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かかお
クラス委員長に選出され、二日経った放課後。生徒会室で各クラスの委員長同士の顔合わせが終わり、私は教室に戻るところだった。 その心はザワザワ、胃はキリキリし。不安な気持ちに押し潰されそうで苦しい。
というのも、十月末に行われる学園祭の実行委員に、二年生代表として選出されてしまったからだ。
どうしよう。男子のクラス委員の鈴木君、絶対嫌だと思うよね? 今日は急用で委員会に出れないと言っていたけど、本当は私に押し付ければいいやと思っている「声」を聞いている。
それだけじゃない。今日の委員会だって、「二年生代表は気の弱そうな私に押し付ければ良いや」と考えている声が複数聞こえてきた。
はぁ、まただ。また大変なことを押し付けられてしまった。誰かに、辛いと話したい。手伝ってと頼みたい。
だけど、教室には誰も残っていないのだろうな。南ちゃんも絵美ちゃんも。……だけど、どこか安心している自分もいる。
もし。もし、私の心を読んでいる人がいたら私のことどう思うのだろう? 性格悪すぎだよね?
そう思いながら、外より響く蝉の鳴き声に耳を傾ける。
いいな。蝉は。ただ一生懸命に鳴いて、短い人生を謳歌することだけに直向きに生きている。
人間みたいに嘘も吐かないし、嫌なことも考えない。自分のウジウジさに、泣けてくることも。
私も蝉みたいに遠くに飛んでいけたら。大きな声で鳴けたら。地上に出て一週間の命だったら。
もしそうだったら、これほど悩まなかっただろう。
校舎の四階からの景色はいつの間にかオレンジ色に染まっていた空に、見下ろせば真っ平の地面。
しばらく見つめると、まるでこちらを誘い込んでいるような錯覚を起こしてしまう。
私は人間。空を飛ぶことは出来ない。そんな当たり前のことぐらい分かっていたけど、気付けば閉められていた窓をそっと開けていた。
[うー、うー]
……え?
私は体重をかけていた両手の力を抜き、浮かせていた足を廊下の床に着地させる。
脳内に響いてきた、誰かが唸るような声。
声の主は、もしかしたら具合が悪くて苦しんでいるのかもしれない。助けないと。
先程までの考えなど吹き飛び、私は声がする方にゆっくり歩を進める。
この力は場所が近ければ近いほど脳内に響きやすく、それは耳が声を聞くのと同じ原理なんだと思う。
他の生徒は部活に勤しんでいるか帰宅しているかのようで、同じくクラス委員になった別クラスの生徒も姿が見えず、帰ったようだ。グラウンドより聞こえてくる運動部の声と聞き分けつつ、心の声がする方に向かう。
するとその声はどんどん大きくなっていき、辿り着いたのは私のクラス、二年三組だった。
夕暮れ色に染まるガランとした教室の中では男子が机に突っ伏していて、その姿は茶髪に着崩した学生服。それに左後ろの席は、確か。
長谷川くん? あれ、単に寝ているだけでは? ……でも放課後に、帰らずに……?
どうしよう。声をかけるべきかな? でも、また怒鳴られたら怖いし。
私は、またウジウジとしてしまう。
クラスメイトが苦しんでいるかもしれないのに、保身に走る。本当に酷い性格していると思う。
[苦しい……。誰か……]
今にも消えそうな、小さな声。
何やっているの私は! 助けないと!
「大丈夫!」
私は長谷川くんの元に駆け寄りその体を必死に揺さぶるけど、反応は返ってこない。
先生、先生を呼ばないと!
そのことに気付き彼から離れようとすると、突然手首を掴まれたような感覚がして次の瞬間体がふらついた。
「きゃあ!」
バランスを崩して、尻もちをつくように倒れるけど痛みはない。それはそのはず。……下にいたのは長谷川くんだった。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫?」
慌てて離れ、その体を起こそうと手を差し出すけど、彼はそんな私を呆れたような眼差しで見つめてきた。
「お前、本当にお人よしだよな?」
そう言いながらズボンを軽く叩き、自力で軽々と立ち上がって見せてきた。
「え? だって、私のせいで下敷きに!」
「何で、お前は倒れたんだよ?」
その問いに黙り込む。
あれ? どうして? 急にふらついたけど、その前に手を掴まれる感覚が……。あれ?
そうだ、手首を掴まれて引っ張られる感覚がしたんだ。それに具合が悪かったはずじゃなかったの?
私は、はっとなって長谷川くんから離れる。
その表情は硬く、目は凍り付いたように冷たかった。
やっと気付いた。揶揄われたのだと。
何とも言い表せられないザラザラとした感情に襲われた私は、前方の自席に置きっぱなしになっていた学生鞄を肩にかけ教室を出て行こうとする。
「どうして具合悪いと思ったー? 寝てるだけとか考えないのか?」
その言葉に、私は思わず立ち止まってしまった。
あ……。
どうしよう。確かに不自然だったよね? いや、大丈夫。勘違いしたで通せるから。
弱気な自分を奮い立たせようと長谷川くんに背を向けていた体を彼の方にやり、睨む勢いで見つめたら私より先に彼が口を開いた。
「お前、人の心読んでるだろう?」
「……え? え!」
あまりにも突然なことにそれ以上のことが言えない私は、開いた口を閉ざすのを忘れ、気付けば体をガタガタと震わせていた。
「分かりやすー! 嘘なり、否定なりしたら良いのに」
私を見てせせら笑う姿に、誤魔化しなど効かないのだと認めざるを得なかった。
「お願い、誰にも言わないで! こんなこと知られたら私!」
必死に頭を下げて、懇願する。
この力を知られると相手が離れていく現実をも知っている私は、そうなることが何よりも怖かった。
「分かったよ。その代わり、お前今日から俺の奴隷な?」
「……ど、奴隷!」
全てを見透かした目で私を見つめてくる長谷川くんは、逃さないと言いたげな表情で取った距離を詰めてきた。
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