テラーノベル
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仁人と手を繋ぎ、どれくらいの時間を歩いただろうか。
生い茂っていた木々が、次第に疎らになっていき、森の濃さが薄れてゆく。
闇が途切れ、出口の明かりが見えた瞬間、少し痛いくらいの力で俺の手を握りしめていた仁人の手が緩んだ。
「お、おわった~……。」
仁人は、どっと力が抜けたようで、その場で膝に片手をついた。
「お疲れ様、仁人。 」
「ほんっと意味分かんない……肝試ししようとか言ったの誰だよ…。」
余程怖かったのだろう。
俺の手をもう片方の手で優しく握ったまま、むくれながら小声でブツブツ文句を言い始めた。
柔らかそうな頬を膨らませ、不機嫌そうに唇を尖らせる。
不貞腐れた顔でさえ、愛おしく感じた。
「もーそんな怖い顔しないの。ほら、早くみんなのとこ行こ。」
俺がそう声をかけると、俺の手から、するりと仁人の指が解けかかる。
俺は、反射的にその手をもう一度握りしめてしまった。
「はや、とくん?……手、もう離して大丈夫だよ?」
「あっ、ご…ごめん。」
仁人の声で我に返った俺は、ゆっくりと手の力を抜く。
それでも、なかなか指を解くことが出来ない。
もう離さなきゃいけない事は分かっているのに、体が素直に言うことを聞かなかった。
ただ、手を離す事がこんなにも名残惜しいだなんて。
絶対に、他の人ならこんな事思わない。
今目の前にいるのが仁人だから、ずっと触れていたいと思うのだろう。
一向に手を離すことの無い俺を、目を丸くして不思議そうに見つめてくる。
困惑している表情も可愛いなんて。
いや、さっきの不機嫌な顔も、肝試し中の怯えている表情も、からかうとすぐに拗ねる所も。もちろん笑顔だって。
全部が全部、仁人だから可愛いと思うんだ。
仁人との関係を壊したくない、そう思って胸の奥にしまい込んだ想いが少しずつ溢れてくる。
このまま、連れ去ってしまいたいなんて考えてしまった。
俺の手の中にまだある、小さな手を再び握りしめる。
「仁人。」
「……なに?」
「夜、寝る前の自由時間さ、俺に少しだけ時間ちょうだい。」
「別にいいけど…どうしたの?」
「俺多分、仁人に話さなきゃいけないことがある。」
「今じゃダメなの?」
「今じゃ…無いかな。後で、ゆっくり話したい。」
「わかっ、た……。」
未だに戸惑いを隠せていない仁人の手を、そっと離す。
「ほら、みんなの所行こ。」
仁人に優しく声をかけ、ゆっくりと集合場所へ足を進める。
ふと視線を落として見えた仁人の横顔は、月明かりに照らされていて、何だかとても儚くて消えてしまいそうだった。
クラス毎に夕飯と風呂を済ませ、本日最後の自由時間になる。
枕投げする者、部屋の隅で数人固まって内緒話をする者、ふざけ半分で先生の部屋に行く者。
みんなそれぞれ、好きに過ごしていた。
そんな中、俺は真剣な面持ちで仁人がいる部屋に向かった。
扉の前に立ち、一呼吸置いてからノックする。
仁人が出てくるまでほんの数秒なのに、何故かひどく長く感じた。
遠慮がちに扉が開かれ、隙間から仁人が顔を出す。
「仁人、今大丈夫?」
「うん、平気だよ。それで話って何?」
「ここじゃ人が沢山いるから……外、行かない?」
「別にいいけど……」
視線だけで「行こ」と促すと、俺の半歩後ろを仁人が着いてくる。
建物を出るまで、お互い一言も発する事は無かった。
玄関から数歩の所にある石畳に腰掛けると、一人分の感覚を開けて仁人が横に座る。
一切言葉を紡がない俺に、仁人はどうしていいか分からなそうな様子だった。
そっと口を開き、俺が言葉を落とす。
「林間学校、あっという間に終わりそうだね。」
「そうだね。俺なんて半日寝てたからほぼ記憶ないよ 笑」
「でも仁人だけじゃないよ?俺も寝ちゃってたし。」
「あ…/// うん、そうだ、ね…////」
話の途中で、仁人は急に俯いて膝の上で指をいじいじと弄り始めた。
俺が寝てる合間に何かあったのだろうか。
かすかに引っかかったが、俺はそのまま話を進める。
「山奥とか勘弁って最初は思ってたけど、星も月も綺麗だし。来てよかったな俺。」
「……おれも、勇斗くんとこんな綺麗な空を見れただけで、来たかいあったかも。」
そう言いながら、仁人は空を見上げて月に向かって手を伸ばした。
月光の青白い光の下で、天を見上げている仁人は、まるで舞台上でスポットライトを浴びているみたいだった。
「そうだ、仁人。なんか歌ってよ。最近聞いてないから聞きたいな。」
「ぅえ?…い、いまぁ?」
「俺しか聞いてないんだからいいじゃん。ダメなの?」
「だめ……じゃないけど、…じゃあ少しだけね。」
満天の夜空の下、仁人が深く息を吸う。
そして、夜の底へ歌が流れ出した。
目を閉じて、その歌声に耳を傾ける。
少し固まっていた心が、優しく絆されるのを感じた。
そしてバラードのワンフレーズが、闇に溶けていき、仁人はそっと口を閉じた。
「ありがとう。やっぱり俺、仁人の歌大好きだわ。」
「そう、かな?……なんかやっぱ、勇斗くんに褒められると照れくさいや…。」
大きな目をとろんと垂れさせ、きゅっと肩をすぼめながら、照れくさそうに笑う。
そんな仁人の笑顔が、言葉にできないほど可愛らしくて。
もう、何にも抗うことは出来なかった。
ほんの一息分、距離を縮める。
「仁人、あのね。」
「ん?なに?」
心臓が喉までせり上って来てるような感覚がして、瞼が震える。
ずっと胸の奥にあった言葉は、なかなか出てきてくれないようで、上手く文章として繋がらない。
「お、俺……仁人、…仁人の事…おれ……仁人の事が」
「えー!待って!さっきの歌ってもしかして吉田君が歌ってた!?」
必死の思いで紡いだ俺の言葉は、意図も簡単に誰かの声によって遮られてしまった。
仁人と一緒に声がした方を振り返る。
すると、そこには一人の男子生徒がいた。
コメント
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毎回、続きが楽しみでワクワクしながら待ってます 今回も、微笑ましい2人でずっと口角上がりっぱなしでした

続き書いてくれてありがとうございます😊続き楽しみにしてます!