見たらただの誘拐でしか無い。




「ほら見て!!」

そう言って案内された場所はまさかのあの桜の木だった。

いつもの場所。

大きな桜の木が生えた丘。

「綺麗でしょ!」

畑葉さんが指さしている方は桜の木では無く、

地面に生えている草だった。

クローバーや小さな花。

他にもタンポポなども生えていた。

明らかなる季節外れ感。

タンポポは春に生える花なのにも関わらず、

今生えているのはおかしい。

桜が枯れないのは置いといて、この小さな花までもが枯れないのは流石におかしい。

「綺麗だよね!!」

「そうだね」

そう返事しながらも、

僕は一切初霜を見ていなかった。

僕が狐になった日は、君の命日だった。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

141

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚