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ギルドというのは、どうしてこうも人が多いのだろう。
私は受付前で、どっと疲れていた。
「というわけで、辰夫。
あんた登録方法調べてきて。私、字読むのだるい」
私が言うと、辰夫が頷いた。
「かしこまりました。……その殻、お預かりしましょうか?」
「取れないって言ってんでしょーが!!」
*
辰夫達が確認してきた情報によると、
冒険者になるには、登録用紙に自分の種族やレベルを書いて
提出する必要があるようだ。
私たちは早速登録用紙に記入を行い、受付に提出した。
受付嬢が書類を見て、顔を真っ青にした。
「れ、レベル300!?」
私がきょとんとして聞く。
「高いのそれ?」
「た、高いなんてものじゃないです!」
受付嬢が声を上げた。
「ギルドのエースでもレベル100に行くか行かないかですよ!?」
エスト様と辰夫と辰美が顔を見合わせ、揃って頷いた。
「「「へぇー」」」
全く理解していない3人の返事だった。
*
【サクラ / 美しい鬼族 / レベル300 / 備考:Fカップあります。】
「えと、サクラさん。
備考欄の部分ですが……
装備してる背中の殻のサイズだと注釈をお願いします」
「ち、ちがうし!! 殻の話じゃないし!!
ここ(胸)の話だし!!」
私が抗議すると、受付嬢は無言で首を横に振って言った。
「……カキナオシテコイ」
*
【辰夫 / 竜人族 / レベル330 / 備考:優しくされたい。】
「……人生で何があったんですか?」
受付嬢が心配そうに聞いた。
「……今はとても幸せです」
辰夫が反射で答える。声は震えていた。
*
【辰美 / 竜人族 / レベル250 / 備考:サクラさんLOVE♡】
「……えっと、恋愛感情って……
登録の必要ありましたっけ?」
受付嬢が困惑している。
「全身全霊の必要があります!」
辰美が元気よく答えた。
ちなみに辰美は、移動中ずっと私の殻を磨いていた。
*
【エスト / 魔人族 / レベル100 / 備考:魔王だよ☆】
「……えっと……ま、魔王!?」
受付嬢が固まった。
「えへん!」
エスト様が胸を張る。
「「「えッ!?」」」
私と辰夫と辰美が同時に叫んだ。
「……う!……受付のお姉さん……
ち、ちょっと待ってくださいね!」
私が慌てて言う。
ゴゴンッ!
背中の殻がカウンターにぶつかったが、無視だ。
「あははは……エストちゃん?
……ち、ちょっとこっちに!」
私はエスト様の登録用紙を回収すると、
エスト様をギルドの隅に連行した。
ズズズ……ズズズ……
殻を引きずる音が、静まり返ったギルド内に響く。
周囲の冒険者たちが振り返った。
「……小娘ッ!バカだバカだとは思ってたけど!?
あんたバカなの!?」
私が小声で叫ぶ。
「暴言がすぎるよお姉ちゃん!?
一番バカみたいなのはその殻を背負ってるお姉ちゃんだよ!?」
エスト様が私を二度見。
「ぐふッ!?ど正論!?
いや、そんなことより、魔王なんて書いたらパニックになるし、
何よりも命を狙われるわよ?」
「だ……だって嘘はついちゃダメなんだよ?」
エスト様がキラキラした目で言った。
「……ぐぅ……た、正しい……そうなんだけど……
ここはちょっと誤魔化さないと
エスト様の命が危なくなるのよ」
私が説得すると、エスト様が頷いた。
「そっかー……わかったよー……」
(なんでこんな純粋な子が魔王なのだろう……?)
私は心の中で呟いた。
*
ズルズル……
そして私は受付に戻り、訂正した書類を出した。
殻を引きずる音に、受付嬢が少し眉をひそめた。
「ごめんなさいね。
この子は今、そういう時期なだけです……
ほら、中二的な……」
私がフォローすると、受付嬢は気の毒な顔でエスト様を見た。
「あぁ……それなら仕方ないですね……」
「?」
エスト様がキョトンとしている。
「では、皆さん書き直しをお願いしますね?とくに……」
受付嬢が、再び私の胸を見ながら言った。
「…………ッッ!!」
その瞬間、私の中で何かがプツンと切れた。
痛い。胸が痛い。物理じゃない、精神の方が。
背中の殻より重い何かが、私にのしかかる。
「う、うるっっっさいわねぇえええッ!!!」
私は受付カウンターを両手でバン!と叩いた。
ゴゴンッ!
背中の殻がカウンターにぶつかる。
ガシャーン!!
隣の受付のペン立てをなぎ倒す。
突然の爆発に周囲の視線が一斉に刺さる。
「わかってるわよッ!!私が!
Fじゃないことくらいッ!!」
叫ぶ。叫べ私。
「……自分が一番よくわかってるんだよぉおおおッ!!!」
涙が勝手に出てくる。
悔しい。恥ずかしい。でも負けたくなかった。
全世界のAのプライドが今!
私の双肩(と背中の殻)に掛かっている気がした。
──今こそ取り戻すんだ。矜持を。
「でもさ!?見栄張っちゃいけないの!?」
行け私。言ってやれ!
「なあッ!!あんたたちだって!!
鏡見る時だけちょっと顎引くじゃんかよぉおお!!」
「……見栄張ってんの私だけじゃないじゃん!!」
泣きながら叫びながら、私は天に向かって手を伸ばす。
「……ムダ様……!!力を貸してッ!!」
心の中のムダ様が語りかけてきた。
『見栄?ああ見栄だよ!!
でもそれで誰かが笑ったんなら、
それはもう文化だろうがよォ!!』
ムダ様の語録が、頭の中で鳴り響いた。
それは……私を守る最終防壁(シェルター)。
背中の殻よりも硬い、心のシェルターだ。
「そうよ!!これは文化よ!!」
叫べ。止まるな。止まると死ぬ。
「Fカップという概念は!!!
あってなくても存在してんのよォォッ!!」
「この備考欄のFカップ、面白いと思った!?
笑ったでしょ!?」
「じゃあもうこれは文化!!Fは文化ッ!!!
私は文化遺産なのよォオオ!!」
「失笑です」
受付嬢がメガネをクイッ。
「そして!Fって言ったってさぁ!?」
私が必死に言い訳を考える。
「……実際は Faith(信念) の F とかさぁ!?」
エスト様が無言で首を横に振り続けている。
「Freedom(自由)のF!?」
首を横に振り続けている。
「Future(未来)のF!?」
まだ振っている。
「Fire(情熱)のF!?」
振り続けている。
「……ファ、ファンタジーのF……?」
小さく、弱々しく。
それでも振っている。
「……フ、フロンティア・スピリットのF……」
最後の断末魔だった。
「お姉ちゃん……もうやめよう……?」
エスト様が真っ直ぐな目で私を見ていた。
「……は、はい……ごめんなさい──」
……その時。
ギルドの受付机に置かれた他の登録用紙がチラッと見えた。
【冒険者ハンス / 人間 / Lv12 / 備考:モテたい。ぱっちり二重だろ?】
【冒険者クララ / 獣人 / Lv8 / 備考:父親がギルドの重役】
【冒険者ゴリラ / ゴリラ / Lv45 / 備考:二足歩行可】
「……見栄張ってんの私だけじゃねーじゃん!!」
その瞬間、私は確信した。
“ここで叫べば、世界は一つになる”と。
「文化だ文化ァァァ!!!」
私は叫んだ。
──しかし。
周囲の冒険者たちは、スッ……と距離を取った。
誰も呼応しない。
誰も笑わない。
ただ、静かに、私から離れていく。
「……え?」
私は空回りしていた。
孤独に、暴れていた。
「黙れ」
受付嬢が静かに、しかし強く言った。
私は親指を立て、ゆっくりと殻に沈んだ。
──私の文化は、滅びた。
*
最終的に登録情報はこうなった。
【サクラ / 美しい鬼族 / レベル300 / 備考:Fカップあります。…か?(問いかけ)】
【辰夫 / 竜人族 / レベル330 / 備考:優しくされたい。と…思っていた時期がありました…今はとても幸せです。】
【辰美 / 竜人族 / レベル250 / 備考:サクラさん全身全霊LOVE♡】
【エスト / 魔人族 / レベル100 / 備考:魔王だよ☆ (※そういう時期)】
「……えと、うーん……うん!うん!……はいッ!」
受付嬢が書類を重ねてトントンしながら言った。
「それではこちらで冒険者としての登録は完了です」
「この後は皆さんの強さを確認する為の実技試験を行います」
「色々言いたいけども!
めんどくさいと判断したリアクション!」
私は受付嬢の微妙な表情を見逃さなかった。
この受付嬢、なかなかやりおる。
「それよりも……実技試験があるのね……」
私が聞くと、受付嬢が頷いた。
「はい。虚偽のレベル報告をする方が稀にいまして……
それを防止する為です」
「あぁ。なるほど……」
「試験はギルドマスターと模擬戦をしていただく、
実戦形式となります」
受付嬢がそう説明した時、1人の男がやってきた。
「よっしゃ来たな!モンスター領主撃破組!」
男が豪快に笑う。
そして、私の姿を見て目を丸くした。
「うおっ!? すげぇ装備だな嬢ちゃん!
その背中のデカいやつ、
伝説の『アダマンタイト・シェル』か!?
動けるのかこれで?防御極振りとは見上げた根性だ!」
ギルドマスターがコンコンと殻を叩く。
「おお!良い音するな!これは本物だ!」
(本物のヤドカリだけどね……)
私は心の中で呟いた。
男は勝手に勘違いしてくれた。
呪いです。とは言えなかった。
「いやもうウチじゃ君ら”地獄級”で登録されてるからな!
これは楽しみだな!
俺は元・S級冒険者モブグリム!」
「ここのギルドのマスターだ!宜しくな!」
ギルドマスターが自己紹介した。
「はい。宜しくお願いします」
私が答えながら、心の中で呟いた。
(……うーん…大丈夫かな?)
私はギルドマスターの命の心配をした。
(つづく)
この日、文化は私の中で生まれ、砕け散った。
──でも、そのカケラが世界をちょっとだけ明るくしたなら、それでいいんだ。
──【今週のムダ様語録】──
『見栄?ああ見栄だよ!!
でもそれで誰かが笑ったんなら、
それはもう文化だろうがよォ!!』
解説:
他人に見栄を張るのは悪いこと?
──いや、違う。
ムダ様いわく、”誰かの心をちょっとでも和ませたなら、もはや文化である”とのこと。
つまり、サクラの見栄も、読んだ受付嬢と読者が笑った時点で”芸術”と化す。
本人がそれを本気で信じていようがいまいが、笑わせた時点で勝ち。
泣きながら怒鳴りながらでも、それを貫いたその姿勢に拍手を送りたい。